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【WEB版】無自覚な天才魔導具師はのんびり暮らしたい【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
第二.五章

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42.二人きりの時間

 休日の朝。

 普段よりほんの少しゆっくり目覚める。


「ぅうーん……」


 大きく背伸びをする。

 昨日まで一緒の部屋で眠っていたネロ君も、今日からは別々のお部屋に移動した。

 無垢な子供ならともかく、中身が私よりずっと年上な男性とわかったら、さすがに一緒の部屋で眠るのはよくない……。

 と、殿下が気を利かせてくれた。

 ネロ君のほうは。


 安心しろ。

 他人の女に手を出す趣味はない。

 元より、今のボクはゴーレムの身体だからな。


 その言葉に嘘は感じなかったけど、殿下は俺が嫌だからと部屋をわけた。

 殿下に特別扱いしてもらっている気がして、なんだか優越感だ。

 というわけで、私は数日ぶりの一人を体感している。

 私一人だけの部屋は静かで、少し寂しい気持ちになる。


 服を着替え、顔を洗う。

 シャキッと目覚めた私は部屋を出る。

 扉を開けると廊下には。


「起きたか」

「ネロ君?」


 彼が私のことを待っていた。

 ネロ君の部屋は私の隣、厳密には研究室の隣にある。


「早いね。もう起きてたの?」

「この身体に本来睡眠は必要ない。ただの習慣でとっているだけだ。それに今日はやっておくことがあったからな」

「やっておくこと?」

「詳しい話は三人でしよう。食堂に行くのだろう?」


 そのつもりだったので、私はこくりと頷く。

 殿下も交えてというと、昨日話していた噂への対策のことだろうか。

 私はネロ君と一緒に食堂へ向かう。

 扉を開けると、すでに殿下が席についていた。


「おはよう、フレア」

「おはようございます。殿下」


 彼のさわやかな笑顔が見られて、とても清々しい気分になる。

 

「ネロもおはよう。もう済んだのか?」

「手筈通り手は打った。問題なく発動している」

「さすが大魔法使いだな」

「この程度ならボクでなくても容易だ。その話はお前から説明してやれ」


 殿下はそのつもりだと答える。

 私たちは席につき、食事をしながら話をする。


「昨日、正式にネロを君の助手にした」

「そうだったんですか?」

「ああ。曖昧な立ち位置が変な噂を生んだのもあるからな。最初からこうしていれば、余計な問題は増えなかった。君には本当に迷惑をかけたな」

「そんな! 私より陛下にご迷惑を」


 一国の王子に隠し子。

 下手をすれば国民の信頼を損なう大問題だ。

 私はあくまで一個人、宮廷魔導具師という立場はさほど強くない。

 それに、噂の内容自体は……そこまで嫌じゃなかった。


「だが、もう噂が広まる心配はない。すぐに消えるだろう」

「そう……なんですか?」


 ネロ君を正式に助手にしただけで変わるのだろうか?

 すでに広まった噂を否定するには、相応の変化が必要になる。

 燃え広まった炎を消すのは容易じゃない。

 今さら立場を表明したところで……と、私の疑問を見抜くように、殿下は続けて説明する。


「ただ助手にするだけじゃ無理だが、そこは大魔法使いの力を借りたんだよ」

「ネロ君の?」


 ネロ君のほうを見る。

 彼は頷く。


「ボクの魔法で、王城と王宮にいる者たちに暗示をかけた。ボクは最初からお前の助手として迎え入れられた……というな」

「みんなの記憶を操作したの?」

「それほど大層なことはしていない。噂と変わらないものを広めただけだ。効果自体はさほど強力ではないが、今回の例は上手く働く」


 ネロ君は言う。

 人々も噂を信じていたわけではない。

 なぜなら私と殿下の間に隠し子がいたという噂は、まず間違いなく真実ではないからだ。

 年齢が合わなすぎる。

 ネロ君の外見年齢から逆算して、私や殿下が幼いころに子供を産んだことになる。

 人間の構造上ありえないことだ。

 つまり、噂は広まりつつも、人々の心にはありえないだろうという確信があった。

 

「ならばそれを後押しすればいいだけだ。これで噂は消える」

「ただし噂だけだ。君の周りを嗅ぎまわる動きまでは抑制できないから、そこは引き続きネロに頼んである。本来なら護衛を付けたいところだが……」

「下手な護衛はかえって邪魔になる。ボク一人いれば事足りる」

「というわけでネロに任せた。よっぽど大丈夫だとは思うけど、不安があったらすぐ俺に言ってくれ」「はい。ありがとうございます」


 殿下もネロ君も、私の安全を気遣ってくれている。

 守られることへの申し訳なさは感じるけど、それ以上に嬉しかった。

 三人ともいつの間にか食事が終わる。

 せっかく殿下といられる時間も、あっという間に過ぎてしまう。


「ボクは先に部屋に戻っている」


 唐突にネロ君が席を立ち、食堂から立ち去ろうとする。

 彼はピタリと立ち止まり、背を向けたまま。


「そうだ。一ついいことを教えておこう。この部屋は今、ボクの結界に守られている。世界で一番安全な場所だ。外に音は漏れない。何を話していようと聞かれる心配はないぞ」


 と言い残し、部屋を出て行く。

 残された私たちは互いに顔を見合わせ、くすりと笑顔が漏れる。


「よく気づくよな、ネロは」

「優しいからですよ」

「かもしれないな。おかげで二人きりになれた」

「はい」


 ネロ君が私たちに気を使ってくれた。

 最近忙しくて、こうして二人きりでゆっくり語らう時間が取れなかったから、嬉しい。

 

「今日は休みなんだろ?」

「はい。お休みをいただいています」

「そうか。できれば一緒に過ごしたかったが……」


 私は首を横に振る。


「こうしてお話しできるだけで、私はとても幸せです」

「フレア……」


 私が好きになったのは一国の王子様だ。

 これは普通の恋じゃない。

 会えないことも多く、触れあえる時間は限られている。

 だからこそ、このわずかなひと時が特別で、心地いいんだ。


「今度、時間を合わせて休日を二人で過ごそう。その時までには君の不安を取り除く」

「殿下……それなら私も、早くお仕事を終らせますね」

「無理するなよ」

「殿下も」


 二人で過ごす時間をもっと引き延ばせるなら、私はちょっとくらい無理をしても構わないと思った。

 きっと殿下も……。

 

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