34.ゴーレムの器
六本の腕にはそれぞれ武器が装備されている。
第一右腕には矢を持ち、第一左腕には弓を持つ。
両第二腕には槍を持ち、第三腕には剣を装備していた。
近中遠距離、どの距離からでも攻撃ができるように設計されているのだろう。
「いつも通りいくぜ! バックアップ頼んだぞ」
「深入りは禁物ですよ」
「オイラは姉さんの護衛と周辺の警戒っすね」
「魔法を準備するわ」
彼らもいつになく真剣な表情をしている。
私の前に立つ殿下も、すでに剣を抜いていた。
いつでも戦えるように。
ううん、きっと私を守れるように。
「俺の後ろから動くんじゃないぞ」
「はい」
緊張が走る中、ガルドさんが先陣を切る。
大剣を豪快に振り回し六本腕のゴーレムに切りかかる。
「おら!」
ゴーレムは両手の剣をクロスすることでこれを防御。
ガルドさんの一撃は重く、ゴーレムの足元に亀裂が入る。
そうとうな威力故に、両腕でなければ防御はできない。
普通ならここから反撃はできないけど、ゴーレムには腕が残り四本ある。
すかさず槍の一突きが襲う。
「っと!」
「下がってください!」
同じ槍でレストさんが弾く。
連携の取れた動きで接近戦を仕掛ける。
二対一だが腕の数は相手がまだ多い。
第一の腕が持つ弓と矢を構え、近接で戦う二人めがけて放つ。
「アイシクルランス」
放たれた矢は氷の槍で相殺された。
さらにもう一発、イリスさんの魔法が発射される。
これをゴーレムは腕で払いのける。
「チッ、硬いわね」
ゴーレムは再び矢を構える。
狙いはイリスさん。
彼女の魔法が厄介だと判断したのかもしれない。
発射を妨げようと攻撃するガルドさんとレストさん。
しかしゴーレムは構わず発射する。
「姉さんはそのまま!」
ダンさんが叫ぶ。
飛翔する矢にワイヤーを絡ませ引っ張ることで、その軌道をそらした。
「ふぅ、重たいっすねこれ」
「助かったわダン! もう一発行くわよ」
今度は氷ではなく鋼鉄の巨大槍。
イリスさんの頭上に生成されたそれは、爆発的な速度で発射される。
「アイアンランス」
ゴーレムは弓と矢を捨て、両手をクロスすることで防御する。
しかし威力が勝り、イリスさんの攻撃はゴーレムの頭部を破壊した。
頭部の中にはコアが見える。
「よっしゃ! これで動――」
ゴーレムはガルドさんに剣をふるう。
咄嗟に飛び避ける。
「けんのかよ! どうなってんだ!」
「違うぞガルド。おそらくこのゴーレム、コアが複数あるんだ」
「まじか」
コアを破壊しない限りゴーレムは倒せない。
そして六本腕のゴーレムにはコアが複数あり、その力が巡っている間、どれだけ壊しても再生する仕組みになっていあった。
「治りやがったな」
「これは長期戦が予想されますね」
「姉さん、魔力の残りはどうっすか?」
「あと半分よ。どうにか隙を作って。一撃で全身粉砕してやるんだから」
イリスさんが魔法の詠唱を始める。
長期戦になれば不利になる。
そう見込んで大技を繰り出す作戦に変更したらしい。
「お、おい!」
「こいつ標的を――」
直後、ゴーレムの挙動が変化する。
接近戦を仕掛ける二人を無視して、魔法を準備するイリスさんへと向かう。
「まじっすか!」
「こっちに来るぞ」
「魔力の増幅を感知してこっち来てるんです」
そういう機能がゴーレムには追加されているんだ。
おそろしく精密に作られたゴーレム。
きっとこれを作った昔の人は、私よりずっと優れた魔導具師だったに違いない。
「感心してる場合じゃないよね」
「フレア? 何をして」
相手がゴーレムでよかった。
最近ずっとゴーレムのことを調べていたから、その構造には誰より詳しくなっている。
これが古の時代に作られたものでも、ゴーレムだというなら。
「動きを止めます!」
私はカバンから青いボールを取り出す。
それをゴーレムに投げつけた。
ゴーレムはボールを剣で払い、刃に触れた瞬間に破裂する。
破裂したボールは稲妻のような光を放ち、ゴーレムの動きを一時的に封じる。
「今のは?」
「魔力の流れを一時的に乱す魔導具です。効果は数秒なので長くはもちませんけど」
「でかしたぜフレア! イリス! 今のうちにぶっ放せ!」
「言われなくてもそうするわ!」
イリスさんの頭上には、巨大な鋼鉄のハンマーが生成されていた。
粉砕すると口で言っていたけど、まさか本当に?
「ぶっ壊れなさい! トールハンマー!」
横ぶりのハンマーがゴーレムをとらえた。
恐ろしい威力の一撃でゴーレムを吹き飛ばし、壁にめり込ませる。
衝撃は全身に伝わり、外装から内部までぐちゃぐちゃになる。
「――ぷはっー、もう魔力は空っぽよ」
「お疲れさっす姉さん。ばっちり粉々っすよ」
ガルドさんとレストさんも戻ってくる。
みんなの無事を確認してホッとする。
「ありがとう、フレアちゃん。おかげで助かったわ」
「いえ、無事でよかったです」
「お手柄だったな、フレア」
「あんなものまで用意していたんですね」
みんなが私を褒めてくれる。
そんな中、一番褒めてほしい人と視線が合う。
「本当に、君には驚かされるよ」
そう言って貰えたなら、私も同行した甲斐がある。
最終関門を突破し、残るは最後の部屋。
敵はなく、中にあるのはここを作った偉人の財宝。
「おお……金ピカだぜ」
「よくわからない道具もありますね」
「魔導具だと思います」
ここを作った人は魔導具師だった。
ゴーレムの数が多いのも、ゴーレム作りに精通した人物だったからで間違いなさそうだ。
他人の作った魔導具は見ていて面白い。
どんな効果があるのか試したい。
「皆さんこっち! なんかでかい箱があるっすよ」
ダンさんの元へ赴く。
長細い箱だ。
人間がすっぽり入れる大きさはある。
ガルドさんが箱を開ける。
そこに入っていた物を見て、全員が言葉を失う。
「に……」
「「「「人間?」」」」
淡い水色の髪を持つ少年が眠っていた。
どこからどう見ても人間。
だけど私だけは気づく。
これは人ではない。
「違います。これ、ゴーレムの器です」
服の隙間から見える胸の位置に、コアを入れ込む穴があった。
間違いなく器だ。
それも、生まれて初めて見る精巧な。






