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6.王城の暮らし

ここから新展開です。

 早朝。

 私の身体は何かに引っ張られるように目が覚める。

 バサッと布団をどけてベッドから飛び起きる。

 早く準備しないと遅刻だ。

 今日もやることがたくさんある。

 魔導具施設の管理維持、魔導具量産に向けての調整、新魔導具の開発実験。

 その外にも書類作業がたんまりと。

 一秒でも早く取り掛からないと今日中に終わらない。

 明日も明後日も、ギリギリの生活を送ることになる。

 そうならないように日の出と共に部屋を……。


「あれ、ここ……」


 いつもの部屋じゃない。

 ここはロースター家の屋敷ではないことに遅れて気づく。

 せわしなく動いていた全身がピタッと止まり、窓の外へ視線を向ける。

 透き通るような青空には雲一つない。

 同じ朝でも、見る場所によってこうも違うのか。


「そっか……私、王城にいるんだ」


 寝ぼけていた頭がハッキリと目覚める。

 夢と現実がごちゃ混ぜになっていたものが、すっと整理された。

 昨日、私は第二王子付き宮廷魔導具師へと昇格したんだ。

 それに伴って研究室が王城に移動し、寝泊りができる専用の部屋までもらった。

 もう無理に屋敷へ帰らなくてもいいように。

 新しい居場所を、帰る家を貰った。


「いつもの癖で起きちゃったけど……どうしよう」


 特に予定は入っていない。

 昨晩はユリウス殿下から、ゆっくり休むようにと言われただけだ。

 今から何をすればいいのか。

 何ができるのかわからないまま、私はなんとなくで着替えを済ませた。

 部屋の中には料理ができるキッチンも備え付けられている。

 食材も用意されていたので、適当に朝食を作って食べた後、ぼーっとしながら時間が過ぎるのを待った。


「ふぅ……なんだか久しぶりだなぁ」


 こんなにも穏やかな朝は。

 私にとっての朝は、戦場へ赴く前の兵士の心情に近い。

 部屋を出て研究室に入れば、仕事が終わるまでは決して出られない。

 遅刻なんてしようものなら、所長から何を言われるかわからないし。

 とにかく急いでいた。

 朝食を食べる時間すら削っていたこともある。

 昼食も……時々食べられなかった。

 それが今は、ゆったりと流れる時間の中にいる。

 温かいお茶を飲みながら、食後のひと時を満喫できる。

 なんて幸せなんだ。


「……」


 無言でお茶をすする。

 特に何を考えるわけでもない。

 虚無な時間。

 時計の針が動く音が必要以上に大きく聞こえる。


「……よし」


 私は勢いよく立ち上がり、食器を片付ける。

 片付けが終わったら部屋を出る。

 廊下に出て、一旦立ち止まった。

 宮廷魔導具師として働いていた私でも、王城へ赴く機会はそうそうない。

 宮廷が働く場所なら、王城は住まう場所だ。

 もちろん、王族の方々が住んでいる。

 だから普通は、招かれでもしない限り王城へ入ることはない。


「どっちだろ……」


 当然道はわからない。

 私はとりあえず思った方向へ進むことにした。

 朝も早い時間だ。

 あまり人は多くない。

 今のところ後ろにも前にも、私以外の人影はなかった。


「誰かいないかな」


 無暗に探しても見つからない。

 誰か人を見つけて道を尋ねようと思っていた。

 キョロキョロしながら廊下を歩く。

 すると、曲がり角でばったり目的の人物と遭遇する。


「ユリウス殿下!」

「フレア、どうしてここに?」

「殿下のことを探していたんです。お伺いしたいことがあって」

「そうなのか。じゃあ場所を移そう」


 運よく殿下と会えた私は、彼の案内で城内を歩く。 

 向かった先は、殿下が普段仕事をしている執務室だった。

 中に入ると仰々しい机と椅子が奥に、中央には対面で話せるようにテーブルを挟んでソファーが二つ用意されていた。


「適当に座ってくれ」

「あ、はい」


 私は言われた通りソファーに座る。

 殿下は私の向かい側のソファーに腰を下ろす。


「で、聞きたいことって?」

「はい。私は何をすればいいんでしょうか。殿下の計らいでこうして王城に来られたのは嬉しいのですが……」


 やることがない。

 働かなくてもいいというのは、逆に不安になる。

 毎日忙しく働いていた弊害だろうか。

 じっとしていられない。

 何もしていないと、どうにもむず痒い。

 という話を、素直に殿下へ伝えると……。


「はははっ、だからこんなにも早く起きて俺を探してたのか」

「はい」


 殿下はあきれたように笑った。

 そのまま優しいまなざしを向け、私に言う。


「真面目だな、君は」

「え、いえ、そんな……普通だと思います」

「君にはそうなんだろうね。けど、誰でもできることじゃない。これまで大変な日々を過ごして、それでもひたむきに仕事と向き合えて来たのは、君が誰よりまじめだからだ。そこは誇っていい」

「あ、ありがとうございます」


 なんだろう?

 褒められるって、こんなに恥ずかしかったっけ?

 恥ずかしいだけじゃなくて、すごく……嬉しい。

 心の奥がジーンとなるような。

 私のことをちゃんと見てくれていると感じられる。


「正直、今日からしばらくは、休んでもらおうと思っていたんだ」

「え……? お休み、ですか」

「そう。だってそれが君の望みだったんだろ? 休みが欲しいって言ってたじゃないか」

「あー……そうでしたね」


 殿下にしてほしいことはないかと問われ、悩んだ末に出た回答がそれだ。

 ただ、今から思うと間違っていた気もする。

 

「なんだ? 休みはいらないのか?」

「いえ、休みはほしいです。ただ……ずっと休みたいわけじゃなくて、適度に欲しいと言いますか」

「ふっ、要するに、普通に働いて、ちゃんと休みがもらえればそれでいいってことか?」

「はい。せっかく殿下の元で働けるなら、ちゃんとお役に立ちたいです」


 宮廷での私の扱いを見かねて、殿下はここへ招いてくれた。

 殿下は恩返しだと言ってくれたけど、お世話になる以上はしっかり働きたい。

 第二王子付き特別宮廷魔導具師。

 その名に恥じないような働きを見せたい。


「真面目だな」


 そう言って笑うと、殿下は立ち上がり、仰々しい机の上にあった紙の束を手に取り、私の前に置いて見せた。


「君へ来ている魔導具師としての仕事だよ」

「こ、こんなに……?」


 なんだか見たことのある名前が紙には書いてある。

 すぐに察した。

 この依頼はすべて、私がこれまでやっていた仕事だと。

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