表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/67

8.魔導具師のお仕事

「本当について来られるのですか?」

「なんだ? 俺が一緒じゃ迷惑だったか?」

「迷惑なんてそんな! 殿下もお忙しいのに、その……私なんかと一緒に来ていただいて申し訳ないと思って」

「ははははっ、君は遠慮しがちだな」


 私の隣を歩く殿下が笑いながら言う。


「俺が興味あるんだよ。魔導具師の仕事がどんなものか」

「見たことはないんですか?」

「機会がなくてな。話だけは聞いてるよ。この国を支える重要な役職の一つだ。いい機会だし、実際にこの目で確かめたい。これも王子の務めだよ」

「大変ですね」


 何気なく私は返す。

 殿下は一言、君ほどじゃないさ、と笑って答えた。

 なんだか彼と話していると、時々彼が王子であることを忘れてしまう。

 雰囲気というか、話し方や仕草が優しくて、どこか懐かしさを感じるせいだろう。

 私たちは王城を出て、宮廷がある方角へと向かう。

 宮廷魔導具師のお仕事は、ほとんどが宮廷内で完結する。


「どうした? 浮かない顔だな」

「そう……ですね。正直ちょっと不安です」

「初めて来る場所でもないだろう?」

「……だからこそです」


 仕事のためとは言え、ここへ来るのは気が引ける。

 宮廷から出て王城へ入ったのが昨日のことだから余計に。

 たぶんもう広まっている頃だろう。

 狭い世界だから噂が広がるのも早かった。

 宮廷の敷地に入ると、見知った顔が通り過ぎていく。

 予想通り事情を知っているのか、私の顔を見て目をそらす者が数名いた。

 殿下も一緒だから挨拶はされる。

 不思議な気分だ。


 道中、私の元研究室を通り過ぎる。

 嫌でも意識して視線が行く。

 ただ不思議と、戻りたいとは少しも思わなかった。

 そうして私たちは階段を下る。

 地下へと。


「この先に魔導機関の管理室があるんです」

「ここは前に一度来たな」

「そうなんですか?」

「ああ。子供の頃に一度だけ。宮廷の中を探検していたら迷ったんだ」


 殿下は楽しそうに昔話を語ってくれた。

 どうやら殿下はわんぱくな子供だったらしい。

 今の殿下を見ていると、とてもそうは思えなかった。

 成長と共に落ち着いた性格になったのだろう。


「そうでもないさ。いまだにせっかちだってよく父上や兄上には怒られるよ」

「そうなんですか?」

「ああ。父上たちとは会ったことあるか?」

「いえ、お顔を拝見したことがある程度です」


 宮廷で働いていても、国王様や殿下と接する機会はあまりない。

 定期的に報告で面会するのは所長くらいだろう。

 そういえば、所長の姿が見えなかったな。

 いつもならこの時間、各部屋を回って仕事の進捗を確認しているはずなのに……。

 偶々会わなかっただけだろう。

 ある意味でよかったとホッとする。

 そうしているうちに階段が終わり、長い廊下にたどり着く。

 左右の壁についた照明のおかげで地下でも明るい。


「改めて思うけど」

「はい?」

「照明ってすごい発明だよな。このおかげで夜も安心だし、こういう場所でも迷わず進める。つくづく偉大だと思うよ」

「そうですね」


 この国は魔導具技術の発展と共に生活が変化した。

 王都だけでなく、国中の街の生活を支えているのは魔導具だ。

 照明、水、気温、生活用品などなど。

 私たちの生活に、魔導具は欠かせないものになっている。

 どれもこれも、先人たちが生み出し残してくれた遺産だ。

 殿下のおっしゃる通り、偉大な方々だったと私も尊敬している。

 

「私もいつか、先人たちが残してくれたような発明をしたいです」

「それがフレアの夢、か」

「はい」

「いいんじゃないか。素敵な夢だ」

「ありがとうございます。あの、殿下の夢ってなんですか?」

「俺の夢か? 俺のは……この国に住む人たちの幸せが、この先も続いてくれることだよ」


 そう言って彼は笑う。

 慈しむように、少し恥ずかしそうに。

 心が温まる。

 私の夢よりずっと優しくて、素敵な夢だった。

 

 私たちは目的の部屋にたどり着く。

 仰々しい鉄の扉をボタン一つで開き、中に入る。

 中には扉以上に仰々しい装置が設置されていた。


「ここまで入ったのは初めてだ。これが……魔導具なのか?」

「はい。正確には魔導機関といって、一般に知られている魔導具より規模が大きいものです」


 ここにある魔導機関は王都中に広がる魔導設備の中枢である。

 ちょうど見ているのは、照明の設備を統括している魔導機関だった。


「これ一つで、王都全域の明かりを担っているのか。すごいな」

「他にもありますよ。水回りとか、魔導具用の接続口に魔力を流すための装置とか」

「何台あるんだ?」

「えっと、全部で二十七です」


 地下の部屋は十。

 部屋の中に二から三台の魔導機関が設置されている。

 半数は魔力を生成し、王都中へ流す装置だ。


「そんなにあるのか? というか、それを全部一人で管理してたのか?」

「はい」

「……こんなこと今さら聞くことじゃないが、大丈夫だったのか?」

「大丈夫、ではなかったですけど、なんとかやれていました。構造はわかっていますし、ちゃんと動いているかのチェックと、細かい調整だけですから」

「いや十分大変だろ。他の仕事だってあっただろうに」


 大変ではあった。

 殿下の言う通り、他の仕事をしながらの管理だから時間をかけられない。

 移動もあって効率も悪かった。

 ただ、この国を支えている物の中枢だ。

 テキトーな仕事はできないからと、いつも最大限の集中して作業に臨んでいた。


「よかったのか? これだけでも大変だろ? 他の者たちに回しても」

「……いえ、私がやります」

「どうして?」

「私が請け負ったお仕事の中で、これが一番大切だからです」


 どういう理由であれ、私がやってきた仕事の一つ。

 人々の生活を支える大切な仕事を、急に他の誰かに任せるのは……ちょっと不安だった。

 もちろん宮廷で働く魔導具師はみんな優秀だけど。

 殿下から見せられた仕事の中から選ぶなら、ここの管理を選ぶ。

 ただそれだけだった。


「本当に真面目だな。君を見てると、なんだか自分が楽してるみたいに感じるよ」

「そ、そんなことは……」

「はははっ、いや、いい刺激になった。俺も頑張らないとな」

 

 それから私たちは二人で装置の確認を終らせる。

 終わったころには正午を超えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[一言] >人々の生活を支える大切な仕事を、急に他の誰かに任せるのは……ちょっと不安だった。 王子の立場からしたら、そこは助手を付けるくらい言うべきでは 本人が責任を持って対応するのは良いが、それと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ