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自分に出来ること、やるべきこと

短めです。

 

騒がしい音が聞こえてきて意識が覚醒し始めた。


目を開けると白いテントが視界に入ってきた。


「オーウェン、気が付いた?」


医療魔導士であるカリンがオーウェンに気が付き声を掛けた。


「えっと……」


何でここに寝ているのか。自分は確か、ミラーズ山にいたんじゃなかったか?副団長とアシュリーと三人で。


ゆっくりと身体を起こして、壁に背中を凭れ掛からせた。そして、覚醒したばかりで働かない頭を無理やり動かして記憶をたどる。


黒闘牛(ビルファイト)を討伐して、中腹部に向かって、魔獣たちが乱闘をしていて、副団長の加勢に向かって一角熊(いっかくぐま)を倒そうと剣を抜いて…。


激しい爆音と衝撃と背中に受けた激痛と。そこで意識が無くなった。


「サミュエル副団長とアシュリーは?」

「……サミュエル副団長があなたをここまで運んでくれたの。後でお礼を言っておくといいわ。アシュリーは、……今、捜索中」

「は…?」

「……今、ゲオルフ団長とサミュエル副団長が中心になってアシュリーを捜しているから」

「そんな……」


あの時、なんでアシュリーから離れたのか。動きの鈍い思考で後悔をする。


自分がアシュリーから離れなければ、こんなことにはならなかったか?いや、そんなことは無い。あの場に自分がいたとしたら、二人で行方不明になっていただけのことだ。でも、少なくともアシュリーを一人にすることはなかったかもしれない。


「身体強化を掛けていたおかげで、大事に至らなかったのは幸いね。傷や骨折は治っているけど、意識が戻らなくて心配したのよ。本当に良かった」

「良かった……?」


そうだ。良かった。すぐにでもアシュリーを捜しに行かなくては。


「ありがとう、カリン。俺戻らないと」

「待って」

「何?」

「あなたは村の噴出物の撤去をするようにって」

「は?」


カリンが申し訳なさそうな顔をして、オーウェンを見た。


「アシュリーを捜したい気持ちは分かるけど、今は他の人に任せて。噴出物の撤去も重要な仕事なのよ」

「でも、俺は」

「サミュエル副団長が捜しているわ。ゲオルフ団長も。他にも二十人が捜索活動をしているの。だから、あなたはあなたに与えられた仕事をしっかりやるべきよ」


カリンの言葉は正しい。オーウェンにも分っている。しかし、自分だけが無事に戻ってきてアシュリーが行方不明だなんて、何もせずにいられるわけがない。


「オーウェン」

「……分かっている……」


オーウェンはグッと拳を握って立ち上がり、医療用テントを出て自分のテントに向かった。






アシュリーが行方不明になってから既に一週間が過ぎていた。


その間に村の状態はほぼ元通りになり、撤去した灰はレンガとして生まれ変わり、村で建築材として使われることになった。


村民に広がった火山灰による健康被害は、治療薬を飲ませ灰を吸い込まないようにした結果、症状が改善し、さらに治療薬の効果で他の病気まで治るというおまけまで付けて喜ばれた。


騎士団が使う治療薬は、ある程度の病気や怪我に有効なため高額で、簡単に手に入れることは出来ない。公爵家が抱える薬師が作る特別な治療薬なのだ。


魔獣は村までは下りて来ることはなかったが、中腹部より下に下りてきていることは確かで、このままでは今までの形態が崩れることが懸念された。暫くは様子を見ていなくてはいけない。


アシュリーを見つける手掛かりは未だにない。


ただ、一つの可能性として、アシュリーを最後に見た場所から百メートル程進んだところに崖があり、吹き飛んだ衝撃で崖から落ちたのではないかと考えられた。しかし、人は百メートルも空中を飛んでいられるのだろうか?爆風で。


殆どゼロに近い可能性を考えて崖の下まで捜索範囲を広げたのは、サミュエルが強く希望したというのもあるし、あのアシュリーなら、という理由もあった。噴石を避けて跳んだ可能性もあるし、なんなら紅狼(ガオルフ)怪鳥竜(ワイバーン)辺りに乗って、噴石を避けたかもしれない。


そして、冗談のような可能性に期待して、崖の下を見た時の絶望感に底は無かった。崖が崩れたのか大きな岩がゴロゴロしていて川を塞ぎ、沢山の魔獣が岩の下敷きになっていた。その中には紅狼(ガオルフ)もいた。


川の水は岩の隙間を通りゆっくりと流れているが、岩が塞いでいる部分には水が溜まっている。


団員はひたすら無事を祈ってアシュリーを捜索していた。出来ることなら、この岩の下から発見されることがないように。でも早く見つかって欲しい。


期待と絶望の矛盾を綯交(ないま)ぜにして作業は何日も続いた。







読んで下さりありがとうございます。

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