9.王家の食卓
「もう昼か。フレア、昼食はどうしていたんだ?」
「普段ですか? えっと、食べたり食べなかったり……です」
「……どこで食べてたか知りたかったんだが……」
「あー、大体は研究室でそのまま」
仕事の手が離せなくて、片手で仕事をしながら片手で昼食をとる。
なんてことも頻繁にあった。
ゆっくり昼食を食べられたのっていつが最後だろう?
思い出せないから、最初からなかったような気もしてきた。
「じゃあ、今日は俺と一緒にどうだ?」
「殿下と?」
「嫌か?」
「そんな! 光栄です」
殿下と一緒にお食事……。
私なんかがご一緒していいのかと不安になる。
そんな私に殿下は言う。
「ならよかった。ちょうど一人で食べるのは寂しいと思っていたんだよ」
「お一人なんですか? 陛下やクラウス殿下がご一緒なのかと」
ユリウス殿下の御父上である、この国の現国王アーザルド・ユークリス様。
第一王子のクラウス・ユークリス様。
そしてお二人のお母様であるミストリア王妃。
名だたる王族の方々と同じ場所で食事をするなんて、考えただけでも緊張してしまう。
そう思って気を引き締めていたんだけど、どうやら違うらしい。
「父上は外交で隣国へ行かれている。兄上も視察で別の街、母様はもとから王都では暮らしていないよ」
「そうだったんですね」
「ああ、だから変に緊張しなくていい。俺と君の二人だけだ」
「二人……」
それはそれで緊張する。
第二王子と二人きりで食事って……現実味がないよ。
ドキドキしながら殿下に続く。
地下からあがり、宮廷を出て王城へ。
帰り道も見知った顔とすれ違ったけど、所長とは会わなかった。
会えば小言を言われると覚悟していたんだけど、杞憂に終わったようだ。
殿下は厨房へと足を運んだ。
シェフの方に挨拶をすると、彼は伝える。
「昼食を二人分頼む。フレアは苦手なものとかあるか?」
「いえ、特には」
「じゃあお任せでいいな」
私はこくりとうなずく。
「かしこまりました。少々お待ちください」
シェフが頭をさげた。
先に食事をする部屋へ赴く。
異様に長いテーブルに、十席以上の椅子が並んでいる。
奥の一番大きな椅子は、たぶん陛下が座る席なのだろう。
「あの、私はどこに座れば……」
「俺の向かい側でいいよ。兄上はいないから」
「ク、クラウス殿下の席なんですか?」
「ああ。別に気にしなくていいぞ? そんなことで怒るような人じゃないから」
そう言われてもしり込みしてしまう。
第一王子の席を借りる……なんて恐れ多いのかと。
ただ、いつまでも立っているわけにはいかず、殿下に大丈夫だと何度も説得されて腰を下ろした。
思った以上にしっかりしたつくりの椅子だ。
私が普段仕事をしているときの椅子とは全然違う。
「フレア」
「は、はい!」
「午後からのことだけど、君は休んでいていいよ」
「え、いいんですか?」
殿下は軽く頷いて続ける。
「請け負った仕事はさっき終わっただろ? 今のところ他にないし、無理して働く必要はない」
「そう……ですか」
「他の仕事に関しては、明日までに俺のほうで考えておくよ。だから今日は休め。休むことも仕事のうちだぞ?」
「……はい。ありがとうございます!」
殿下はちゃんと私の気持ちも汲んでくれる。
その後も私の緊張を和らげるために、殿下のほうから話題を振ってくれた。
気づけば話すことが楽しくて、窮屈さも消えていく。
殿下の近くは、なんだか居心地がいい。
自然と肩の力が抜けて、ありのままの自分でいられるような……。
話しているうちに時間が過ぎて、昼食が運ばれていた。
テーブルに並んだ料理に驚く。
どこかのパーティーかと思うくらい、豪華な昼食が出てきたか。
「さ、食べようか」
「い、いいんですか? これ、私が食べても」
「当たり前だろ? 君のために用意してもらったんだ。むしろ食べないとシェフに失礼だぞ」
「そ、そうですよね」
緊張してないで、しっかり味わって食べよう。
久々にちゃんとした食事をとれるんだし。
「いただきます」
パクリ、と口に運ぶ。
瞬間、はじけるようなうまみが口の中に広がる。
「美味しい」
「だろ? うちのシェフは王国一の腕だからな」
「本当に美味しいです! 人生で食べた中で一番かも」
「ははっ、そこまでか」
殿下は楽しそうに笑う。
大げさかもしれないけど、実際私はそう感じた。
食べる手が止まらない。
美味しすぎて、ここが王城の食堂だということも忘れてしまう。
「フレアが望むなら、今後も毎日ここで食べるか?」
「え、いえさすがにそれは迷惑じゃ……」
「俺は構わないよ。父上たちが戻ってきたら相談してみるか」
「は、はい」
そこまでしてもらえる驚きと戸惑いを感じながら、口の中の美味しさも堪能する。
本当に天国みたいな場所だ。
夢の中にいるんじゃないかと疑ってしまうほどに。
「ご馳走様でした!」
「満足してくれたか?」
「はい! とっても!」
「それはよかった」
殿下は立ち上がる。
楽しい食事の時間も、気づけばあっという間に過ぎていた。
「殿下は午後からどうされるのですか?」
「俺は仕事だよ」
「そうですか」
もう少し殿下と一緒に……。
「そうだ。今日の夜だけど」
夕食のお誘い?
私は期待した。
「夜も一緒に食事をしないか?」
「はい!」
「よかった。ちょうど夜は、君と過ごしたいと思っていたんだ」
「はい。私……ぇ」
そ、それって……どういう意味?
心臓の鼓動が激しくなる。
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