45.水路管理局
水の街アクリスタ。
純白で統一された建物や道、街全体が白く幻想的な雰囲気を醸し出す。
王国内でも人気の高い観光街となっていた。
中でも見どころは、街中どこでも見ることができる清らかな水の流れ。
水路に流れる水はそのまま飲んでも美味しい。
彼の生活を支える貴重な水源。
それが今、謎の汚染に悩まされているという。
「思ったより普通っすね~」
私たちは街に入った。
汚染で困っていると聞いたから、もっと重たい空気が流れているのかと思っていたけど……。
街の人たちは普通に出歩いているし、生活に支障が出ている感じはしない。
少なくとも、ぱっと見の印象では。
「目に見えるものだけが全てではありませんよ。それに、ここは観光名所です。以前訪れた時より明らかに人の数が少ない」
「影響は出てるってことか。どうしますか? 殿下」
「そうだな。まずは実際の状況を確認しよう」
私たちは街の人たちの声を聞くことにした。
道を歩いていた男性に声をかける。
「すまない。少しいいか?」
「はい? え、ユリウス殿下!?」
「畏まらないでくれ。あまり目立ちたくないんだ」
「は、はぁ……」
いきなり殿下に声をかけられたら驚くよね。
男性は取り乱しながらも落ち着きを取り戻し、殿下の話に耳を傾ける。
「最近、この街の水が汚染されていると聞いたんだが、事実か?」
「え、あーはい。どうにもそうらしくて、私も詳しくはわからないんですが、街の水路を管理している役所からは、水路の水を直接飲まないように言われてます」
男性の話を聞く限り、汚染は事実らしい。
ただ街の人たちに詳しい説明がされているわけではなく、事情を知っているのは水路管理をしている街の役所の人間だけのようだった。
殿下は男性にお礼を言い、水路管理局を訪ねることにした。
◇◇◇
水路管理局は街の中心部にあった。
三階建ての大きな建物で、水が湧き出ているのもこの場所らしい。
文字通り、街の水路の要になっている場所だ。
「失礼するよ」
「ここは関係者以外――殿下!」
「驚かせてすまない。局長はいるかな?」
「は、はい! すぐに呼んでまいります! 局長!」
局員の一人が慌てて奥へ走っていく。
その様子を見ながら苦笑いをする殿下に、ガルドさんがボソッという。
「やっぱアポとったほうがよかったんじゃないですか?」
「……いや、それだと今度は手続きが面倒なんだ」
「ですが毎回驚かせてしまうのも申し訳なくありませんか?」
「そうだよな……次から善処する」
殿下たちが話していると、奥から駆け足で細身の男性がやってきた。
「お、お待たせしました。ユリウス殿下」
「すまない。急かしてしまったか」
「いえ大丈夫です」
まったく大丈夫に見えない……。
ぜぇぜぇと息を切らしているし、歳はまだ若そうだけど体力はないのかな?
雰囲気はちょっぴり頼りない感じがする。
「失礼しました。私がここの局長をしております。ヒストマンと申します」
「ヒストマン局長、アポもなく訪ねてしまい申し訳ないが、少々お時間を頂けないか?」
「はい。手は空いておりましたので、どうぞ中へ」
「ありがとう」
局長さんに案内され、私たちは管理局の奥へと進む。
中は少しだけ、王宮の地下にある魔導機関の部屋に似ていた。
仰々しい装置がちらほら見える。
おそらく魔導機関だけど、ぱっと見じゃ仕組みまではわからないな。
それに……。
「この匂い……」
「心配するな。ボクがなんとかしておく」
こそっとネロ君が私に囁いた。
彼がそういうってことはやはり、あまりいい物ではないらしい。
私たちは応接室に案内された。
殿下が座り、対面に局長が座る。
「狭い部屋で申し訳ありません」
「構いません。さっそく本題ですが、水路の汚染について聞きに来ました」
「なんと、殿下自らご足労を?」
「こういう問題は俺の管轄なんですよ。説明をお願いできますか?」
「はい。もちろん」
局長さんから話を聞く。
汚染は事実であり、時期はほんの二週間ほど前からだったという。
この施設には水の成分や純度を調べる魔導具があり、それによって水の状態は常に管理されている。
突然、湧き出る水に毒素が検出された。
小さな反応だったこともあり、自然のものであれば直に治まる。
最初は深く考えなかったそうだが、一週間後になると一気に濃度が増した。
「見た目は変わらないのですが、飲むとわずかな苦みを感じます。一日に飲みすぎると腹痛や嘔吐、下痢といった消化器の症状に見舞われてしまうので、街の方々には飲水を中止していただきました」
「飲み水はどうしているんですか?」
「ここには今までの貯水タンクがあります。そこの水は汚染されていませんので、水はタンクから民家に届けているんです」
「タンクの残りは?」
局長さんは答えづらそうな表情で……。
「正直に申しますと、あとひと月も持たないでしょう」
「なるほど。かなり切迫した状況のようですね」
「申し訳ありません。水路を管理することが我々の務めだと言うのに……」
「そう自分を責めないでください。管理局の迅速な対応のおかげで、街への被害は最小限に留まっている。あなた方の対応は間違っていない」
「殿下……」
「それに、もう大丈夫です。こういう時に頼りになる人を連れてきましたから」
殿下と目が合う。
私は頷き、呆気にとられている局長さんのほうを向く。
「頼めるか? フレア?」
「もちろんです。そのために来たんですから」






