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13.許せない

 アリア・ロースター。

 彼女の人生は、常に勝利で溢れていた。

 生まれながらにして優遇され、宝石のように大切に扱われる。

 ほしいものはすぐ手に入り、何不自由のない生活。

 そんな彼女の視界には、いつも可哀そうな姉の姿があった。


 長女でありながら、腹違いの娘であるため家族から敬遠されている。

 屋敷ではいないものとして扱われ、声を発しても無視される。

 望んでも何も手に入らない。

 自分とは正反対な人生を送る姉に、少なからず憐れみを感じていた。

 が、それ以上に優越感を覚えた。


「ふふっ、やっぱりアリアは特別なのね」


 哀れな姉の存在が、自身の優位性を実感させる。

 彼女が傍にいるからこそ、自分が選ばれた人間なのだと思える。

 生まれも、容姿も、才能も自分のほうが上。

 少しだけ早く生まれただけで、年齢以外に負けている要素は一つもない。


 ああ、なんて簡単な人生なのかしら。


 彼女はそう思っていた。

 しかし、何もできない哀れなだけの姉には、他の追随を許さない希少な才能があった。

 それは、魔導具師としての才能である。

 魔法の効果を物に付与することができる者は限られている。

 魔法を扱う才能と、魔力そのものを操り、体外に放出する才能が不可欠だ。

 魔導具師は自身の指から魔力を放出し、魔力をインクにして道具に魔法を付与する。

 文字や記号で魔法を現すことが必要になり、そこには膨大な知識がいる。

 誰でもなれる簡単な職業ではなかった。

 まさに選ばれし天才だけが手にする役職の名だ。


 フレアは幼くして魔導具師としての才能に目覚めた。

 独学で魔導具作成の知識を学び、瞬く間に成長して最年少で宮廷魔導具師になった。

 周囲の反応も少しだけ変化し、柔らかくなった。

 それでも姉妹の優位性は変わらなかったが、少なからず彼女を認める者が現れだしたのは事実だった。

 それが、アリアには許せなかった。

 自分より優れている分野が姉にあることが、彼女を不快にさせた。


「アリアが一番なのよ」


 だから、さらに姉を辱めることにした。

 婚約者を奪い、立場を奪い、フレアが持っているわずかな財産のすべてを奪いつくして。

 空っぽにしてから盛大に憐れんでやろうと思っていた。


 それなのに……。


「……」


 書斎からフレアが去った後、アリアは一人立ち尽くす。

 悔しさに唇をかみしめる。

 人生で初めて、フレアに煽られた屈辱で、腸が煮えくり返りそうになっている。


「スゥーハー……まぁいいわ」


 あふれ出る怒りを深呼吸で抑え込み、アリアは書斎を出ていく。

 足取りは軽く、向かう先は屋敷の玄関。

 今日は来客がある。

 その人物の顔を思い浮かべて、彼女はニヤリと笑う。


「ふふっ、お姉さまったら、もう少し待っていればよかったのに」


 そうすればバッタリ遭遇、なんてことが起きただろう。

 彼女は一体どんな顔をするだろうか。

 きっと悔しさと恥ずかしさで目も合わせられない。

 その様を想像して、アリアは再び優越感に浸る。

 そう、来客とは……。


「やぁ、アリア」

「いらっしゃいませ! カイン様」


 フレアの元婚約者であり、アリアの現婚約者。

 カイン・バルムスト。

 彼は優しくニコリと微笑みながら、出迎えたアリアに歩み寄る。


「お招きいただき感謝するよ、アリア」

「いえ、アリアのほうこそ、カイン様に来ていただけて幸せですわ」

「嬉しいことを言ってくれるね」


 カインは屋敷の中をキョロキョロ見回す。


「今日も御父上は不在なのかい?」

「はい。お父様は夜には戻られるそうです」

「そうか。挨拶をと思ったけど、さすがに夜までは一緒にいられないな」

「お父様には私からお伝えしておきますわ」

「ありがとう」


 二人は玄関からアリアの部屋へ移動する。

 この日は特に理由があったわけではなく、ただの談笑をするために集まった。

 婚約者になる以前から二人はこうして会っていた。

 今まではこっそりとしていたが、婚約者になったことで隠れる必要もなくなり、今では堂々と屋敷に会いに来ている。


「御父上もお忙しいのだな。いつも一人では寂しくないかい?」

「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫です。私は、カイン様がこうして会いに来てくださるだけで胸がいっぱいになります。寂しくはありません」

「アリア……君は本当に素直な子だね」

「カイン様だからです」


 カインはすでにアリアの虜となっている。

 彼女は意図的にカインに接触し、親密になれるよう振舞っていた。

 すべては姉から彼を奪い取るために。

 男性に好かれる仕草やしゃべり方、雰囲気の出し方まで彼女は身に付けている。

 彼女を前にすれば、どんな男性でも好意を寄せてしまうだろう。

 心から大切に思える存在がいなければ……。


「カイン様はお優しいですね」

「そうでもないさ。僕はひどい男だよ」

「お姉さまのことですか? それなら心配いりません。先ほど書斎に来られていましたが、とても元気そうでした」

「フレアが来ていたのか?」

「はい。調べ物をするために、と言っていました。本当かどうかわかりません」


 婚約破棄されても平気な顔をしている。

 カインにそう思わせることでフレアの印象を悪くさせようとしている。

 

「フレアは今、確か第二王子の元で仕事をしているんだったね。何をしているのか教えてもらったかい?」

「聞きましたけど答えてくれませんでした。妹に意地悪するなんて、ひどいお姉さまです」

「そうなのか。調べものというのは?」

「それも教えてくれませんでした。呪いに関する本を読んでいたみたいですね」

「呪い……?」

「はい。一体なんのために読んでいたんでしょう」


 クスクスとアリアは笑う。

 

「それは怖いな。もしかして、僕を呪う方法を調べていたのかも」

「まぁ怖い! アリアがそんなことさせません!」

「ありがとう、アリア。今日もゆっくりしよう」

「はい」


 そうして二人は手を握り合い、見つめ合う。

 お互いに求め合っているようで、異なる先を見据えながら。

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― 新着の感想 ―
[一言] ( ̄□ ̄;)!!え? 呪いの元?
[一言] 妹こわ〜。 王子の仕事を受けてたら大抵守秘義務で喋れないよ。 それから、呪いってキーワードが二人に知られたから、どんな使い方してくるか。 迷惑行為に使うこと間違いなしだね。
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