表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/67

19.意外な人物

 もしかして?


 宮廷での仕事中、ずっと頭の隅で考えていた。

 忘れようとしても難しい。

 あの光景が、感覚が、ハッキリと記憶されてしまったから。

 どす黒い霧のようなものを纏う彼の姿。

 その姿に私は恐怖した。

 呪いが目に見えるなら、きっとあんな色をしているんだろうなと。


「違う……よね」


 違うはずだ。

 だって彼は、殿下と協力して闇市場を調査している。

 このことを知っている人間は少ない。

 殿下からも信頼されているからこそ、彼はこの件に関わっているはずだ。

 彼が殿下を呪う理由がない。

 立場的にも、カイン様が殿下を呪い殺しても得はしない。


 はずだ。

 私が考える限りでは、違うだろうという結論に至る。

 だけど、脳裏によぎる。

 黒い霧を纏った彼の背中が。

 忘れられなくて、どうしようもなくて……。


「殿下……」


 早く会いたい。

 会って確かめたい。

 殿下を魔導具越しに見れば、このモヤモヤも解消される。

 私が感じている違和感も、勘違いだと証明できる。

 そうであってほしい。


  ◇◇◇


 いたずらに時間が過ぎて、夕刻。

 私は急ぎ足で王城に戻り、先に食堂へ入って殿下を待つ。

 しばらくして殿下は食堂にやってきた。


「殿下!」

「フレアか。ちゃんと眠れたか?」

「はい。おかげ様でぐっすりと! それよりも」


 私の右手には魔導具が握られている。

 殿下がそれに気づく。


「ああ、完成したんだな。半日足らずで完成させるなんて、君は本当にすごいよ」

「ありがとうございます」


 ねぎらいの言葉は嬉しい。

 だけど、今はそれ以上に知りたいことがある。


「夕食が終わったら試させてくれ」

「いえ、申し訳ありません」


 私は失礼を承知で言う。


「今、この場で試してもよろしいでしょうか」

「フレア……?」


 私は真剣な瞳で訴える。

 それが通じてくれたのか、殿下も真剣な表情になる。


「わかった。何かあるんだな」

「はい」


 どうしても、確かめずにはいられない。

 このモヤモヤを一秒でも早く払拭したい。

 どうかお願いだから……。


 私は魔導具を装着する。


 間違いであってほしい。


「――!」

「フレア?」

「……そんな……」

 

 私は自分の目を疑った。

 だけど、自分の作り出した魔導具の効果を疑いはしなかった。

 正常に作動している。

 だからこそ、混ざって見えている。

 輝かしく白い魔力の流れに、どす黒いモヤがかかっていた。


 私の頭には、様々な感情が一気に流れこんでいた。

 信じたくなかった事実を知り。

 そんな人物と、少し前まで婚約者だったことへの恐怖で、呼吸が乱れる。


「どうしたフレア!」

「はぁ、はぁ、っ、はぁ……」

「落ち着け! 大きく深呼吸するんだ!」


 過呼吸で倒れそうになる身体を殿下が支え、彼に手を握られながら大きく深く息を吸う。

 殿下の声と、心臓の音が聞こえる。

 落ち着きを取り戻していく。


「落ち着いたか?」

「は、はい……すみません」

「気にするな。それより何があった? いいや、何が見えた?」

「……」


 伝えるべきなのだろうか。

 もしも勘違いだったら?

 似ているだけ、という可能性もゼロじゃ……。


「フレア」


 彼は私の手をぎゅっと握る。


「俺はお前を信じて預けた。だから、何を言われようと信じる」

「殿下……」

「話してくれ。何を見たのか」

「……はい」

 

 私は殿下に話した。

 全てを。

 包み隠さず。


  ◇◇◇


 時は流れ。

 王城では夜会が開かれていた。

 三か月に一度、王城では名のある貴族たちを招いて夜会が開催される。

 その夜会には当然王族も参加する。

 今回は国王と第一王子が不在なため、第二王子であるユリウスが出席した。

 夜会は盛大に盛り上がった。

 その裏で、二人は邂逅する。


「一体何でしょう? 大切なお話があるということでしたが」

「ああ、君に話があるんだ。カイン侯爵子息」


 一つだけ明かりがついた暗い部屋で二人が向かい合う。

 夜会も直に終わる頃。

 皆が帰る前に、ユリウスは彼を呼び出した。


「例の情報はわかったかな?」

「いえ、まだです。闇市場と繋がっている貴族は不明です。やはり簡単には姿を現しませんね」

「そうだな。そういえば、闇市場と貴族の繋がりを教えてくれたのも君だった」

「ええ、そうです」

「君が掴んだ情報のおかげで、盗賊たちを速やかに捕縛できた」

「運がよかっただけです。迅速な対応も、すべて殿下のお力です」


 ユリウスはこれまでの経緯を思い返す。

 大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出しながら。


「だから、違うと思っていた。君だけは選択肢から除外していたんだ」

「殿下?」

「だってそうだろ? もしそうなら、俺に協力する意味はなんだ? 自分の首を絞めるだけなのに……そうじゃなかった。全ては俺の選択肢から、自らを消すために。わざと俺に近づいたんだな?」

「さっきから何を――」

「俺を呪ったのも、お前なんだな?」


 ユリウスは力強い眼光を向ける。

 もはや隠せない。

 呪いという単語を口にした時点で、後戻りはできない。


「それは……一体……」


 だが、間違いではない。

 彼は彼女を、フレアの腕を信じている。

 彼女は言った。

 自身を呪った犯人の名は――


「いつから気づいていたのですか?」

「やはりそうなのか……カイン!」


 お互いの表情が変わる。

 殿下は怒りに、カインはにやけ面に。

ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。

現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!

お好きな★を入れてください。


短編で評価してくれてた方ありがとうございます!

こっちでも評価してほしいです!


よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ