不穏な動き
その場所は薄暗く視界がはっきりしなかった。そこには四人の魔族と思わしき者がテーブルを囲みながら、それぞれの椅子に座っていた。
机の上には何やら透明で丸い水晶のような物が置かれていた。
「あ〜あ、やられちゃった」
最初に声を上げたのは、ベノムと言う少々小柄な魔族だ。髪は青く、身長は百六十センチ前後と言った所だろう。
水晶にはリュウガと中級魔族の戦いが映し出されていたのだ。どうやらこの水晶は遠くの背景を映し出す事が可能なようで、かなり高度な魔法が使われているようだ。
今はちょうど魔族がリュウガに魔法で消滅されられている場面だった。
「ったく……お前が中級で充分だって言うからそうしたのに……やられてるじゃねぇか。俺の言った通り上級にしとけば余裕で勝てただろうに……」
次に声を上げたのはエゾットと言う長身で黒髪の魔族だった。
「仕方ないでしょ、あの創造神はこの世界に来たばかりだったし、それであそこまで強いなんて思っても無かったんだよ」
どうやらこの魔族たちがあの中級魔族を送り込んでいたらしい。それに何故だかリュウガが召喚者であり神職者である事も最初から知っていたようだ。
「まあいい、次殺せばいいだけの話しだ。それに奴は今回の戦いで加護を使っている。しばらくは加護を発動出来ないはず、そこを叩けば問題ない」
この魔族は加護の事を知っていたようだ。つまり神界の事や神職の正体についても既に知っていると言う事。それはつまりこの魔族が神職者という事になる。またこの場でそれを口に出していると言う事は他の三人も全員が神職者だと言う事になる。
「まあ、エゾットの言う通りね。加護の効果が復活してしまう前に上級辺りをぶつけられたら今度こそあの創造神は終わりだわ」
彼女の名はキュール。赤髪の長髪で四人の中で唯一の女魔族だ。
「そうですね、あの創造神は危険です。いずれ暗黒神様の脅威になり得る存在まで成長する可能性も少なからずあるかも知れません。今の内に消して置かなければならないのは明白でしょう」
丁寧な言葉遣いで話したのはドレークと言う魔族だ。白髪で眼鏡を掛けている。
この四人の魔族はどうやらリュウガの事を危険と判断しているようだった。まだそこまで成長していない今の段階で早く始末しておこうと言う考えだった。
そして今度は上級魔族をぶつけようと言う算段だった。確かに上級魔族の強さは中級魔族の強さを遥かに凌ぐ。今のリュウガでは勝つ事は不可能だろう。
「暗黒神様の復活は近い。おそらくあの封印の状況を見るからに後三年以内には復活する。今の内に少しでも危険な神職者達は始末して置かなければならない」
「それに後三年で人間共を滅ぼす為に暗黒軍を再建しなくちゃならないんでしょ。で、どうなの?魔族達はどれくらい集まった?僕ら四天王が何とかしないと駄目何だし結構集まってるよね?」
この魔族達は四天王。暗黒神がいなくなってからはこの四人がここ魔界を支配している。強さは魔界の中でも屈指の実力を誇っている。
魔界は強さだけがものを言う。それ故に彼らが支配する事を認めない者など魔界には存在しない。
「ええ、その事なんですがあまり順調とは言えない状況ですね」
「そんなに集まってないの?」
「はい。現状の数は百八十五です」
「まじか、全然集まってないね」
魔族は集団行動を苦手としている。その為暗黒軍を再建するのは困難を極める。当時は暗黒神の絶対的な統率力で軍は成り立っていたが今となっては当時のようにはいかない。
無論、暗黒神が復活すれば当時のように軍は瞬く間に拡大していくだろうがそれでは遅いのだ。いつ人間達が攻めてくるかも分からない状況でのんびりとはしていられない。
それからしばらく話し合った後、別の話しに切り替わった。
「神職者達程ではないにしろ勇者も少々厄介だよね?」
「でもそこまで警戒する事はないだろ。現状ではまだ下級悪魔にも遠く及ばない程度だと聞いているぞ」
「私もそう思うわ。やはり危険となるのは人類側の神職者七人になってくるわ」
「いや、私はベノムに賛成ですね。確か勇者は成長すると加護を無効化してしまう力を手に入れると聞いた事があります。その前に始末しておいた方がいいでしょう」
どうやら勇者は成長すると神職者にのみ与えられている神の加護の発動を無効化する力を手に入れるそうだ。ベノムとドレークはその前に始末しておいた方がいいと考えているようだ。
「確かにそれは厄介だがステータスに関しては俺達を遥かに下回っている。やはり警戒するべきは神職者だろ?」
エゾットは勇者をあまり警戒していないようだった。いかに勇者が危険な能力を身に付けたとしても自分達を殺す事は不可能だと考えていた。
キュールもその発言に頷いていた。
「ま、エゾットの言う事も分かるよ。でも勇者が神職達と手を組んでしまったらどうする?厄介所の話じゃないよ」
「……確かにお前の言う通りかもな」
「そうね」
ベノムの言葉にエゾットとキュールは納得したようだった。勇者と神職者達が手を組む事になってしまえば切り札の加護が使えない。そんな状況で神職者の相手をしなければならなくなってしまう。それだけは確実に避けなければならない。
「まぁお前の事だ。既に何かしらの策はあるのだろう?」
「うん。既に手は打ってあるよ」
「相変わらず手際がいいですね」
四天王達は何故だか人類側の事について詳しく、この後も勇者を含む召喚者達について色々と話し、また神職者達について話し合い始めた。
「で、人類側の神職者はどれぐらい調べがついてるの?ドレーク」
「では、現時点で分かった事をお伝えしましょう」
ベノムに聞かれドレークは話し始めた。まず最初は火炎神についてだ。火炎神にはリュウガと同じように魔族をぶつけたそうだ。リュウガの元には中級魔族を送りつけたが、火炎神の元には上級魔将を送りつけていた。しかし呆気なく返り討ちに遭っていた。
他の神職者達にも同様に上級魔将を送りつけていたが同じく返り討ちにあっていた。
「やはり上級魔将程度では神職者には敵わないか……」
「そうですね。やはり我々が直接手を下さなければ葬る事は出来ないでしょう」
「そうなると手っ取り早く倒せるのはまだ成長途中の創造神のみとなるか」
「でしょうね」
どうやら四天王達は自らが動く事を面倒くさがっているようで神職者の中でもまだ成長段階であるリュウガを先に消してしまおうという考えに至った。
確かにリュウガはまだまだ経験が浅く、ステータスもまだ神職者にしては低いと言わざるを得なかった。
「それじゃあ、次は創造神に上級魔族をぶつける。これでいいね」
「問題ないです」
「ええ」
「右に同じだ」
ベノムの決定に全員が賛成した。これによりこれから先、リュウガ達に新たな危機が迫る事となってしまった。
だがリュウガ達はまだこの事を知らない。




