表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/67

11.ロースター家

 夜。

 宮廷で働く者たちの多くは夕方には帰宅する。

 どれだけ遅くても、日が完全に沈む頃には宮廷を出る。

 唯一の例外は存在した。

 宮廷魔導具師のフレア。

 彼女だけが日付が変わるまで宮廷で働いていた。

 

 が、その例外が交代した。


「これでやっと終わり……残りは……」


 テーブルの上に積み上げられた書類。

 すべて発注書である。

 宮廷では必要に応じて魔導具を発注し、期日までに作成して納品する仕事がある。

 基本的な業務はすでに出回っている魔導具の管理と調整。

 新たな魔導具の作成は、時間とコストがかかるため頻繁には行われない。

 そのすべてをフレアに一任していたため、魔導具を一から作るのは数年ぶりだった。


 一体誰の話か?

 もちろん、宮廷魔導具師の所長である。


「今日は残り一時間? 冗談でしょ……?」


 時計を見て時間を疑う。

 何度確認しても午後十一時を回ったところだった。

 宮廷には誰も残っていない。

 自分一人だけが残され、孤独の中仕事を続ける。

 いつ終わるのかわからない大量の仕事を。

 しかしこれも自業自得。

 頼れる者たちがいない苦しみを、今度は彼女自身が味わうことになった。


「なんで私がこんな……私は所長なのに」


 フレアと違い彼女には、この状況から抜け出す有効な方法があった。

 それは自身の非を認め、フレアに謝罪すること。

 これまで彼女にしてきた仕打ちを反省し、二度としないと誓えば、優しいユリウス殿下は慈悲を与えるだろう。

 直接言われたわけじゃない。

 ただ、そうなる可能性が高いことを所長自身が感じていた。

 気づいていながら実行しないのは、彼女のプライドである。

 宮廷魔導具師の所長とは、この国でもっともすぐれた魔導具師であることの証明。

 そんな立場に上り詰めた自負が、他人に頭を下げることを許さない。


 彼女は黙々と仕事を続ける。


 プライドが折れるのが先か。

 身体と精神が壊れてしまうのが先か。

 どちらにしろ、今の彼女に明るい未来は存在しない。


  ◇◇◇


 殿下を呪った犯人探しに協力することを決めた翌日。

 私は一人、宮廷の地下に来ていた。

 自分で請け負った仕事はしっかりとこなす。

 その上で、殿下を呪った人物を見つけ出す。

 私なりのやり方で。


 魔導機関をチェックしながら思考をめぐらす。

 昨日の晩、私はじっくり考えた。

 どうすれば犯人を見つけられるのか。

 闇雲に探しても見つかるはずがない。

 そんな簡単に見つかるなら、殿下がとっくに見つけているはずだ。


「まずは呪いについてもっと勉強しないと」


 午前中に仕事を終らせた私は、その足である場所に向かった。


  ◇◇◇


「――ただいま」


 ロースター家本宅。

 私が少し前まで暮らしていた場所。

 本来いるべき屋敷。

 正直ここへはきたくなかった。

 思い出したくない思い出がたくさん詰まっている。

 でも、一番この屋敷で調べるのが効率がいい。

 よくも悪くも、慣れ親しんだ場所だ。


 屋敷の廊下を歩く。

 私を見た使用人たちが一瞬驚いた顔をして、何事もなかったかのように頭をさげる。

 一応、私に対する礼儀は守ってくれるからこの人たちはマシだ。

 できればお父様やアリアとは顔を合わせたくないな。

 二人ともこの時間なら不在だろうし、義母様はあまり部屋から出てこないから大丈夫だろうけど。


「……嫌な視線」


 ずっと感じている。

 どうして戻ってきたの?

 何しにきたの?

 そんな意味を含んだ視線があちこちから感じられる。

 ここは私の家で、私はここで育った。

 自分の家に帰ってきて何が悪いの?

 何が不思議なの?

 本当に居心地が悪い場所。

 王城のほうが……殿下のそばのほうが、何倍も心地いい。


 私は視線を全部無視して書斎に向かった。

 書斎は屋敷の奥にある。

 私が魔導具作りを学んだ場所でもあった。


「本の匂い……うん」


 この部屋は落ち着く。

 みんな使わないから、私だけの部屋みたいになっていた。

 屋敷の中でもこの書斎だけは、私がゆっくり落ち着いて考え事をできる。


「呪い、呪い……あった」


 書斎の棚から本を探す。

 王城にも書斎はあったけど、ここより広く本の数も多い。

 それだと逆に探せないから、勝手知る我が家に帰ってきた。

 呪いについて記された本を数冊手に取り、椅子に座って広げる。

 ここにある本はほとんど目を通した。

 といっても一度しか読んでいない本は、時間が経てば内容も忘れてしまう。

 

 呪い。

 それは魔法の一種であり、特定の条件を満たすことで対象を死に至らしめる。

 条件は多岐にわたり、もっとも単純な条件は接触によるもの。

 対象に触れることで呪いを付与する。

 より複雑かつ縛りのきつい条件を設けることで、呪いの効果は飛躍的に向上する。

 呪いに対するもっとも有効的な対処法は……。


「発動者を無力化すること……か」


 結局殿下を救うためには犯人を見つけるしかないみたいだ。

 問題はどうやって探すか。

 そもそも犯人はどのタイミングで殿下を呪いの対象に指定したんだろう?

 この本によれば、呪いの効果は発動者が一定範囲内にいないと弱まるらしい。

 つまり、犯人は殿下の近く……少なくとも王都にはいるはず。


「せめて動機とか、呪いをかけた方法がわかれば……」

「――あら、これはこれは驚きましたわ」


 ガシャっと扉が開く。

 ノックもせず。

 使用人なら咎められる行為だけど、彼女なら怒られない。

 甲高い声で得意げに笑いながら、彼女は私を呼ぶ。


「こんにちは、お姉さま」

「……アリア」


 私から婚約者を奪った……私の妹。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ