29.個性豊かな人たち
「親衛隊?」
「ああ。正確には、第二王子直轄の騎士たちだ」
それって、私と同じような立場の人たちってこと?
部屋で待っていたのは男性が三人と女性が一人。
いずれも初めて顔を合わせる方々ばかりで、ごくりと息を呑み緊張する。
体格のいい短髪の男性が、殿下を見て雲から顔を出す太陽のように笑う。
「遅かったですねー殿下。待ちくたびれましたよ」
「ガルド、殿下に対して馴れ馴れしい口を利くなと言っているだろ?」
メガネをかけた知的な雰囲気の男性が彼を注意した。
「いいじゃねーか別に。ね、殿下?」
「そうだな。今はいいだろう。ここには俺たちしかいない」
「ほらな?」
「……殿下も相変わらず甘いですね」
メガネの男性はやれやれと首を振る。
その隣で小柄な男性がひょこっと顔を出す。
「それより! 気になることがあるっすよ!」
「ん? ああ、そういや」
「殿下、その方は?」
「誰っすか! 誰すっか! 殿下の何っすか!」
小柄な男性が興味津々に瞳を輝かせ、ぐいぐいと近寄ってくる。
そんな彼の首根っこを掴んだのは、四人の中で唯一の女性。
オレンジ色の髪が特徴的で、魔法使いみたいな帽子をかぶっている彼女。
「いきなり近づくんじゃないわよ。あんた女性に失礼よ」
「ちょっ、姉さん首……首が締まってる」
「お前たちは賑やかだな」
彼らを眺めながら殿下は微笑ましそうな顔を見せる。
私だけ状況についていけず、置いてけぼりをくらっているみたいになる。
「で、殿下……」
「あーすまない。ちゃんと紹介するよ。みんな聞いてくれ、彼女が魔導具師のフレアだ」
「ああ、先の闇市場の一件で活躍したという」
「殿下の呪いを解いてくれた魔導具師か!」
え、今呪いって……。
私はパッと勢いよく殿下に視線を向ける。
彼はこくりとうなずく。
「彼らには俺が呪われていたこと、君に助けられたことを伝えてある。闇市場の調査を一緒にしていたのも彼らだ」
「そう……なんですね」
てっきり知っているのは自分だけだと思っていた。
他にも知っている人がいたんだ。
「殿下も水臭いよな。呪いのこと、ずっと黙ってたなんてよ」
「殿下にもお考えがあったんだ。解決したことを今さら蒸し返すことはない」
「つってもよぉ。レスト、お前だって思うところはあるだろ?」
「……それはそうだが」
どうやら話したと言っても、呪われていた期間は秘密にしていたようだ。
全てが終わってから事後報告をしたのだろう。
頼ってもらえなかったことに不満がある。
彼らの表情は、そう訴えているように見えた。
「すまなかった。反省してる」
「殿下の反省ってその時だけっすよねー痛い!」
「あんたは思ったことそのまま口にする癖直しなさいよ」
「ははは……耳が痛いな」
殿下は笑ってごまかす。
彼らは殿下の部下だけど、随分距離が近い様子。
時折見せる友人のような雰囲気が、ちょっぴり羨ましかった。
「殿下を助けてくれてありがとな。俺は親衛隊の隊長してるガルドだ。よろしくな。こっちは副隊長のレスト。ちっこいのがダン、ダンの耳を引っ張ってんのがイリスだ」
「初めましてですね。貴女の活躍は殿下から伺っています。殿下を救ってくれたこと、心から感謝いたします」
「よろしくっす! あとちっこいとか言わないでほしいっす!」
「事実でしょ? 同じ女性同士、仲良くしてね」
「は、はい! 皆さんよろしくお願いします」
私は深々と頭を下げた。
第一印象は、みんな個性が濃い人たちだな……と思った。
仲良くなれるだろうか?
「彼らは立場的に君と同じだ。上下関係も特にないから、気軽に接してくれていい」
「お、ってことは殿下。彼女も親衛隊入りですか?」
「わ、私がですか?」
「まぁそういうことにもなるが……強制じゃないからな。フレアの意志次第だ」
「えっと……」
反応に困って低回する。
嫌というわけじゃない。
殿下を支えてきた人たちの一員になることは、私にとっても望むところだけど。
「親衛隊って、何をするんですか?」
「俺が第二王子としていろいろやってることは話しただろ? あれの手伝い、俺と一緒に調査・解決に尽力してもらうのが親衛隊の役割だ」
闇市場の一件。
殿下は王国の陰に巣食う悪と日々戦っている。
確か以前、私は危険だから関わらないようにと忠告されたことを思い出す。
「あの時は考えが甘かった。痛感させられたよ……君の力を。これから先、何が起こるかわからない。不測の事態に備えるためには君の力がいる。危険なことに君を巻き込みたくない気持ちもある。だが……」
「殿下……」
とても悩んでいるのが伝わる。
個人的感情と、王子としてやるべきこと。
二つを天秤にかけて、どちらを優先すべきか決めかねている。
だから殿下は私に尋ねているんだ。
私がどうしたいか。
私の選択を聞いて、どうするべきか決めるために。
「協力させてください。あの時もそういうつもりでしたから」
「フレア……」
私の気持ちは決まっている。
殿下の傍で働くことが、私の役目であり、それこそが私の誉れだから。
「ありがとう。君は本当に、頼もしいな」
嬉しそうでもあり、悲しそうでもある。
複雑な殿下の心情を察して、私は心のうちで決意する。
殿下の力になることを。
そして、殿下に心配をかけないように努力することを。






