異世界召喚
教室が光り輝きだしオレは両目を閉じ、その数秒後ひどい眠気が襲い眠りについた。他の生徒達も全員同じく眠りについた。
それから数分経ちオレは目を覚ました。他の生徒達はまだ眠ったままだった。周囲を見渡すとそこには見たこともないような景色が広がっていた。
まず最初に目に入ってきたのは空を飛んでいる見たこともない翼の生えた生き物だ。見た目はよく物語にでてくるような竜に似ている生物だ。それから目の前の壁には見たことのない文字が書かれている。
よくよく周囲を見渡してみるとどうやらここは大理石のような物で囲われた巨大な広間らしい。
オレがしばらく周囲を観察していると他の生徒達も目を覚まし始めざわざわと騒ぎ始めた。どうやらあの瞬間に教室にいた者達はこの状況に巻き込まれてしまったようだ。
オレはふと背後を振り返ると、そこには呆然としていた来綺、宏太、瑠璃の姿があった。どうやら三人も無事だったようだ。
「おい、この状況どうなってんだよ?」
「おそらくだか、俺達は多分異世界召喚されたんだと思う」
宏太が今の状況について聞くと、みんなより先に起きて状況を確認していたオレが答える。
「異世界召喚?そんな非現実的なことあり得るの?」
「上を見てみろ」
瑠璃がそんなこと信じられないような表情で答えるとオレは上に向けて指を指す。ほかの生徒達も一斉に上を見始めた。そして全員驚愕の表情を浮かべた。
「あんな生物地球にはまず存在しない。おそらく異世界の生物だろう」
それからしばらくすると二十人近い白い法衣のような物を着た人々が広間に現れた。その内の一人、集団の中でも特に豪華な衣装を纏い王冠を被った六十代くらいの男性が進み出て喋り始めた。
「ようこそ、ナーベラルへ。私はこの国、ナーベラルの国王の地位に就いているゼガルド•ナーベラルと申す者です。以後よろしくお願いします」
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現在オレ達は場所を移り、縦に十五メートルほどはありそうなテーブルが中央に設置された大広間に移動していた。
ここに案内されるまでにいくつかわかったことがある。まず今いるこの場所は王城だということだ。廊下には一面レッドカーペット、途中で見た玉座の間、さらにはこのゼガルドという男が国王であることからここは王城だとわかる。
そしてこの部屋はおそらく会議か晩餐会を行う場所ではないだろうか。まず上座に近い方から秋先生が座り生徒達は適当に座っていく。
全員が着席すると、カートを押しながらメイドさん達が入ってきた。美女、美少女のメイドばかりでクラスの男子のほとんどは彼女達を凝視していた。それを見た女子達は呆れた目をしていた。
全員に飲み物が行き渡るのを確認するとゼガルドが話し始めた。
「まずは私たちの勝手であなた方をこの世界に召喚したことを深くお詫び申し上げます。なぜあなた方を召喚したのか一から説明いたしますので、最後までお聞きください」
要約するとこうだ。
まずこの世界には人間族、魔族、亜人族、精霊族の大きく分けて4つの種族が存在する。
人間族は西一帯、魔族は東一帯を支配しており、亜人族は世界各地に散らばっていて、精霊族は精霊にしか入ることの許されない精霊界と言われる場所で生きているらしい。
人間族と魔族は数百年前までは戦争を続けていたらしい。
その戦争は最初は人間族は劣勢だった。しかし、突如として一人の人間族の剣士が現れ魔族を圧倒した。その剣士は剣神と呼ばれるようになり劣勢だった戦況は優勢になろうとしていた時だった。魔族側のトップ、暗黒神デスアークという最強の魔族が現れた。
暗黒神の力は強大で剣神ですら倒せないすことのできない相手だったそうだ。そこで剣神は暗黒神を封魔石に封印し、戦いは終戦した。
しかし、その封印が近い内に解けそうだと言うのだ。当時の剣神はもういなく、暗黒神が復活してしまえば今度こそ人間族は終わりなのだ。
「あなた方を召喚したのは近い内に復活してしまう暗黒神を倒すためです。古くから異世界からきた者にはこの世界の人間の数倍から数十倍の力が宿るとされています。どうかこの世界の人類を救うために力を貸していただきたい」
ゼガルドは深く頭を下げた。
話を聞く限りどうやらこの世界の人間を守るためにリュウガ達を召喚したようだ。急にそんなことを受け入れられるはずもなく突然立ち上がり抗議する人が現れた。
秋先生だ。
「ふざけないでください。あなた達の勝手でこの子達をそんな危険な目に合わせられる訳ないでしょ!そんなこと許しません!ふざけたこといってないで早く帰してください!この子達の家族も心配しているはずです!あなた達のやってることはただの誘拐です!」
今まで聞いたことのないほどの声量で怒る秋先生。彼女は二十四歳で美人教師だ。社会科の教師で生徒達から非常に人気がある。彼女は普段はあまり怒ったりしないのだが、これほど怒っている姿を見るのは初めてだった。
今回のあまりに勝手な異世界召喚の理由に普段優しい秋先生も怒りが抑えられなかったのだろう。しかし、次のゼガルドの言葉に場が凍り付く。
「お気持ちはお察ししますが、あなた方を帰すことは現状では不可能なのです」
場が静まる。この場にいるほとんどの生徒がわけもわからないような表情を浮かべ唖然としていた。
「不可能なわけないでしょ!?こっちの世界に喚べたなら帰すこともできるでしょう!」
秋先生が叫ぶ。
「この召喚魔法は一度使ったら数年から数十年使えなくなってしまうのです。なのであなた方が帰還できるのは早くても五年は先になってしまうでしょう」
その言葉を聞いて周りの生徒達も騒ぎ始めた。
「ふざけんな!帰れないってなんだよ!」
「いやよ!戦争なんていやよ!」
「なんで俺達がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」
慌てふためく生徒達。しかしそんな中、オレは平然としていた。普段からスリルを求めているオレは今この現状でも内心ではワクワクしていた。
(面白くなってきた!)
しかし最悪なのは召喚者が奴隷のように扱われ命令に従わなければならないことだ。
未だに周囲の騒ぎが収まらない中、一人の生徒が立ち上がり話し始めた。
彼の名前は星宮勇輝。勇輝はこのクラスの学級委員で正義感が人一倍強い。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。
「皆、ここで騒いでも帰れない事実は変わらないんだ。俺は戦おうと思う。この世界の人々が危機にあるというなら俺はそれを放っておく事なんてできない。それに暗黒神を倒せればもっと早くに帰れる方法が見つかるかもしれないだろう?」
勇輝がそう宣言すると絶望の表情だった生徒達が冷静さを取り戻し始めた。勇輝の凄いとこは自分が宣言したことが周りにも影響を与えてしまう所だ。いわゆるカリスマというやつだ。
「しょうがねぇーな。やってやるよ」
「そんなこと言われたらやるしかねぇよな」
「しかたないわね」
勇輝の言葉にクラスメイト達が賛同していく。
「あなた達、戦争に参加する意味わかってる?」
そこへ秋先生が全員に問いかける。生徒達のことが心配なのだろう。それはそうだいくらこの世界の人間より力が数倍から数十倍あるとはいえ生徒達はまだ子供、教師としてはそんな危ないことをして欲しくないのだろう。
「大丈夫ですよ先生。俺達には大きな力があるみたいですし、皆で協力すれば大丈夫です」
「はーわかったわ。但し命の危険を感じたらすぐ逃げることいいわね」
大きくため息をついて秋先生は危険な時は逃げるように言い渡した。どうやら生徒達の活気に押さられて説得を諦めたようだ。
生徒達がやる気に満ちている中、オレだけは気乗りしていなかった。
(面白くなってきたがやはり気にいらないな。あのゼガルドとかいう国王。召喚してもらえたのはありがたいが、要は兵士として戦えってことだろ、そんなんじゃ自由に動けないじゃねぇか。こうなったら隙を窺って抜け出すしかないな)
そんなことを考えながらオレはゼガルドを観察していた。彼は実に満足そうな笑みを浮かべ頷いていた。まるで自分が思い描いていたとおりにことが進んだかのように。