56.教えてくださいよ!!
親衛隊を含む私たちは、王都を出発してルーレウトの街へと向かった。
しばらく留守にすることをリドリアさんに伝えたら、案の定この世の終わりみたいな顔をされてしまった。
とても心苦しかったけど、私たちが不在の間は一人で頑張ってもらうしかない。
「なるべく早く終わらせたいね」
「あまり甘やかすな。独り立ちさせるにはいい機会だ」
「子供じゃないんだから」
「ふんっ、ボクからすればお前たちは子供と変わらない」
「子供というより孫だよね。本来の年齢差だけなら」
実際のネロ君は六十歳を超えているし、眠っていた期間も含めたらはるかに長い。見た目は子供だけど、中身は経験豊富なお爺さんだ。
この先、ゴーレムのネロ君の見た目は変わらず、精神年齢だけが増えていくと思うと、関わる人たちが感じるギャップも増していくのだろうか。
「見た目も変化できたらよかったね」
「必要ない。姿を誤魔化すだけなら魔法で十分だ」
「そっか。変身の魔法も使えるんだね」
「ボクに操れない魔法は、特殊なものを除けば何一つない。ご希望なら、愛しのユリウスになってやろうか?」
「――だ、大丈夫だよ?」
ちょっぴり反応してしまったけど、私は誤魔化すように笑う。もっとも、ネロ君に誤魔化しは通用せず、ニヤリと笑みを浮かべられる。
「たかが数日、多くても数週間程度か。その程度離れるだけでも不安か?」
「……そうだね」
「ふっ、ユリウスのほうが気が気ではないだろうがな。お前が早く帰りたいのはリドリアのためではなくて、ユリウスに会いたいからだろう」
「……そ、それもあるかな?」
しっかり見透かされていたみたいで、私は恥ずかしさを隠すようにそっぽを向いた。
リドリアさんのことも心配だけど、殿下と離れ離れになることも嫌だった。たくさん元気はもらったけど、その分、寂しさも膨れ上がっている。
殿下も同じ気持ちでいてくれるのだろうか。
そう思うと嬉しい反面、少しでも早く目的を達成して、殿下の元へ戻りたいという気持ちが強くなる。
「何事もなければすぐに戻れる。ただの風邪であることを期待するんだな」
「そうだね」
早く帰りたいという気持ちを除いても、街に広がっているのがただの病気であってほしい。誰かの悪意が広がっていたり、取り返しのつかない悲劇は起きてほしくない。
願わくば、私たちが心配し過ぎていると笑われてしまったほうが、ずっといいと思う。
ただ、なんとなく予感していた。
おそらく私だけじゃなくて、ネロ君やガルドさんたちも。
そんな簡単な、拍子抜けな結果では終わらないであろうことに。
私たちの周りには、嫌というほど人間の悪意や思惑が絡み合い、多くの無関係な人々を巻き込んでいると。
◇◇◇
王都を出発して三日。
私たちは休憩も挟みつつ、ようやくルーレウトの街へと到着した。
聞いていた通り、外観からすでに王都に似ているし、周囲の環境も中々近いところがある。
私は街の外観を見ながら、ぼそりと感想を呟く。
「規模の小さい王都みたい」
「実際その通りですよ。ここは王都をモデルにして発展した街の一つです」
そう教えてくれたのはレストさんだった。
王都は人々が生活しやすいような工夫がいくつもされている街で、王都の後に発展した街の多くは、王都での成功例をモデルにしている。
そういう街がいくつもあり、ルーレウトは環境が王都に近いこともあり、建物や街全体の造りも寄せているらしい。
人々の間では、もう一つの王都と呼ばれているとか。
「手続きを済ませてきますので、皆さんここでお待ちください」
「おう、手早くな」
「……本来は隊長である貴方の仕事ですけどね」
「そんな顔するなって! そういう細かい作業は苦手なんだよ」
「はぁ……まったく」
レストさんは呆れながら、街の入り口を警備している騎士に話しかけている。私たちは街に入るための準備を先に済ませる。
馬車の荷台には、木箱がいくつも重なって詰まれている。
ガルドさんは馬車の荷台を覗き込みながら言う。
「結構荷物多めだな。ほとんど素材か」
「はい。すみません」
「別にいいけどよ。素材くらい、原因がハッキリわかってから手配してもよかったんだぜ?」
「あんたは頭が雑ね。それを調べるために道具がいるかもってことでしょ」
「おう、なるほどな! さっすがフレア。頼れる魔導具師は違うぜ」
「もう、調子いいんだから」
「あはははっ……」
広まっている病が、そもそも病なのかを調べる必要がある。病気なのか、それとも毒なのか、はたまた魔法的なものなのか。
その原因によって私にできることは大きく変化するはずだ。
イリスさんがため息をついている。なんだか少し、普段よりも疲れているようで、顔色もよくない気がした。
「大丈夫ですか? イリスさん」
「平気よ。ちょっと馬車に酔ったかもしれないだけ」
「珍しいっすね。馬車酔いしてるとこなんて見たことないっすよ」
「あんたのいびきがうるさくて夜寝れなかったせいかもね」
「オ、オイラのせいっすか! ていうかオイラってそんないびきうるさいんすか?」
ダンさんが慌てて私にも確認するように視線を向けて、私は逃げるように目を逸らした。実際かなりうるさかったけど、ちょっぴり言いづらい。
「そういう時はハッキリ言ってやるほうが本人のためだぞ」
と、ネロ君が私に言う。
聞こえていたダンさんは頭を抱えて嘆く。
「やっぱりうるさかったんすか! なんで誰も教えてくれないんすか!」
「あんただけじゃないのよ。もっとうっさい奴がいるから」
「え? 誰っす……ああ……」
イリスさんの視線と私の視線、それからネロ君の視線が一か所に集まり、ダンさんも悟って納得したらしい。
「ん? なんだよ? 俺の顔になんかついてるか?」
「……なんでもないわ」
「なんでもないっす」
「ん??」
「よ、よく眠れることはいいことですよね」
「周りの睡眠を妨害しなければな」
今度いびきの音を抑制する魔導具でも作ってあげたほうがいいかもしれない。特にイリスさんのためにも。
そんなことを考えていると、手続きを終えたレストさんが戻ってきて、私たちは馬車を進ませてルーレウトの中に入る。






