表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】無自覚な天才魔導具師はのんびり暮らしたい【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/67

18.お断りします

 身体が怠い。

 朝日が見えるまで作業していたのなんて、いつぶりだろうか。

 宮廷で働いていた時、最初の頃に何度かあったっけ?

 まだ慣れていなくて、それでもたくさん仕事を任されて。

 翌日が休みじゃなかったら、きっと身体を壊していたと思う。


「ぅ、うう……」


 深い眠りから目が覚める。

 机に突っ伏して眠っていたせいか、頬がじんわり痛い。

 顔と身体を起こすと、バサッと何かが落ちた。


「あれ?」


 落ちたのは毛布だった。

 床に落ちたものを拾い上げる。

 研究室に毛布なんて用意されていなかった。

 自分でかけた記憶もないし、いったい誰が……。


 と、テーブルの上を見ると一枚のメモが置かれていた。

 ただ一言。


 ありがとう。

 ゆっくりお休み。


 と記されていた。

 メモの端に名前が書いてある。


「殿下……」


 そうか。

 この毛布も殿下がかけてくれたんだ。

 きっと朝に私の様子を見に来てくれたんだろう。

 時計を見ると、短針は正午を過ぎて二時を指していた。

 ずいぶん眠ってしまった。

 私は大きく背伸びをする。


「うーん、はぁ……お腹すいた」


 まずは朝食、じゃなくて昼食を摂ろう。

 その後で今日の分の仕事を終らせて、夜になる前に殿下の元へ行かなきゃ。

 今からだとちょっとギリギリだけど。


「急げば間に合うね」


 普段三時間かかる仕事を二時間で終わらせればいい。

 目的の物は完成しているし、殿下に試すだけだ。

 私はささっと着替えを済ませ、今あるもので適当に昼食を作って食べた。

 身だしなみも軽く整え、はじける様に研究室を飛び出す。

 完成した眼鏡型魔導具をポケットにいれて。


「そうだ。試しにちょっとかけてみようかな」


 まだ効果を他人で試していない。

 王城にはたくさん人がいるし、通り過ぎる人たちを観察して、魔力が見えるか確かめておこう。

 そう考えた私は、ポケットから魔導具を取り出そうとした。


「フレア」


 その時だった。

 聞き覚えのある声が頭に響く。

 私はびくっと震え、体が固まってしまう。


 どうして?


 最初に浮かんだのは疑問だった。

 ここは王城だ。

 許可がなくては入ることができない。

 たとえ名のある貴族でも、簡単には出入りできない。

 だから平気だと思っていた。

 ここにいる間は、会うことはないだろうと。


 私は振り返る。


「カイン……様?」

「やぁ、久しぶりだね」


 振り返った先で、カイン様はにこりと微笑む。

 いつも通りに、よく知る顔で。


「カイン様が、どうして王城に?」

「ちょうど用事があったんだよ。ユリウス殿下に呼ばれてね」

「殿下に?」

「ああ。そういえば君、殿下の元で働いているんだって? 殿下からは聞いていなかったのかな?」


 知らない。

 殿下は一度も、カイン様との関わりを口にしていない。

 でも、カイン様と私が元婚約者だったことは知っているはず……。

 頭の中がごちゃごちゃして、うまく思考がまとまらない。


「殿下とは……どんな用件でこられたのですか?」

「ちょっと大きな声では言えないんだ。君が殿下と親しいのなら教えられたんだけど……ね」

「それって――」


 一つ、思い当たる節があった。

 口に出していいものか。

 違ったら?

 殿下に口止めされているわけじゃないけど、軽々しく話していい内情じゃない。

 ただ、どうしても気になって。


「闇市場……ですか?」


 私の口は勝手に動いていた。

 カイン様は驚いたような反応を見せる。


「なんだ知っていたのか。そうだよ。殿下とは共同で、闇市場について調べているんだ」

「どうしてカイン様が?」

「成り行きかな? 僕も被害者なのさ」


 彼はやれやれと首を横に振る。

 被害者……闇市場では盗品も出品されているという。

 ということは、カイン様も何か盗まれて?

 そんな話は一度も聞いていない。

 いいや、教えてもらっていなかっただけか。

 それ以上に、ホッとした。

 殿下が私に教えなかった理由がわかったから。


「そうだ。君に会ったらぜひ話したいことがあったんだ」

「なんでしょう?」

「君、僕の愛人にならないかい?」

「……え?」


 私の身体はカチッと硬直した。

 意味がわからなかった。

 いいや、意味はわかったけど、ありえないと思った。

 

 愛人?


「実はアリアから相談されてね? 君との婚約を破棄してからショックを受けていると。そんな君を見ていられないと泣きつかれてしまったよ」

「アリア……が?」


 何の話?

 確かにショックだったけど、アリアと話したときにカイン様のことは何も言っていない。

 少なくとも私の口からは。

 むしろ煽って……。


「このままでは可哀そうだからと、僕の愛人、もしくは第二夫人にすることを提案されたんだ」


 ああ、そうか。

 煽ったから、私に対する嫌がらせか。

 そう思うとアリアらしい。

 そして、彼女の言葉に簡単に流されてしまうところは、彼らしい。


「どうかな? 君が望むなら僕は――」

「申し訳ありません」


 私は頭を下げる。

 深々と、精一杯の誠意を込めて。


「丁重にお断りさせていただきます」

「……」


 カイン様は意外だったのだろう。

 そういう表情をしている。


「私は、そんなこと望んでいません。何より、一度離れた方のお傍に戻るなんて、無理ですよ」

「……いいのかい? 僕の傍にいることが、君にとって一番幸せなことだと思うけど?」

「私は今で十分に幸せです。ここで、殿下の元で働ける喜びがあれば、他に何もいりません」


 これ以上の言葉はない。

 私は殿下の元にいる。

 ここにいる。

 ただそれだけで、報われている。

 殿下は私のことを見ていてくれているから。

 何も見ていなかった……貴方とは違って。


「どうぞ、アリアとお幸せになってください」

「……そうか。なら、君と話すことは何もない」

「はい」


 私のほうこそ何もない。

 もう終わった話なんだから。


 私たちは反対方向に歩き出す。

 挨拶もなく、無言ですれ違う。

 おそらく二度と話すことはないだろう。

 そう思って、私はポケットの中から魔導具を取り出し耳にかける。

 特に意図があったわけじゃない。

 最後になるし、ちょうど目の前にいるから試そうと思っただけだ。


 私は彼を見た。

 魔導具を通して。


 瞬間、寒気がした。

 彼に宿る魔力はどす黒く……まるで呪いのようだったから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[気になる点] ストーリーの展開上とは思うけど、 自分から闇市場って言うのはうかつすぎる。 内心思った。とか、向こうに言わせる。 なら納得できるけど。 無自覚っていうか、世間知らずかなって。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ