61.王国の闇
「そんじゃ一旦、街で聞き込みでもするか」
「そうですね。街の人たちから話を聞きましょう。二人一組に分かれて、聞き込みをします。私は隊長が粗相をしないか見張ります」
「じゃあ私は、ダンが悪さしないか見ておくわ」
「おい」
「オイラたちを子供扱いしないでほしっすね!」
ムスッとする二人は、私から見ても子供っぽかった。
自然と組み合わせは決まり、必然的に私とネロ君はセットで行動することになる。領主様の屋敷を出てから、ネロ君はずっと難しい顔をしていた。
「大丈夫? ネロ君」
「……あの領主、少なくとも魔法使いではない。呪いをかけている本人ではなさそうだ」
「じゃあやっぱり領主様は無関係で、誰か別の人が街に呪いをバラまいているってことだね」
「……本当にそうか?」
「え?」
ネロ君は立ち止まり、前後左右をゆっくりと見回す。
「これだけ大規模に、しかも複数人に呪いをかけている。しかも気づかれることなく……そんなことが、外から来た人間に可能か?」
「それは……」
ネロ君の言う通り、難しいとは思う。
殿下の時のように一人にだけ呪いをかけるわけではなく、街の人たちに呪いをかけている。規模が明らかに異なる。
少なくとも一般人やその辺の小悪党にできることじゃないのは確かだ。
「ボクはあの領主、どうにも信用できない」
「でも、あの人は殿下のことを支持してくれているんでしょ? ガルドさんたちも信頼しているみたいだったし」
「だからこそだ。信頼を獲得しているなら、彼らの眼を欺くことはたやすい。お前はもう少し、他人を疑うようにしたほうがいい」
「ネロ君……」
逆にネロ君は疑い過ぎじゃないか、とはとても言えなかった。
ネロ君の過去を考えれば、誰よりも疑心暗鬼になるのは当然で、怪しいと思った相手を疑うのも当たり前のことだ。
「でも、もし領主様が関係しているとして、どうやって呪いを広めたのかな? 呪いを広めている人は別にいるってことだよね?」
「そうなるな。少なくとも実行しているのは別人だ。そしてここまで大規模に広めているとなると……」
ネロ君は難しい表情で考えながら辺りを見回し、視線が一か所で止まった。彼の視線の先にあったのは、街の治療院。
「――! もしかして……」
「その可能性が高い。呪いをかけるのに一番早いのは、対象に触れることだからな。触れる機会が一番多く、尚且つ自然なのは――」
お医者さんだ。
嫌な気づきで背筋に寒気が走る。病気を治すためにいるお医者さんが、もしも呪いを広めているのだとしたら……。
私たちは確かめるべく、治療院に足を運んだ。
受付の人に王都から来た親衛隊であることを伝え、治療を担当しているお医者さんの男性に話を聞くことに。
治療室で待つ男性と、私たちは対面する。お医者さんは若い男性だった。
「親衛隊の方がどうしてこちらに?」
「街で広まっているのろ、感染症について調査に来たんです。少しお話を聞かせて頂けませんか?」
「ええ、もちろんです。私たちも苦労していますから。毎日患者の数が増える一方で」
「――茶番はやめろ」
私とお医者さんの会話を遮り、ネロ君の冷たい声が鋭く刺さる。私の隣で、ネロ君はお医者さんのことを睨んでいた。
「上手く隠しているが、ボクの眼はごまかせない。お前から……呪いの気配がするぞ」
「え?」
「――チッ」
刹那、お医者さんだと思っていたその男性は目の色を変え、怖い表情で私に手を伸ばしてくる。
明らかな敵意、殺気を私たちに向ける。
しかし、その手が私に届くことはなく、ギリギリでネロ君が彼をの半身を凍結させた。
「くっ……こ、これは……」
「その程度の動きがボクに見切れないはずがないだろう?」
「あ、ありがとうネロ君。じゃあこの人が……」
「呪いを広めている犯人、少なくともその一人というところか?」
必死に氷を破壊しようとする男だが、暴れるほどに凍結はみるみる全身を覆い、気づけば首から下は完全に固まってしまっていた。
「答えろ。お前一人でここまで呪いを広めたわけではないだろう? 仲間がいるな?」
「……なんのことか?」
「惚けるな。お前か感じられる呪いの気配は弱い。この程度の力で、この規模の呪いを発生させることはできない」
「……」
「答える気がないか。ならば直接聞くとしよう」
「なっ、やめ――」
ネロ君は男の頭に触れて、思考を読み取る魔法を使おうとしたのだろう。焦る男は抵抗する。私は最初、覗かれたくないからだと思った。
「――! 伏せろフレア!」
「え?」
直後、男の身体は大爆発を起こした。
バラバラに肉体ははじけ飛び、治療室が半壊するほどの威力。近くにいた私は一たまりもないが、そこはネロ君に助けられた。
ギリギリのところで魔法の結界を張り、私を守ってくれた。
「無事か?」
「う、うん。あ、ありがとうネロ君……あの人は!」
「見るまでもない。木っ端みじんだ」
捕らえていた男性は、肉片すら残らないほど細かくはじけ飛んでしまっていた。現場には大量の血が水たまりを作っている。
ネロ君が守ってくれたおかげで、周囲の人や治療院にいた人も無事みたいだ。
ホッと胸をなでおろし、地面に転がっている金属に気付く。
「ネロ君、あれは?」
「ん?」
半分血がついているそれは、ペンダントのようなものだった。鉄製の円盤で、特徴的な文様が描かれている。
自らの尾にかみつく蛇を、無数の刃で串刺しにしている。なんだかよくわからないけど、この模様に恐怖を感じた。
この時の私は知らなかった。
私たちは、王国に潜む闇と関わってしまったことに。






