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3.真夜中の邂逅

 しばらく、一人で研究室に籠った。

 カイン様が去った後も、ショックが大きくて何も考えられない。

 それでも皮肉なことに、仕事の手だけは勝手に動く。

 身体にしみついてしまっているんだ。

 これを終らせないと帰れない。

 帰って……休みたい。

 

「はぁ……なんでこうなっちゃうのかな」


 思えば私の人生は、思い通りにならないことの連続だった。

 私は、本来ロースター家の人間じゃない。

 母は一般人で、父とは一夜の関係だったという。

 そうして私が生まれ、父はその関係を隠すために私を長女として迎え入れた。

 けど、そのころにはアリアが生まれていて、私のロースター家での扱いはひどいものだった。

 父は私と目も合わせない。

 義母は私のことを目の敵にする。

 そんな私を、使用人たちは憐れむように見る。

 妹のアリアも、私のことを馬鹿にしてくる。

 ロースター家に、私の居場所はなかった。


 それでも、唯一の生きがいを見つけた。

 魔導具作りをしている時だけは、他のすべてのしがらみから解放される気分になった。

 物作りは楽しい。

 誰もが驚くような発明をしてみたい。

 そうして一人、魔導具作りの勉強をしているうちに、気づけば宮廷魔導具師になっていた。

 今から四年前、十四歳の頃で史上最年少だったという。

 周囲から注目を浴びたのも生まれて初めてだった。


 私のことを知って、多くの人が見る目を変えた。

 友好の深いバルムスト家から、カイン様との婚約の話が持ち掛けられたのもこの頃だった。

 成人になり婚約し、宮廷という最高の環境で物作りができる。

 この時の私は、何者でもなかった自分が、周囲に認められたことが嬉しかった。

 私の人生で、何かが変わると思えた。


 でも、結局うまくはいかなかった。

 期待されるとは同時に、恨まれることでもある。

 私のことが気に入らない先輩、所長にいじめられて、無茶な仕事を押し付けられる。

 なんとか頑張って終わらせても、今度はもっと多い量の仕事が飛んでくる。

 疲れきった私の唯一の救いが、優しいカイン様だったけど……それも失ってしまった。


 私は、本当の意味での孤独を体験している……のかもしれない。


「いっそ辞めて……」


 これまで何度思っただろうか?

 逃げ出したい。

 宮廷なんて辞めて、どこかでのんびり暮らしたい。

 

「……無理だよね」


 ただの希望でしかない。

 仮に逃げ出したところで、その先どうやって生きていく?

 仕事を探すのだって大変だ。

 身元が不確かな人間なんて、まともな職場は絶対に雇ってくれない。

 下手をすれば、今よりひどい生活に……も、あまり考えられないけど。


「はぁ……」


 もうすぐ今日の分の仕事は終わる。

 日付がそろそろ変わって明日になる時間。

 明日になっても、今日のように慌ただしい日々が続く。

 違いがあるとすれば、わずかな救いもなくなったことだろう。

 もう、虚無で仕事に打ち込むしかなさそうだ。

 溜息しかでない。


  ◇◇◇


 仕事を終らせた私は、トボトボと研究室を出ていく。

 やっと帰宅してベッドで眠れる。

 嬉しいはずが、今日はいつもより足取りが重い。

 さすがにみんな寝ている時間だろうけど、万が一起きていて、ばったり出くわしたらどうしよう。

 お父様、お母様、アリア……使用人も、婚約破棄のことは知っているに違いない。

 会えば必ず嫌味なことを言われる。

 そして、明日ここへ出勤したら、所長に馬鹿にされるんじゃないかと予想する。

 何もかもが億劫で、歩くことすら気だるい。

 今夜は研究室に泊まったほうがいいかもしれない。

 何度か経験はあるし、初めてじゃない。

 私は立ち止まる。


「戻ろっかな」


 そして踵を返す。

 ちょうど中庭を通り過ぎるところだった。

 

 ガサガサガサ!


「え?」


 中庭に私以外の誰かがいる。

 こんな夜遅い時間に、宮廷に一人いること自体が不自然だ。

 今まで一度も、ここで誰かと遭遇したことはない。

 かすかに呼吸音が聞こえる。

 誰がいるのは明白だ。

 絶対にまともな人間じゃない。

 まさか盗人……暗殺者とか?

 急に怖くなって、その場から走って逃げだそうとした。


「はぁ、っ、ぅ……」


 庭の木の裏から聞こえてきた声は、明らかに苦しんでいた。

 気づいた私は逃げるのを辞める。

 静かな夜に耳を澄ませば、誰かの呼吸音がより大きく聞こえてくる。

 明らかに乱れているのがわかった。

 それもかなり弱っている。

 恐怖がないと言ったら嘘になる。

 だけど、気づけば私の身体は勝手に動き出していて、音がするほうへと駆け寄っていた。


「だ、大丈夫……ですか?」


 恐る恐る木の裏を覗き込む。

 そこには一人の男性が座り込んでいた。

 私は一目で、彼が誰なのか理解する。


「ユ、ユリウス殿下!?」

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