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【WEB版】無自覚な天才魔導具師はのんびり暮らしたい【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
第一章

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15.一緒にお勉強

 太陽が沈み、月が顔を出す。

 徐々に月の形が真ん丸に近づいてきた。

 雲もなくよく見える。

 夕食を済ませた私は、殿下に呼ばれて彼の寝室に来ていた。

 ここなら誰の邪魔も入らないから、と。


「どうですか?」

「ああ、ずいぶんと楽だよ」


 彼の腕には二つの腕輪が装着されている。

 一つは呪いの効果範囲を誤認させ、進行を妨害するための腕輪。

 もう一つは新たに作成した苦痛を軽減する腕輪だ。

 呪いに通常の回復魔法は効果を発揮しない。

 ただし一時的に痛みを和らげることはできる。

 殿下が受けている呪いは、日を増すことに効果が強くなるタイプらしい。

 昨日より今日のほうがきついはずだけど、腕輪をつけてからは落ち着いている。


「最初はやっぱり多少きついけど、苦しくて動けないってほどじゃなかった。本当によくできてるな、この魔導具」

「ありがとうございます。殿下のお役に立てて嬉しいです」


 少しだけ苦しそうだった殿下の表情が和らいだことを確認して、ホッとする。

 一先ず耐え難い痛みを和らげることには成功したようだ。

 ただ……。


「何度も言う通り、これで解呪できたわけじゃありません」

「ああ、わかってる。根本を解決しない限りは……」


 殿下の命が危うい。

 私が初めて会ったとき、すでに苦しさで呼吸困難になる段階に至っていた。

 呪いの全貌は未だわからない。

 それでも、呪いの完成が近いことはわかる。

 あとどれくらい猶予があるだろう。

 もしかすると数日……明日にも変化が起こるかも……。


「そんな顔するな。俺なら大丈夫だ」

「殿下……」


 無理して笑顔を作っているのがわかってしまう。

 命の終わりが近づいているのに、怖くないはずがないんだ。

 どんなに強い人でも、死ぬのは怖い。

 殿下だってきっと……私なら絶望して、その場で泣きじゃくってしまうだろう。

 この人は強い。

 それに、ただ強いだけじゃない。


「それよりどうだった? 屋敷に戻ったんだろ? 変なこと言われなかったか?」

「はい。大丈夫です」

「そうか。もし何かあったら必ず俺に相談してくれ。相手が誰であれ、君を不幸にさせる者を俺は許さない」

「ありがとう、ございます」


 その言葉だけで私は満たされる。

 温かすぎて溶けてしまいそうになる。

 殿下は強いだけじゃなくて優しい。

 自分が苦しい状況なのに、私のような他人の心配をしてくれる。

 誰にでもできることじゃない。

 少なくとも、私の周りにいた人たちは、自分のことを常に優先していた。

 人間とはそういうものだと、当り前だと思わされた。

 殿下と出会うまでは。


「私のほうでも呪いについて調べてみました。でも、あまり役に立ちそうな情報はなくて……」

「そうか。俺も調べたいんだが、中々時間がとれなくてな。昼間は公事もある。夜は呪いが強すぎて動けなかったが……」


 殿下はおもむろに椅子から立ち上がる。

 ぐぐっと背伸びをして、肩をぐるぐると回して見せる。


「今はこの通り動ける。から、書庫へ調べに行こうかと思っているんだ」

「でしたら私も行きます!」

「ははっ、君はゆっくり休んでいてくれ、というつもりだったんだが」

「私なら平気です。少し前までこの時間も働いていましたから」


 まだ日付も変わっていない。

 本当にきつくなるのは日付を超える数分前からだ。

 なんとかして今日中に終わらせたい、けど無理だよねこれ。

 となる時が一番つらい。

 あの頃に比べたら、自分の意志でやりたいと思えるだけ全然マシだ。


「本当にいいのか? 明日も仕事はあるんだぞ?」

「わかっています。それに、お仕事があるのは殿下もです。二人で調べたほうが早く終わります」

「ふっ、それもそうだな。じゃあ、お言葉に甘えるとしよう」


 私たちは一緒に部屋を出る。

 できる限り誰にも見つかれないようこっそりと。

 王城を熟知している殿下が、人通りの少ないルートを進んでいく。

 この時間は書庫を使う者はいない。

 必然的に書庫の周りにも人はいなくなる。

 無事にたどり着き、私たちは書庫へと入る。

 その広さと貯蔵されている本の量には圧巻だった。

 当り前だけど、屋敷の書斎とは規模が違う。

 まるで大図書館だ。


「こ、ここから探すんですね……」

「心配いらないよ。大体の場所は把握してる。直接調べる時間はなかったが、いずれ調べようとは思っていたからな。こっちだ」


 殿下に案内され、書庫の奥へと進む。

 

「読まれる頻度が高い本ほど入り口側にある。俺たちが探しているのはずっと奥だ」

「読まれないですよね。呪いに関する本なんて」

「ああ。俺もこうなって初めてだからな。呪いのことを調べるのは」


 自分が呪われることがなければ、一生考えなかったはずだ。

 私も、呪いという言葉をこんなにも身近で聞くとは思っていなかった。

 世の中には知らないことのほうが多い。

 そのことを再認識させられる。

 私もまだまだ勉強不足だと。


「ここだ。二十冊くらいか」

「半分は屋敷でも読んだことのある本みたいです」

「だったらそれは省こうか。残り半分を手分けして調べる感じで」

「はい」


 本を手に取り、窓際の席で二人で腰を下ろす。

 ちょうど月明かりが差し込む。


「月が綺麗だな」

「はい」

「夜は好きなんだけどな……呪いのせいで嫌いになりかけてたよ」


 話しながらページをめくる。

 月明かりに照らされた殿下は、いつになく妖艶で美しくて……見入ってしまう。


「ん? どうかしたか?」

「い、いえ!」


 最近なんだかずっと殿下のことを見ている気がする。

 自分でもわからないくらいに。


「その、殿下は普段何をされているんですか?」

「普段か? 仕事のこと?」

「それも含めて……」


 急に殿下のことが知りたくなった。 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 短編も読みたいけど見つけられません
[一言] 本日怒涛の更新ありがとうございました。ちょっと落ち込むことがあった日ですがこちらの作品で慰めてもらいました。
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