58.鈍感な魔導具師
私たちは会議室を借りて、親衛隊だけで一度話し合いをすることになった。
呪いが関係しているのであれば、殿下が抱える事情にも通じる。事情を知っているのは、ここにいる面々だけだった。
ネロが呪いについて全員に説明する。
「マジかよ!」
「事実なのですか? ネロさん」
「間違いない。ボクが呪いを見間違えることなどないからな」
驚くガルドさんとレストさんにハッキリと言い放ち、ネロ君はイリスさんに視線を向け、彼女もネロ君の視線に気づく。
「イリス、この街に入ってから体調が優れないだろう?」
「ええ、ちょっとだけ気分が悪いわ」
「――! もしかして、イリスさんも呪いにかかっちゃったんすか!」
ダンさんの一言に、その場の全員が驚愕する。
私にも嫌な予感が過る。だけど、ネロ君が首を横に振って否定する。
「安心しろ。呪いというのは、受けるのにも発動にも条件が必須となる。仮にこの街への侵入が呪いの条件だとすれば、彼女だけに症状が現れるのはおかしい」
「じゃあ平気なんすね。よかったっす」
ダンさんはホッと胸をなでおろしている。私を含めて他の面々も同じような仕草をする。
イリスさん自身が一番安堵していることだろう。
彼女は胸に手を当てて小さく呼吸をして、ネロ君に尋ねる。
「じゃあこの気分の悪さは? どうして私だけが感じているの?」
「それは、お前が魔法使いだからだ」
「魔法……呪いの魔力?」
「そうだ。魔法使いは日ごろから魔力に触れている。その関係で、普通の人間よりも魔力に対して敏感に反応してしまう。この街に漂う呪いの気配を、お前は無意識に感じ取っているのだろうな」
「そういうことなのね……じゃあ彼女は?」
イリスさんの視線が私に向けられる。
私は魔導具師だ。魔導具師になるためには複数の才能が必要になる。一つは魔法を扱う才能。もう一つは魔法を付与する才能。
魔力そのものを体外に放出し、魔力をインクのように扱って道具に付与することで、魔導具を作成することができる。
当然ながら、魔法に関する最低限以上の知識も必要不可欠だ。
魔法に携わる人間が呪いの気配を感じ取れるなら、私にも同様のことが起こるはずだと、イリスさんは考えた。
「フレアは例外だ」
「例外? それは特別という意味で?」
「……いや、単に魔力知覚が鈍い。他の才能が秀でている代償に、それ以外の面を犠牲にしている人間は偶にいる。魔導具師はその典型だ」
あまり知られていないことだけど、私たち魔導具師は、魔法は扱えるけど、魔法使いのように行使することはできない人が多い。
というのも、ネロ君が言っていた話が関係していて、私たちは魔法を使えるだけで、使いこなすために必要な才能が欠けている。
魔法を巧みに操るには、魔力を完璧にコントロールする力が不可欠であり、魔法使いなら鍛錬で誰もが向上させられる。
しかし私たち魔導具師は、魔力を体外でコントロールする才能はあっても、体内で扱う才能は乏しかった。
世の中上手くバランスが取れているもので、私たち魔導具師は魔法使いには向かない。私もその点は同じだった。
「栓を開けて水を出し、その水で絵を描くことにはたけていても、溜まっている水に触れることはできない。それが魔導具師だ」
「なるほど、そういう短所もあったのね」
「意外っすね。魔導具師って魔法使いの中でも特に才能ある人がなると思ってたっす」
「世間の認識はそうなのでしょうね。一応、私は知っていましたが」
「へぇ、つってもフレアなら、その辺も普通と違うんじゃねーかと思ったけどな」
「違うぞ」
ガルドさんの発言にネロ君が答えると、みんなの視線がネロ君に集まる。私は何を言われるのか予想ができるので、反対にそっぽを向いた。
ガルドさんが目を輝かせて尋ねる。
「やっぱ違うのか!」
「ああ、違う。フレアは普通の魔導具師の何倍も……鈍感だ」
「……え? そっち?」
キョトンとしたガルドさんがこちらに視線を向けている。無視もできない私は、頭に手を当てながら笑って答える。
「あ、あはははははは……そうらしいです」
「長所がとびぬけている分、短所も磨かれちゃったわけね。フレアらしいわ」
「お恥ずかしながらそうみたいです」
私もネロ君に指摘されるまでまったく知らなかった。
どうやら私は、他の魔導具師たちと比較しても、魔法や魔力を探知する能力が欠如しているらしい。
「もっとも、それを補うだけの才能がある。特段問題はないがな」
「やっぱ才能ある人ってどこかぶっとんでるんすね」
「そうかぁ、フレアって鈍感野郎だったんだな!」
「言い方を考えてください。女性に野郎は失礼ですよ」
呪いの話で重たい空気になっていた部屋が、一瞬で普段通りの和やかな空気になった。
ネロ君が優しく笑っている。
もしかすると彼なりに、この重く苦しい空気を紛らわせようとしてくれたのかもしれない。そのために私の恥ずかしい秘密がばらされたのは、ちょっぴり複雑だけど。
「んじゃ、明日から呪いについて調査するか?」
「闇雲に探しても見つからないでしょう。まずはこの街の領主に話を聞くのが優先かと」
「おう、そうだな。あのおっさんなら話が早そうだ」
「領主をおっさん呼びはやめてください。まったく……」
レストさんはやれやれと首を振っている。
口ぶりからして、ガルドさんたちはこの街の領主様とも顔見知りのようだ。聞く限り関係性も悪くなさそうではある。
情報交換を済ませ、今後の方針については明日の領主との話し合いの後で決める、というところまで決定し、今夜は休むことにした。






