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【WEB版】無自覚な天才魔導具師はのんびり暮らしたい【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
第一章

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14.これが普通ですよね?

 屋敷から王城に戻った私は、駆け足で研究室へと向かった。

 特別めぼしい情報は手に入っていない。

 だからといって落胆する時間が惜しい。

 すでに午後三時を回り、夜までのタイムリミットが迫る。

 夜がくれば殿下はまた苦しむことになるだろう。

 呪いを解く方法はあとで考えるとして、夜までに完成させなくちゃ。


「急げ急げ」

「そんなに急ぐと誰かにぶつかるぞ」

「え、うわ!」

「っと」


 曲がり角を曲がろうとして、ふいに後ろから声をかけられた。

 咄嗟に振り向こうとして躓き、倒れそうになる私にそっと手を差し出される。


「危ないな。転ぶところだったぞ?」

「で、殿下」

「まぁ俺が声をかけたせいなんだけどな。ほら」

「ありがとうございます」


 殿下に手を引かれ、崩れた体勢を立て直す。

 立ち直って前を向く。

 引き寄せられたこともあって、顔と顔の距離が近い。

 殿下と目を合わせ、彼の存在を近くに感じて、思わず赤面する。


「どうした? 顔が赤いぞ? 熱でもあるのか?」

「あ、いえ! びっくりしちゃっただけです。あははははっ……」


 殿下の顔が近くてドキドキした、なんて言えない。

 改めて考えると、異性の方とここまで近い距離で話すのって初めてだ。

 その初めてが王子様っていうのは……。


 まるで本の中にいるみたいだなぁ。


「そんなに急いでどうしたんだ? 急用か?」

「はい。殿下のための魔導具を作ろうと思って」

「俺の? そのために急いでたのか」

「はい。夜までには作ってお渡ししたいですから」


 あんな苦しそうな顔は見たくない。

 殿下が辛い顔をされていると、それを見ている私も胸が痛くなるんだ。

 私の力で少しでも楽にできるなら、これほど嬉しいことはない。

 

「……そうか。俺のために」

「殿下?」

「ありがとう、フレア。君のその優しさは、俺にはもったいないくらいだよ」


 そう言って見せた殿下の表情は、今まで見たことがないほど綺麗で。

 透き通るガラス細工みたいにキラキラしていた。

 私は思わず見入ってしまう。


「もしよかったら、魔導具作りを見学してもいいか?」

「見学ですか? それはもちろん構いませんが」

「ありがとう。実は一度見てみたかったんだ。君が魔導具を作っている様子をね」

「私なんかでよければぜひ」


 私は殿下と一緒に研究室へ向かう。

 今度は転ばないようにゆっくり歩いて。

 研究室に到着して、テーブルの上に必要なものを並べていく。

 殿下が用意してくれたこの部屋には、魔導具作りに必要な道具が一通りそろっている。

 それもすべて最新のものだばかりだ。

 素材もお願いすれば用意してもらえる。

 宮廷よりも少し作業環境がよくなった。


 テーブルの上には軽石と鉄の粒、そして魔導具作りに欠かせない魔晶石がある。


「じゃあ始めますね」

「ああ。ここで見させてもらうよ」


 殿下が隣で見ている。

 ぜひ、とか口では言ったけど、こうして見られるのは緊張する。

 殿下に限らず、他人に仕事を見られる経験は今までなかった。

 所長も小言を言いにくるだけで、私の仕事そのものには関心がなかったみたいだし。

 私は大きく深呼吸をする。

 作りたい物のイメージはハッキリしている。

 付与する魔法も、構造も。

 完成までにかかる時間は、大体三十分くらいかな?

 殿下の前だし、いいところを見せたい気持ちもある。


「よし」


 私は殿下には聞こえないように、極々小さな声でやる気を発露した。

 最初に取り掛かったのは魔導具の器づくり。

 用意した素材を一か所に集めて、不要なものはテーブルの端にどける。

 形状は一つ目と同じ腕輪にしよう。

 私は素材に手をかざす。


「クリエイト」


 魔法を発動して、素材を合成していく。

 光に包まれた素材が腕輪へと変化するのに、二秒ほど時間がかかった。


「今のは魔法か?」

「はい。錬成魔法です。素材さえあればイメージした形に合成できます。私にはこの魔法があるので、器を用意するのが簡単なんです」


 これは魔導具師に必須の力ではない。

 魔導具師には魔法使いとしての才能を持っている者が多く、私もいくつか魔法が使える。

 錬成魔法もその一つ。


「すごいじゃないか」

「いえ、こんなのは便利というだけで、あってもなくても魔導具師にはなれます。大切なのはここからです」


 器は依頼すれば用意してもらえる。

 私たちが魔導具師であるための必須事項は、このただの腕輪を特別な道具に変えることにある。

 そして、それを為すために絶対に必要な才能が……。


 魔力を直接体外に放出すること。


 通常、魔力は身体の内に流れるエネルギーで、外への放出はできない。

 魔法使いも魔力を消費し、魔法として外に放出している。

 魔力の流れを直接操り、体外で自在に操る。

 これができなければ、道具に魔法の効果を付与できない。


 私は指先に魔力を集め、光のインクを生み出す。

 これを使って先ほど一緒に合成した魔晶石に魔法を記していく。

 今回付与するのは回復の魔法。

 呪いの対象を広げる腕輪はすでに殿下が身に着けている。

 呪いの進行を直接防ぐことはできない。

 だからせめて、痛みやダルさを軽減できればと。


 一種類だと心もとない。

 五種類は重ね掛けしよう。

 重ね掛けをする場合、一つの魔法を付与してから定着するまで待ち、次の魔法を付与する。

 この工程を必要回数繰り返す。


「綺麗だな」

「……」


 私は黙々と作業を進める。

 隣で殿下が笑ったような気がしたけど、集中している手は止まらない。

 そうして最後の一つを付与し終わり、最後に魔力を流して動くかどうかを確認したら。


「できました」

「もう完成したのか? まだ十五分ほどしか経ってないぞ」

「作るのは一つだけだったので……」

「いや……それでも早い気がするが、これが普通なのか?」

「どうなんでしょうか……?」


 そういえば、他の魔導具師の仕事を見たことがなかった。

 私は独学だし、基礎も本を読んで覚えただけで、あとは自分で何度も繰り返して学んだ。

 この方法が正しいのかどうかも、正直わかっていない。

 少し作るのが早い程度だと思っていたけど……。


「どうなのかな?」


 私って、魔導具師としてどのくらいの腕なんだろう。

 この道に進んで初めて、そんなことを考えた。

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