27.ゴーレム作りをします
「この辺りに……あった!」
リドリアさんは木箱をガサガサと漁り、分厚い冊子を取り出す。
表紙も何もなく、簡易的な報告書のような形式で、かなりのページ数がある。
「なんですか? これ」
「そのゴーレム作成の報告書です。前所長が残したものですね」
「報告書?」
「ここじゃ自分の研究成果も実績になりますからね。あの人もちゃっかり進捗を報告して、優秀な魔導具師アピールしてたんですよ。王国に」
初耳だった。
前所長の話ではなくて。
個人の研究成果を報告すると、国から認められるんだ……。
そんなの初めて聞いたよ。
リドリアさんの話だと、宮廷で働く人たちはみんなやっているらしい。
魔導具師に限らず、仕事以外の研究成果を上に報告している。
「まぁ、私はそんな余裕なかったんで随分やってませんけど」
「わ、私は今初めて知りました」
「あー、普通は所長から説明されるはずなんですけど……」
そういうことか。
私が宮廷に入ったその日から、前所長の嫌がらせは始まっていたと。
入ったばかりの頃なら初対面なのに?
下剋上を恐れてという話だったけど、あの人は単純に私のことが嫌いなだけな気もしてきた……。
「これも参考に使ってください。どうせこれも捨てちゃうんで」
「ありがとうございます」
リドリアさんから報告書を受け取り、軽く中身を見てみる。
前所長がどんなことを記しているのか。
意外としっかり要点をまとめて書いていることに、ちょっと驚いた。
「この報告書……私より見やすいですね」
「あの人あれで仕事はできるんですよ。所長になる前も、バリバリ働いてたって話ですからね。出世のために働いてたから、所長になってからあーなったんだと思います」
前所長がバリバリ働いている姿……まったく想像できないな。
当り前だけど、あの人も始めから所長の地位にいたわけじゃないんだよね。
そう思うと、私が知っているのは四年間の所長だけで、それ以前の彼女はわからない。
どんな人だったんだろう?
少し興味がわいたけど、この手にあるコアのほうが興味をそそられる。
「さっそく帰って調べてみます」
「ほどほどにしてくださいね? 明日も仕事があるんですから」
「大丈夫です。忙しいのは慣れてますから」
「それは私もそうですよ。けど、身体を壊してからじゃ遅いですからね。くれぐれも無理はしないでください」
私は頷き返事をする。
仕事の大変さを知っているからこそ、リドリアさんの言葉には重みを感じる。
◇◇◇
王城へと戻った私は、部屋に戻って早々に報告書とにらめっこする。
ページ数は童話本一冊くらいはある。
流し読みするだけでも相当な時間がかかりそうだ。
ただ……。
「……わかりやすい」
前所長のまとめ方がわかりやすくて、スラスラと読めてしまう。
普段本を読む速度より、明らかに速いペースでページをめくっている。
なんだか悔しい気持ちだ。
私もこれくらいわかりやすい報告書をかける様にならないと。
ゴーレム作り以外の部分でも勉強させられた。
「……よし、大体わかったかな」
結論から言えば、このコアは一割も完成していない。
起動と休止の命令は付与されているけど、肝心の行動パターンが何も入っていない。
素材はこの国で手に入る最高級の『魔鏡石』と『魔晶石』、特殊な鉱物を複数混ぜ合わせている。
魔鏡石は無機物の中で唯一、自ら魔力を生成する性質を持っている。
魔導具の核として使われる魔晶石と似ているが、まったく別の鉱物であり、魔鏡石は魔力を生み出し、魔晶石は魔力を蓄える性質を持つ。
通常、ゴーレムには魔力補充が必要になる。
王国で稼働するゴーレムは一日一回補充のタイミングがあり、ダンジョンなどで立ちふさがるゴーレムは、特殊な機構でダンジョン側から魔力が供給されている。
自律型ゴーレムは、この補充を必要とせず、自ら魔力を生み出し蓄えられないといけない。
ゴーレムのコアとしては、これ以上ないくらいしっかりした作りだ。
外側だけしっかり作って中身はこれから、という状況。
逆に都合がいい。
中途半端に命令を入れられているほうが面倒だから。
「命令パターンを選出して、優先順位をつけて……」
私はさっそくコアに書き込む命令を考えることにした。
魔導具作りと同じく、命令の数が多いほど作成の難易度はあがる。
通常のゴーレムなら、五から十の命令を付与すれば十分だけど……。
「自律型なら最低三十……ううん、四十はいる」
臨機応変な対応をするためには、様々なパターンを付与しなくてはならない。
その中でもっとも重要な命令は、自ら思考するというもの。
情報を記録し、その情報をもとに考える。
私たち人間が普段からやっていることを、ゴーレムにもやってもらいたい。
改めて思う。
自律型ゴーレム作りの難しさを。
人間が自らの手で、まったく別の生命を生み出すようなものだ。
それはまさに、神様のような行為だろう。
「あの人が必死になるわけだね」
一度始めてしまったら手が止まらない。
完成を見たい。
未知の領域へ踏み入れるワクワク感が、私を突き動かす。
もしかすると、これなのかもしれない。
私が生涯をかけて達成したい目標は。






