決別 未来 三人の形
騎士団の演習場には皆が集まっていた。今日戻ることは先触れで知らせておいたから、待っていてくれたのだ。
辞めることも伝えておいたので、何やらアシュリーたちを見た瞬間に団員の目に涙が浮かんでる。
「アシュー!」
オーウェンが走ってきて抱き付いた。
「すまなかった、俺が不甲斐無いばっかりに!!」
いや、寧ろアシュリーが飛んできた噴石を破壊したせいで、その破片がオーウェンに当たったんじゃないか心配だった。それに、失踪したのもオーウェンのせいではない。
「ん??」
アシュリーと自分の間に何かある、とオーウェンが気が付いた。
「ううぅ」
ライが苦しそうだ。
「なんだ?子供がいるぞ」
「私の子供」
「え!」
アシュリーの言葉に団員が吃驚した。
「こら、説明を割愛するな」
サミュエルがアシュリーの頭を軽く叩く。面倒臭そうな顔をしているアシュリーに代わってサミュエルが説明をした。
「アシュリーが面倒をみている子だ。ライ、挨拶は?」
「ライでしっ、しゃんしゃいでしっ」
最早定番の挨拶だが、何度聞いても可愛い。
「「「「「おー」」」」」
「上手に挨拶が出来るんだな」
「可愛い」
「でしって言っているぞ、おい」
「ほっぺが丸いな」
団員たちはライを見て、やいのやいのほっぺをつんつん愛でている。
「やーよー」
ライがほっぺをつんつんしている手を叩く。
「はう」
手を叩かれたヤクマが悶えている。
分かる。叩かれるのもいいのよ。
アシュリーは大満足だ。
「本当に騎士団を辞めるのか?」
ゲオルフは、真面目な顔をしてアシュリーに聞いた。
「はい、突然で申し訳ありませんが」
「サミュエルまで?」
「はい」
サミュエルは頷いた。
「アシュリーを一人には出来ませんので」
「そうだよな。そうなるよな」
ゲオルフはうんうんと頷く。
「勝手を言って申し訳ありません」
「いや、本当にお前たちが居なくなるのは騎士団としては痛手だけどな。二人の顔を見れただけでも良しとするよ」
アシュリーの事情を知っていれば、なおさら引き留めることは出来ない。母親を捜しに行くと手紙に記されていた。いろいろと大変なことがあったようだが気持ちの整理を付けて帰って来たアシュリーが、ユーゲルという呪縛から解き放たれたいと思うのも理解できる。そして、サミュエルがアシュリーを放っておけないと思うのも。
ならば自分たちは気持ちよく送り出してやらなければいけない。団員はそのつもりで今日を迎えている。
本当に優しい人たち。やはり騎士団は自分にとって最高の居場所だったとアシュリーはしみじみ思う。
「これからどうするのかは決めているのか?」
「いえ、これからのんびり考えます」
「そうか、それがいい」
団員たちは、口々に頑張れよと応援してくれた。
「たまには顔を見せに来いよ」
「はい、ありがとうございます」
アシュリーたちは大きく手を振って騎士団を後にした。
これで本当にユーゲル家とは決別だ。
「さてどうしましょうか?」
「とりあえず、ニコラスさんの所に行くんだろう?」
「そうでした!」
ニコラスとは何ヶ月も連絡をしていない。元気な姿を見せなくては。
「ライ、楽しみ?」
「うん」
ライの両脇にアシュリーとサミュエル。そして二人と手を繋ぎライはとってもご機嫌。手をしっかり握って、ぶら下がってみたり、キョロキョロしたり。
見上げればアシュリーもサミュエルも楽しそうに話をしている。
それじゃ、馬車に乗ろうか?その前にご飯を食べよう?ライの服でも買っちゃうか?
別に服はいらない。だって、ダーシャが凄い量の服を持たせてくれたから。それよりライはちょっと聞きたいことがある。
「じゅじゅ?」
「なあに?」
「じゅじゅはライのおかあしゃん?」
ライが目をキラキラさせて聞いてきた。
そう言えば、さっきライを自分の子供と言ったんだった。
「私がライのお母さんになってもいい?」
「うん!!じゅじゅがおかあしゃんがいい!」
「よし、今日から私はライのお母さんね」
「うん!」
ライは更に目をキラキラさせてサミュエルを見上げた。
「じゃあ、しゃみゅしゃまがおとうしゃん?」
「え?あ?え……?」
サミュエルは突然の質問にオロオロしてる。
アシュリーはチラッとサミュエルを見てから、笑ってライに言った。
「どうかなぁ、サミュエル様はお父さんになってくれるかなぁ?なってくれるといいねぇ」
「ねー」
サミュエルを見上げるライの瞳は期待に満ち満ちている。サミュエルの顔が今までにない程真っ赤だ。
「……………なる。お父さん」
そう答えたサミュエルは片手で顔を隠して、あーもう!っと天を仰ぐ。
「やったぁ!しゃみゅしゃまがおとうしゃん」
「やったね!」
そう言って喜ぶアシュリーも真っ赤だ。そして、二人してライの手をギュッと握って、くーっと悶えている。
「おかおまっかねー」
ライはニコニコしながら二人の手を握ってぶら下がる。
「おとうしゃん、おかあしゃん、ラーイ」
ライは楽しそうに何度も繰り返す。そしてライが繰り返すたびに、二人は顔を益々赤くして悶えている。
いつか本当の家族に。
そんなことを心に誓って拳を握っているのは、アシュリーかサミュエルか。
形はどうであれ、三人が笑顔で暮らしている未来はすぐそこにある。もしかしたら新しい家族が、なんていう未来もきっと遠くない…………はず。
完結まで読んで下さりありがとうございます。
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