先遣隊のお仕事
早朝に出発した先遣隊は、その日の夕方にはウェルザー村に着いた。
ウェルザー村は火口からかなり距離がある為、大きな被害は受けてはいなかったが、噴出物や噴煙で村中が灰や埃塗れだった。
当然のことながら、ギャビンが期待していた温泉など入れる状態にない。ギャビンはがっくりしたが、灰を除去すれば入れるかも、と希望は捨ててはいない。
そのほか、粉塵を吸い込み気管支を痛めた者もいて、健康被害が出ていることが分かった。治療薬が予定よりも多く要りそうだ。
火山灰の処理は難しい。水に溶けない為、箒で掃き集めるか風で飛ばして集めるかといういう話になったが、風で飛ばして更に健康被害に繋がったら困ると言うことになり、箒で灰を集めることになった。
集めた灰は処分が大変なので、土魔法使いが土と灰を混ぜて固め、レンガを作ることになった。
火口からは未だに白い煙が立ち上っている以外に、別段変わりはないように見えるが、ずっと低い音が聞こえている。山が唸っているのか動物が混乱しているのかは分からないが、山の中の状況は今ここから見えているそれとは違うだろう。
あらかたやるべきことが決まったので、小隊を作って仕事を分担することになった。
状況報告の為に一人が騎士団に戻り、村人の状況確認や治療を、ヤクマ、マシュー。
噴出物集めなどの掃除やレンガ造りを、トマス、ギャビン、ガイ、アレックス。
入山しての状況確認を、サミュエル、アシュリー、オーウェン。
「私たちは山の中腹部まで向かう予定です」
「分かった、気を付けろよ」
サミュエルを小隊長とした偵察部隊は、村に着いた翌朝ミラーズ山に入山した。
山中は木の葉が灰を遮っていて、地面にはそれほど多く降ってはいなかったが、動物の姿は見掛けなかった。それは当然か。自然界に生きる動物は人間よりずっと敏感に噴火を察知して、既に逃げた後なのだろう。
「地面深くに潜った動物もいるでしょうね」
「野生の動物はいいんだ。もっと山の上の方に居る魔獣がどうなっているか心配だ」
岩漿がどこまで流れているのか。小規模というのはあくまで監視塔からの報告で、実際に村民から聞くと、かなりの衝撃があり岩漿が噴き出す瞬間が見えたという話も聞けた。
その割には村に被害が少なかったのは不幸中の幸いだと、村長が話してくれた。
長く広がった裾野が村への被害を最小限にしてくれたことは間違いない。
しかし山の中は普段と大きくその姿を変えているようだ。
「やっぱり嫌な予感がするなぁ」
「中腹部まで急ぎましょう」
三人は身体強化を掛け中腹部まで一気に駆け上がって行くことにした。
中腹部に着く手前で一度休憩を取り、回復薬を飲んで体力の回復を図る。灰が入らないように布で口を塞いでいる為、走っている間、呼吸がしづらく息苦しかった。
「キツイ」
オーウェンは、あーッと天を仰いで力無く声を上げた。
「ゴーグルも必要だったな、灰が舞い上がると目がゴロゴロする」
サミュエルは何度も目を擦っていたが、諦めて水で目を洗っている。
ここまで登ってきて気が付いたことと言えば動物が全くいないこと。既に息絶えた動物はいくつか見掛けたが、生きている動物は一頭も見なかった。
「サミュ副団長、上の方でかなり混乱している感じがしますね」
アシュリーは何やらソワソワしている。
「うん、私もそんな雰囲気を感じている」
「いや、副団長。それよりあっちの方になんかヤバい煙が見えますね」
オーウェンが指した先を見ると、木々の上に立ち込める不自然な煙が見える。と、明らかに異常事態を思わせる足音が聞こえる。木にぶつかっているのか、時々ドスンという音が足音に混じり、木が揺れているのが分かった。三人は剣を抜いて見構えた。
スタンピードか?
「来るぞ!」
サミュエルの声に緊張が走る。
「黒闘牛だ!!!」
黒い岩のような塊が恐ろしい勢いで迫ってくる。全部で五頭。
「アシュリー!!」
サミュエルの言葉より早く駆け出したのは、先駆け隊長のアシュリー。
黒闘牛ビルファイトの目前に巨大な火の玉を打ち込み、黒闘牛の足を止めた。そして軽々と跳びあがるとそのまま黒闘牛の上に乗り、振り上げた剣を一気に首に刺し込んで横に一気に剣を倒した。
首の半分が斬れた黒闘牛が声もなく前足を上げそのまま倒れると、後ろに続いていた黒闘牛がそれに引っかかって倒れ込んだ。それを躱すようにアシュリーが跳びあがると、続く黒闘牛の首を落ちる勢いを使って一気に斬り落とした。
「…とんでもねぇ…」
目の前で一人、黒闘牛を倒していくアシュリーに目を奪われる。
「オーウェン、行くぞ!」
進むべき方向を見失った黒闘牛が、混乱して横に流れていく。サミュエルが横に流れていく黒闘牛に向かって行く。
アシュリーはいつもと変わらず、縦横無尽横に跳び回り黒闘牛を翻弄している。
オーウェンも横に流れた黒闘牛に向かって行った。
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