とある魔導具師の日常①
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朝、目覚める時ふと予感することがある。
今日はなんだか、素敵な一日になりそうだ、と。
ただの予感でしかない。
根拠なんて何もないのによく当たる。
結局、一日をどう感じるかは気持ちの問題なのかもしれない。
昔の私なら、朝起きるのはちょっぴり憂鬱だった。
今日もまた、辛くて大変な一日が始まる。
そう思ったら瞼も重くなる。
けれど今は、身体が、心が脈動するように。
「ぅうーん……ふぅ」
目覚めることへの抵抗はなくなり、わずかな期待を体いっぱいに広げるように背伸びをする。
寝ぐせをとかし、着替えを済ませてから部屋を出る。
王城の廊下。
私はあれから、このお城で暮らしている。
「もう起きたのか。相変わらず早いな」
「ネロ君、おはよう」
部屋を出ると美しい容姿の少年が待ってくれていた。
見た目は美少年だけど、その身体は人間ではなくゴーレムだ。
そして中身は、千四百年前の国を治めていた王様だったりする。
いろいろあって彼は私の助手のような立場で一緒に王城で生活していた。
私たちは一緒に食堂へ向かう。
食堂へ顔を出すと、シェフの方が気づいてくれて、二人分の朝食を用意してくれて、一緒に並んで食べる。
「千年以上かけて料理は進化しているな。実にいいことだ」
「……改めて思うけど、ネロ君の身体はゴーレムなのに食事が必要なの?」
「もちろん不要だ。だがこの肉体は元来ボクのもの、食べ物を消化し排泄する人間らしい機能は残っている。食べても何の問題もない」
「そ、そうなんだ」
ネロ君は隣でパクパクと食事を口に運ぶ。
見た目は子供でも、食べ方から高貴さがうかがえる。
彼は自らにかかった呪いから逃れるために、自身をゴーレムに作り替えた。
普通は不可能なことをやってのけた大天才だ。
彼の肉体の構造に関しては、復活させた私でもまだ完全には把握できていない。
「お前も千四百年何も食べずにいてみろ。必要なくとも味が恋しく感じるぞ」
「それは想像できないね。あれ? でもコアがない間の意識はなかったはずじゃ」
「自立できないだけで意識はあった。何もない真っ暗な空間で浮かんでいるような感覚に近い」
「それは……なんだか寂しいね」
「ボク自身が望んだことだ」
それでも、独りぼっちで千四百年意識を保ち続けるのは、どれほどの孤独感に苛まれるのだろう。
私には想像できない。
ううん、想像するのが怖いほどだった。
いつ目覚めるかもわからない。
それどころか、永遠に目覚めなかったかもしれないと思うと、ぞっとする。
「そういう意味では、お前がいてくれてボクは幸運だった」
「ありがとう。私もネロ君を見つけられてよかったよ」
「ふっ、そういうお前は、先ほどから誰かを探しているようだが?」
「あ、わかるんだ」
実はさっきから、彼と会話をしながらチロチロと部屋の入り口を見たりしていた。
数回、一瞬のことだから気づかれないと思ったけど。
ネロ君はよく見ている。
「あの王子なら先に朝食は済ませて職務に向かったぞ?」
「そ、そうなんだ」
「朝食の時に会えるかと思ったか? 残念だが入れ違いだったな」
ネロ君は大人びた笑顔を見せる。
彼にはなんでもお見通しらしい。
恥ずかしさと、入れ違いになってしまったことへのガッカリが同時にくる。
「でもネロ君、なんで知ってるの?」
「あの男も同じだったからだ」
「同じ?」
「ふっ」
ネロ君は小さく笑い教えてくれた。
先に目覚めて扉の前で待っていたネロ君の下に、食事を終えた殿下がやってきたらしい。
仕事が多い日だから早めに起きて朝食を済ませたのだとか。
職務へ移る前に、私の顔を少しでも見れないかと立ち寄って、まだ起きていなかったからと断念したそうだ。
「そうだったんだ。起こしてくれてもよかったのに」
「そんな無粋なことをする男ではないだろう。さぞ残念そうだったがな」
殿下には悪いことをしてしまった。
けれど嬉しい。
殿下も私に会いたいと、朝から思ってくれていたということだから。
ネロ君は先に食べ終わって私に言う。
「二人とも同じ気持ちなんだ。嫌でも顔を合わせる機会はあるだろう」
「うん」
私も、少し遅れて食べ終わる。
「じゃあ仕事に行こうか」
「そうだな」
今日も一日頑張ろう。
殿下に胸を張って会いにいけるように。
そのための元気はもらえた。
直接会えなくとも、気持ちが繋がっているとわかったから十分だ。
私はネロ君と一緒に食堂を後にする。






