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【WEB版】無自覚な天才魔導具師はのんびり暮らしたい【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
第二章

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39.古の魔法使い

 私は彼を訝しむ。

 腰に手を当て大きくため息をこぼす彼は、私と視線を合わせて呟く。


「そうか。見てしまったのか」

「……」

「そう怯えるな。ボクはお前の敵じゃない」

「あなたは……」


 誰なの?

 二度目の問いかけは心の中に留めた。

 彼の口が動く。

 その動きに、発せられる声に集中する。

 ずっと疑問に感じていた。

 その答えが今、聞こえようとしている。


「ボクはネロだ。その名に偽りはない。偽ったことがあるとすれば、マスターの存在だ」

「マスター……あなたを作ったっていう……」

「ボクにマスターなどいない。ボクを作ったのはボクだ」

「え……?」


 理解できずに首を傾げる。

 彼はニヤっと笑みを浮かべて続ける。


「正確には、生前のボクだ。この肉体は、ボクの細胞を元に作られた人造人体なのさ」

「人造……人間の身体を、人の手で生み出したということ?」

「その通りだ。理解が早いな」

「そ、そんなこと……」


 できるの?

 人が子を産むように、人の手で人間の肉体を生み出すなんて。

 少なくとも私は考えたこともない。


「普通は無理だが、元となる肉体があれば別だ。ボクはボクの肉体を元にして、この身体を製造した。人間という枠を超え、はるか未来の世界を見るために。そして叶った。お前のおかげで」

「私の……?」


 ネロは服をたくし上げ、胸元のコアを見せつける。

 その輝きこそ、彼をゴーレムだと証明するもの。


「肉体を生み出すことには成功したボクだが、どうしてもコアだけは作れなかった。ボクには魔導具師の才能が希薄だった。ただのゴーレム程度なら作れたけどね。知り合いにも人間に近いゴーレムのコアなど、絵空事だと笑われてしまったよ。だがボクは信じた。必ず成し遂げる者が現れると、そのために……」

「ダンジョンで眠っていた?」

「そうだ。待っていたんだよ、ボクは。お前のような真の天才が、ボクを深い眠りから目覚めさせてくれる未来を!」


 ネロは歓喜する。

 静かな王城の庭に、彼の声が響く。


「改めて自己紹介をしよう。ボクの名はネロ・クラウディウス! かつて大魔法使いと呼ばれた男だ」

「ネロ……クラウディウス……」


 私はその名前を知っていた。

 かつてこの国の原型となった世界最大の大国ローマニア。

 その五代国王の名が、ネロ・クラウディウス。

 彼は当代最高の魔法使いであり、あらゆる魔法を極めし賢者と称されていた。


「王様の名前……」

「ん、そうか。ボクの名はちゃんと後世にも残ったか。いいことだ」

「ほ、本当にあなたは……」

「信じられないか? まぁそれでもいい。子供の妄言と思っても構わん。が、お前ならわかるだろう? ボクがこうして動いていることが何よりの証拠だと」


 彼は自分の胸に手を当てて堂々とそう宣言した。

 そう、わかる。

 だっておかしいから。

 私が作ったコアだけじゃ、彼がここまで自由に行動できるはずがない。

 ずっと思っていたよ。

 まるで、誰かの魂が肉体に宿っていたかのようだと。


「……どうして、わざわざこんなことをしたんですか?」

「言っただろう? 未来の世界を見るためだ」

「そのためだけに、自分の命を……ゴーレムに変えたんですか?」


 だとしたら、まともな精神じゃない。

 ぞっとする。


「ふっ、どうせ放っておいても長くは生きられなかったからな」

「え?」

「呪いだ。それも強力な……発動者が死ぬことで完全となる呪い。一度受ければ解呪はできん。このボクでも……だ」


 ここでも呪いという単語を聞くなんて。

 彼も呪われていたのか。

 そして、死期を悟って自らの肉体をゴーレムに変えた。

 生きるために?

 だとしたら、正気じゃないと思ったことを反省しないと。


「えっと、さっきの人たちは?」

「お前のことを遠目から覗いていた不埒な男だ。お前が感じていた視線はこいつらのせいだったんだよ」

「やっぱり気のせいじゃなかったんだ……」

「大方どこぞの国の間者だろう。王子の弱みでも握ろうとしたか。お前も災難だったな。いや、惚れてしまっているのでは仕方がないか」


 私はビクッと身体を震わせる。


「え、え?」

「なんだ? あの王子に惚れているのだろう?」

「な、なんで……」

「見ていればわかる。伊達に長生きをしていない。人生経験はお前たちより何倍も上だぞ」


 見透かされていた。

 この少年……じゃなくて、古を生きた魔法使いに。

 私は急に恥ずかしくなって顔が熱くなる。

 彼の正体とか、目的とか、いろいろどうでもよくなるくらいに。


「安心しろ。ボクの口から言うことはない」

「……は、はい」

「今のボクはお前のおかげで蘇った。ゆえにお前を守護する者となろう。お前が死ぬか、ボクが不要になるまではな。その代わりボクの正体は秘密にしておいてくれ。あ、いや、信頼できる者には共有してもいいぞ。例えば、あの王子とかな」

「そ……そのつもりです」


 こんなの一人で抱え込める秘密じゃない。

 いろんな意味でドキドキしながら夜が過ぎていく。


  ◇◇◇


 翌日。


「……と、いうわけで……」

「改めてよろしくな。現代の王子」

「……嘘だろ? この子供の中身が、大昔の大魔法使いで、元国王?」

「らしいです」


 研究室でネロと共に、彼の秘密を殿下に伝えた。

 案の定、殿下は酷く驚いていた。


「……はぁ、信じられないけど、フレアがそう言うなら信じよう」

「ほう、この女の言葉は信じるか」

「信頼しているからな」

「なるほど。いい関係だな……少々物足りないが」

「どういう意味だ?」

「こちらの話だ」


 二人は淡々と会話を進める。

 あっという間に状況を飲み込んで受け入れた殿下を、私はひそかに凄いと尊敬した。

 私なんてまだ驚きが抜けないのに。 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 恋のライバル?ネロくん
[良い点] ローマニア。その五代国王の名が、ネロ・クラウディウス。 素晴らしい名づけ…。こういうの好きです。 [一言] 更新楽しみにしています。
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