10.夜の密会?
一時間、二時間。
特にやることもなく、いたずらに時間だけが過ぎていく。
こういう暇な時間が嫌で、何か仕事をしていたい。
そう思っていたはずなのに、今はまったく別のことで頭がいっぱいだった。
「……で、殿下のあれ……そういう意味かな?」
夜を私と過ごしたい。
昼食の終わりに殿下が私に言った一言が気になって、他のことは考えられない。
椅子に座って時計を眺めながら、結論のでない問答を繰り返す。
「やっぱりそういう……いやでも……」
肯定と否定を繰り返す。
結局、その意図を知っているのは殿下だけだ。
私にできることは、殿下の意図を知った時にどうするか。
もしも……殿下がそのつもりで私を呼んだのなら……。
「私は……どうしたい?」
自分に問いかける。
わからない。
でも、嫌ではなかった。
どういう形にしろ、誰かに求められたことのない私にとって、少なからず嬉しさを感じるから。
そうこう考えているうちに時間は過ぎていく。
太陽が西の空に沈み、オレンジ色の光が部屋を彩る。
そしてゆっくりと輝きは薄れ、夜になる。
今夜は特に月が綺麗だった。
◇◇◇
夕食の時間になり、私は食堂へ急いだ。
明確に時間が決まっているわけじゃないけど、殿下を待たせるのは失礼だ。
それに、いち早く殿下の言葉の真意が知りたくて。
扉を開けると、すでに殿下が待っていた。
「お、早かったな」
「殿下! お、お待たせして申し訳ありません」
「いや、俺も今来たところだから気にしなくていい」
「……」
私は殿下の顔をじっと見つめる。
「どうした? 早く座ったらどうだ?」
「は、はい」
私は慌てて席につく。
座ってから、そこが誰の席だったか思い出す。
いろいろ考えているせいで頭の中がごちゃついている。
そこへ夕食が運ばれてきた。
昼食よりも豪勢できらびやか。
まさに王族の晩餐という光景に、思わずごくりと唾を飲む。
「さぁ、食べよう」
「はい!」
食事に手を付ける。
昼食の時と同じ、本当に美味しくて幸せだ。
ただ、手が止まらないというわけではなかった。
別の緊張で料理に集中できない。
「どうした?」
「い、いえ、殿下は――」
ふと気づく。
殿下の顔色が、昼間に比べて優れない。
元気がないように見えた。
「俺がどうかしたか?」
「あ、えっと、殿下の午後のお仕事ってどんなものだったのかと」
「ん? よくある書類作業だよ。ここのところいろいろあって溜まってたんだ。今日の昼間で一気に終わらせた」
「そうだったんですね。お疲れ様でした」
殿下はありがとうと答えた。
そのせいで疲れている?
だったら気にしなくていいのかな?
食事が終わる。
「ご馳走様。フレア、昼に話したと思うけど」
「は、はい!」
「この後一緒に、俺の部屋まで来てくれるか?」
「……はい」
ついにこの時がやってきた。
私は殿下に連れられ、殿下の部屋に案内される。
案内されたのは執務室ではなく、寝室だった。
豪華なベッドがある。
私はごくりと唾を飲む。
「で、殿下……」
「ここなら誰の目もない」
やっぱりそういう意味で私を呼んで……?
覚悟はしていたけど、実際そうだと思うと緊張して、胸の鼓動が早くなる。
が、突然殿下はベッドに座り込む。
胸を押さえて苦しそうに。
「ぐっ……やっぱり始めはきついな」
「で、殿下!」
急いで駆け寄る。
体中から流れる汗は発熱を意味する。
胸が苦しいのだろう。
押さえている右手にはめられた腕輪が、黒く変色していることに気付いた。
「もしかして呪いが」
「ああ……夜になると強くなるんだ」
殿下は苦しそうな声で答える。
私が渡した呪いを抑える魔導具はしっかり機能している。
黒く変色しているのがその証拠だ。
なのに、殿下はひどく苦しそうで……。
「昨日より……また強くなってるんだ。呪いが発動する時間帯に入って最初の一時間くらいは、意識が飛びそうな痛みが走るんだよ」
「そ、そんな……」
「この腕輪のおかげでだいぶマシだけどね。本当に助かってるよ」
「殿下……」
私が思っていた以上に強い呪いだったらしい。
日数の経過と共に強くなる。
昨日より今日、今日よりも明日はもっと激しい痛みに襲われる。
そして最後は……死が待っている。
「このことで君に相談したくてね。呪いのことを知っているのは君だけだから、どうにか二人だけになれる場所を選んだんだ」
「そうだったんですね……」
私は自分が恥ずかしくなった。
殿下が苦しんでいるのに、私は何を腑抜けたことを考えていたのか。
ちょっと考えればわかったはずなのに。
「申し訳ありません、殿下」
「なんで君が謝るんだ? 君のおかげでこの程度で済んでいるんだ。君は俺の、命の恩人だよ」
「ですが……」
呪いを解呪できたわけじゃない。
解かなければ進行する。
最悪の未来が訪れる。
「君に頼みたいのは、一時的でいいから呪いの進行を止める方法を聞きたくてね。この腕輪に近い何かを作ってもらえないか?」
「それはもちろん! 殿下のためなら私なんでも作ります!」
「ありがとう。頼もしいよ」
しばらくすると、呼吸の乱れが落ち着いていくのがわかった。
呪い発動初期に来る強烈な痛みが治まったのだろう。
殿下は汗をぬぐう。
「まったく困ったな」
「どうにかならないんですか?」
「前にも言ったけど、呪いは発動者を見つけて対処しないといけない。今は独自に調べて探している最中なんだ」
「手掛かりは?」
殿下は首を横に振る。
「こういう立場だ。俺を殺したい人間はたくさんいる。誰が犯人なのか正直わからない」
「そんな……」
「でも、このまま死ぬつもりはない。必ず見つけて見せる」
「……あの! 私にも手伝わせてください!」
それは、自分でも驚くほど自然に口から出た言葉だった。
きっと心から思ったことなのだろう。
「私は殿下の魔導具師です。私の力も使ってください!」
「……危険だぞ」
「わかっています。それでも、殿下にいなくなってほしく、ないんです」
こんなにも優しくて、紳士的な人はいない。
私のことを認めてくれた。
あの地獄から救い上げてくれた。
だから、苦しんでいると知っていて、何もできないなんて嫌だ。
「お願いします!」
「フレア……わかったよ」
殿下は優しく微笑む。
「俺の命、未来を君に半分託そう」
「はい!」
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