戦闘狂
「てめぇ!あいつが罪人だと!どう言う事だ!」
オレはアイクの胸ぐらを掴み睨みついた。ここまで怒っている顔は来綺達も初めて見たようで驚いていた。
「そのままの意味だ。それに奴らは既に死刑が決まった罪人だ、何も問題はないはずだが?」
「ああ確かにあんたの言う通りだよ。だがその事をリリスは知っているのか?」
「いや何も伝えていないから知らないはずだ」
「だろうな。だがあの血の量を見てリリスも少しは勘付いているはずだ」
オレは本来、他人がどうなろうが自分には知った事ではないといった性格だ。しかし今回試験を受けているのはリリスだ。罪人を事前報告なしに紛れ込ませている事に腹が立っていた。
そしてオレの思った通り、フィールド内ではリリスが目の前に倒れている男が試験官ではない事に気付いたようだ。
「そろそろ手を離してくれないか」
アイクがそう言うとオレは手を離した。
「君が怒るのも分かる。だがこれは罪人に最後のチャンスを与えているのだ」
「チャンスだと?」
「ああ、罪人には試験を手伝ってもらう代わりに生きる為の最後のチャンスを与えた。試験に挑戦する者が重症を負っている罪人を見事に治癒出来れば晴れて罪を帳消しにすると言う物だ」
そうギルドは国から死刑宣告を受けた罪人をもらい試験を手伝ってもらっていたのだ。無論、国はその試験の内容を知っており了承している。
「国が了承している以上これ以上文句は言えないが、試験を受ける奴らはどうなる?自分が治癒出来なければ例え罪人でも自分のせいで死んだ。その罪悪感が少なからず残るんじゃないのか?」
「そこは問題ない。こちら側が対策をしている」
「まあ、それなら問題はないが……」
オレはその言葉を聞いて納得した。オレは試験を受けた奴らと言っていたが内心、顔も知らない他人が罪悪感を覚えようがそんなの知った事ではない。
ただリリスの為を思って怒っていたのだ。もしリリスがあの罪人を治癒出来なければ少なからず罪悪感が残るのではないかと不安だったのだ。
「その……何だ、急に怒鳴ったりして悪かったな」
「いや、こちらこそ申し訳ない事前に事情を話してなくて」
オレとアイクはお互いに謝罪をした。
「お前らも悪かったな。驚いただろ」
「そりゃあねぇ。リュウガがあそこまで怒ってるの見た事なかったから」
「まあ恐ろしい顔なら何度か見た事あるが」
「ふっ違いない。それはそうとリリスの試験がまだ途中だぞ」
来綺がそう言うと全員、顔をフィールドの方へと向けた。
リリスは懸命に回復魔法を行なっていたがやはりあの状態から治癒を完了させるのは難しい。
(なら、全体を直そうとするんじゃなく……)
リリスはやり方を変え、一箇所ずつ順番に直していく方法を取った。すると見る見る治癒が完了していった。
数十秒後、治療が完了した。残り時間は僅か三秒しか残ってなくギリギリだった。
「……はぁ、疲れた」
リリスは試験を終えるとフィールドから出て来た、その表情は非常に疲れた様子だった。
「お疲れリリス。それにしても凄かったな最後の回復魔法は。俺でも多分あそこまで正確には治療出来ないぞ」
オレはリリスの回復魔法に感心していた。最後の治癒魔法、もしオレの場合なら圧倒的な魔力量で全体に魔法をかけても問題なく治療出来ていただろう。
しかしリリスにはオレのような魔力量はなく、今までの方法では駄目だと確信し、一箇所ずつ順番に直していくというやり方を考えた。
「うん、何とかギリギリだったけど」
「やったわねリリス。これで合格は確定だね」
「ありがとう瑠璃」
リリスはかなり疲労が溜まっており立っているのもやったのようだった。もう魔力が殆ど残っていないのだろう。
それを見かねた瑠璃がリリスに肩を貸し椅子に座らせた。
ちなみにだが、あの罪人はこの地下で強制労働させられるそうだ。罪人の血死量の傷を治した者は今回が始めてだったので初の試みだ。
「さて、最後は俺だな」
「少し準備をするから待っててくれ」
無事に四人の試験は終わり、残すのはオレのCランク昇格試験のみとなった。
Cランクの昇格試験は試験官一人との試合形式での試験となっている。この程度の試験なら楽に合格出来るだろう。
しばらく待っているとアイクが戻って来た。どうやら準備の方が整ったようだ。
「では、入ってくれ」
「ああ」
フィールド内に入ると中には試験官と見られる男が既に立っていた。
「では、Cランク昇格試験始め」
アイクの合図と共に試験が始まった。
オレは早く勝負を決めようと相手の懐に入り全力で腹に拳を放とうとした。しかし相手は紙一重でオレの攻撃を躱したのだ。
(おかしい。たかだかCランクの昇格試験でここまで素早く動ける試験官を用意するか?確かめて見るか)
オレは相手の力量的にCランクの昇格試験にしてはレベルが高いと判断した。そしてすぐさま鑑定を発動しようとした。だが……
(ふむ、鑑定無効か?ならこうするまでだ)
するとオレは相手の魔法攻撃を躱しながらある能力を数秒で作成し終えた。作成した能力は絶対鑑定。この能力ならば例え鑑定無効を持っていようが無意味になる。そして再び鑑定を発動する。
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中級魔族 レベル 85
種族 魔族
攻撃力 1950
体力 1900
俊敏性 1931
魔力 2036
魔法耐性 2001
物理耐性 1997
能力:魔術・剣術・擬態・火水闇属性適性・光属性耐性・魔力感知・気配感知・飛行・魔剣作成(中)・俊敏性向上・攻撃力強化・鑑定・鑑定無効・自動治癒・言語理解
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やはりオレの感は当たっていた。この試験官は人間に化けた魔族だった。
能力も今までの相手とは比べものにならない程高かった。しかし中級魔族でこのステータス。これ以上の魔族だとどれ程強いのだろうか。
「おい!貴様魔族だな」
「ほう、気付いたか。流石はあの方達が危険視しているだけはあるようだな」
「あの方だと?」
「貴様が知る事はない。何故ならここで私に倒される運命なのだからな。それとバレてしまったのならこの擬態はもう必要ないか」
次の瞬間、魔族は擬態を解除し本来の姿へと戻った。その姿を見たフィールド外の者達が一斉に声を上げた。
「な!魔族だと!どう言う事だ!」
試験官の中に魔族が潜んでいた事にアイクは困惑していた。近くにいた他の試験官も同様だ。
「試験は一時中断だ!戦える奴は今すぐリュウガの加勢だ。俺もいく」
「了承です」
アイクがそう言うと近くにいた試験官達は魔族と戦う為にフィールド内に入ろうと準備を始めた。
どうやらこの緊急事態でオレの昇格試験は一時中断にするようだった。
「おい!ギルドマスター達は魔族と戦おうとしてるみたいだぞ」
「あ〜あ、そんな事したらリュウガが怒るってのに」
「宏太の言う通りね。今のリュウガの表情見てよ、戦いの中であんな表情してるの初めて見たわ」
「うん、凄く嬉しそうな顔してる」
そう、来綺、宏太、瑠璃、リリスの言う通り今フィールド内ではオレの表情が初めての強敵を前にして、笑みを浮かべていた。
そんな事とは知らずにアイクを含めた十人の男がフィールド内へと入って来た。
「リュウガ!我々が加勢する」
その言葉が耳に入って来た瞬間、つい先程まで笑みを浮かべていたオレの表情が一瞬で激変した。
「おい!ギルドマスター。今なんつった、もう一回言ってみろ」
「我々も加勢す……」
「加勢するだと…ふざけんじゃねぇ…これは俺の戦いだ。邪魔しようってんならテメェらからぶっ殺すぞ!」
オレの表情は怒りに満ちていた。それも当然だろう、オレは何故だか強敵と戦う事に喜びを感じるのだ。おそらく戦闘狂というものだろう。戦いを邪魔されるのは腹立たしいのだ。
その表情を見た瞬間、アイク達は何も言い返せなかった。あまりの怒気に恐怖を感じたのだ。そしてすぐにフィールドを出た。
「もう用は済んだか?」
「ああ、すまねぇな。邪魔が入っちまった」
「しかし、変わった奴だな。いくら強いからって魔族に一人で挑もうとは」
「俺は戦いは基本、一対一でやりたい主義なんだよ」
「そうか。では始めるとしよう」
「ああ」
オレと魔族は次の瞬間、両者共にフィールド外の誰にも見えないような速度で最初の攻撃を仕掛けた。
この戦いの中でオレの全力が見れるかも知れない。来綺達はそんな事を思いながら、オレの戦いを真剣な表情で見ていた。




