19.意外な人物
もしかして?
宮廷での仕事中、ずっと頭の隅で考えていた。
忘れようとしても難しい。
あの光景が、感覚が、ハッキリと記憶されてしまったから。
どす黒い霧のようなものを纏う彼の姿。
その姿に私は恐怖した。
呪いが目に見えるなら、きっとあんな色をしているんだろうなと。
「違う……よね」
違うはずだ。
だって彼は、殿下と協力して闇市場を調査している。
このことを知っている人間は少ない。
殿下からも信頼されているからこそ、彼はこの件に関わっているはずだ。
彼が殿下を呪う理由がない。
立場的にも、カイン様が殿下を呪い殺しても得はしない。
はずだ。
私が考える限りでは、違うだろうという結論に至る。
だけど、脳裏によぎる。
黒い霧を纏った彼の背中が。
忘れられなくて、どうしようもなくて……。
「殿下……」
早く会いたい。
会って確かめたい。
殿下を魔導具越しに見れば、このモヤモヤも解消される。
私が感じている違和感も、勘違いだと証明できる。
そうであってほしい。
◇◇◇
いたずらに時間が過ぎて、夕刻。
私は急ぎ足で王城に戻り、先に食堂へ入って殿下を待つ。
しばらくして殿下は食堂にやってきた。
「殿下!」
「フレアか。ちゃんと眠れたか?」
「はい。おかげ様でぐっすりと! それよりも」
私の右手には魔導具が握られている。
殿下がそれに気づく。
「ああ、完成したんだな。半日足らずで完成させるなんて、君は本当にすごいよ」
「ありがとうございます」
ねぎらいの言葉は嬉しい。
だけど、今はそれ以上に知りたいことがある。
「夕食が終わったら試させてくれ」
「いえ、申し訳ありません」
私は失礼を承知で言う。
「今、この場で試してもよろしいでしょうか」
「フレア……?」
私は真剣な瞳で訴える。
それが通じてくれたのか、殿下も真剣な表情になる。
「わかった。何かあるんだな」
「はい」
どうしても、確かめずにはいられない。
このモヤモヤを一秒でも早く払拭したい。
どうかお願いだから……。
私は魔導具を装着する。
間違いであってほしい。
「――!」
「フレア?」
「……そんな……」
私は自分の目を疑った。
だけど、自分の作り出した魔導具の効果を疑いはしなかった。
正常に作動している。
だからこそ、混ざって見えている。
輝かしく白い魔力の流れに、どす黒いモヤがかかっていた。
私の頭には、様々な感情が一気に流れこんでいた。
信じたくなかった事実を知り。
そんな人物と、少し前まで婚約者だったことへの恐怖で、呼吸が乱れる。
「どうしたフレア!」
「はぁ、はぁ、っ、はぁ……」
「落ち着け! 大きく深呼吸するんだ!」
過呼吸で倒れそうになる身体を殿下が支え、彼に手を握られながら大きく深く息を吸う。
殿下の声と、心臓の音が聞こえる。
落ち着きを取り戻していく。
「落ち着いたか?」
「は、はい……すみません」
「気にするな。それより何があった? いいや、何が見えた?」
「……」
伝えるべきなのだろうか。
もしも勘違いだったら?
似ているだけ、という可能性もゼロじゃ……。
「フレア」
彼は私の手をぎゅっと握る。
「俺はお前を信じて預けた。だから、何を言われようと信じる」
「殿下……」
「話してくれ。何を見たのか」
「……はい」
私は殿下に話した。
全てを。
包み隠さず。
◇◇◇
時は流れ。
王城では夜会が開かれていた。
三か月に一度、王城では名のある貴族たちを招いて夜会が開催される。
その夜会には当然王族も参加する。
今回は国王と第一王子が不在なため、第二王子であるユリウスが出席した。
夜会は盛大に盛り上がった。
その裏で、二人は邂逅する。
「一体何でしょう? 大切なお話があるということでしたが」
「ああ、君に話があるんだ。カイン侯爵子息」
一つだけ明かりがついた暗い部屋で二人が向かい合う。
夜会も直に終わる頃。
皆が帰る前に、ユリウスは彼を呼び出した。
「例の情報はわかったかな?」
「いえ、まだです。闇市場と繋がっている貴族は不明です。やはり簡単には姿を現しませんね」
「そうだな。そういえば、闇市場と貴族の繋がりを教えてくれたのも君だった」
「ええ、そうです」
「君が掴んだ情報のおかげで、盗賊たちを速やかに捕縛できた」
「運がよかっただけです。迅速な対応も、すべて殿下のお力です」
ユリウスはこれまでの経緯を思い返す。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出しながら。
「だから、違うと思っていた。君だけは選択肢から除外していたんだ」
「殿下?」
「だってそうだろ? もしそうなら、俺に協力する意味はなんだ? 自分の首を絞めるだけなのに……そうじゃなかった。全ては俺の選択肢から、自らを消すために。わざと俺に近づいたんだな?」
「さっきから何を――」
「俺を呪ったのも、お前なんだな?」
ユリウスは力強い眼光を向ける。
もはや隠せない。
呪いという単語を口にした時点で、後戻りはできない。
「それは……一体……」
だが、間違いではない。
彼は彼女を、フレアの腕を信じている。
彼女は言った。
自身を呪った犯人の名は――
「いつから気づいていたのですか?」
「やはりそうなのか……カイン!」
お互いの表情が変わる。
殿下は怒りに、カインはにやけ面に。
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