17.光明
人間には魔力が流れている。
赤子から老人まで、どんな人間にも必ず魔力は宿っている。
しかし大半が弱すぎたり、魔法使いとしての才能がなくて実感できない。
内なる力を体現できるのは選ばれた者だけである。
そして魔力には個人差がある。
大きさ、量、性質が異なる。
人の容姿と同じように、似ていてもまったく同じものは存在しない。
と、言われている。
「この本の通りなら、今の殿下の身体には他人の魔力が混ざっているはずです」
「なるほどな。その魔力を調べて、一致する人物がいれば……」
それが犯人である。
「だが、どうなんだ? 魔力の識別なんて可能なのか?」
「できます。魔力の性質を調べる装置自体はあるのでそれを使えば……でも……」
それじゃだめだ。
殿下に流れる魔力を調べることはできる。
ただ、同じ方法を他の人たちにも試さないといけない。
犯人が素直に応じるだろうか?
私なら怪しんで近づかない。
調べるなら犯人に気づかれない方法で、もっと簡単にわからないと……。
たとえば、そう!
目で見ただけでわかるくらい。
「そうだ。魔眼」
「魔眼?」
「特別な力を宿す瞳のことです。数ある魔眼の中に、他人の魔力の流れを見る効果があります」
「そんな便利な眼があるのか。いや、だからといって魔眼を持っている人物なんて知らないぞ? 君の知り合いにいるのか?」
私は首を横に振る。
もちろんいるはずがない。
魔眼はとても希少で、国内でも確認された例は稀だ。
殿下が把握していないなら、私が知るはずもない。
「魔眼も元をたどれば魔法の一種です。だから魔法で再現できるんです」
「そうなのか」
「はい。たぶん」
「た、たぶん?」
殿下はキョトンと首を傾げる。
私は正直に答える。
「私も試したことはないので、やってみないとわかりません。でも、やれると思います。いえ、やってみせます!」
殿下の命を救うために。
私は決意を強く、拳をぐっと握る。
ただの希望論でしかない。
やれるとは言ったものの、確証は何もない。
それでもやる。
何がなんでも作って見せる。
「フレア……じゃあ、任せるよ。俺の未来を半分君に預けているんだ。君がやれると言うのなら、俺もそれを信じようじゃないか」
「はい。ありがとうございます!」
殿下ならそう言ってくれると思っていた。
私を信じてくれると。
だから、その信頼に応えよう。
私が持てる全てをかけて、必ず完成させて見せる。
◇◇◇
最初に取り掛かったのは、魔眼についての勉強だった。
呪いの時と同じく、私は魔眼のことをあまり知らない。
殿下にも手伝ってもらって、それらしい資料をかき集めた。
それらを読み漁る。
「そうなんだ。生まれ持った特別な魔法が眼に宿っているだけ……じゃあ魔法の中身さえわかれば再現できそうね」
続けて魔法のお勉強。
といっても、魔導具作りに魔法の知識は必要不可欠。
私はすでに、現存するほぼすべての魔法について理解している。
おさらい程度に、魔眼の効果に近い魔法をいくつか候補として出し、改良することにした。
「魔力性質の検査魔導具、あれも参考にしよう」
今回の手には使えないけど、調べるだけなら簡単にできる。
装置に魔力を流し込むと、その性質や量、体内を流れる速さなど細かな情報が検査できる。
宮廷にも何台かあったはずだ。
騎士団への入団テストに使うから。
私は宮廷まで走り、改めてその構造を確認する。
道中にたくさん顔見知りとすれ違ったけど、今は気にしていられない。
時間はあるようでないかもしれない。
今日が限度だと思って取り掛かる。
「器は……目で見るなら眼鏡にしよう」
周囲から疑われないように、できれば普通のデザインにしよう。
明らかに可笑しな形の装置をつけていたら、犯人が逃げてしまうかもしれないから。
魔法も重ね掛けしよう。
単一の魔法だけだと魔眼の効果を再現できない。
異なる効果、性質の魔法を組み合わせるのは難しい。
競合してしまい器が壊れて失敗するケースが多いからだ。
失敗すると魔法が暴発してしまう危険性がある。
最悪の場合、私が大けがをすることも……。
「やれるか……じゃないよね」
やると決めた。
リスクは承知の上でやってみせる。
何より、私がこれを完成させないと、殿下の命が尽きてしまう。
あの優しくて素敵な人がいなくなってしまう。
そんなのは……嫌だ。
私が怪我をするかもしれない?
それくらいで殿下を助けられるなら安いものでしょ?
「よーし」
私はぱちんと両の頬を叩いた。
気合を入れ、作業に取り掛かる。
集中して、思考して。
頭の中はあらゆるパターンの組み合わせを試し、実際に可能性が高い順番に試す。
チクタク、チクタク。
時計の針が進んでいく。
声は一言も発さず、作業をする音だけが部屋に響く。
夕方になったことも、そのまま日付が変わったことも、私は気づかなかった。
空腹も感じない。
私の全てをかけた集中力で、黙々と手元を動かす。
そして――
朝日が東の空から顔を出す頃。
「で、できた!」
疑似魔眼の魔導具は完成した。
感動と疲れが一気にこみ上げて、私はそのまま倒れるように眠る。
眠る前に見た朝日こそ、私にとっての光明だった。






