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トラブルは付き物です


王太子の三十九歳の誕生日を祝う式典。


王都は出店(でみせ)が多く並びいつも以上の活気を見せる。


国王の誕生の祝いであれば、祝いの品を大量に乗せた牛車の大行列が出来るが、王太子と言うこともあってその列は半分にも満たない。


それでも国王に睨まれないギリギリのところで、次期国王と繋がりを持つために王族や豪商が、ずらっと祝いの品を並べて挨拶にやってくる。


昼から始まる式典は数時間で終わり、その後は余興を楽しみながら酒を飲む。


王太子の誕生の祝いは二日掛けて行われるため、王族は王宮に泊まり込む。


アシュリーたち踊り子は一人で踊る者もいれば、何人かで踊る者もいて、アシュリーは一番最後に一人で(つるぎ)(まい)を披露する。


ラジャ王国の国民が信仰するのはロアス教。ロアス教は太陽神メポヌレアを唯一無二の神として崇め、初代国王は太陽神メポヌレアに神聖力を賜った唯一の存在であるとされている。


太陽神メポヌレアは生命、炎、情熱を司ると言われ、それを表すのが剣の舞で、祝いの席で必ず踊られる神聖な踊り。


その神聖な踊りを、ロアス教を信仰していないアシュリーが踊るというのはどうなのだ、と不満の声が上がりそうだがそこは無視だ。


新顔の踊り子は王宮に入ると全ての衣類を脱がされ、暗器や毒などを所持していないか確認される。


次に、足首に魔法封じのアンクレットを付けられる。これは限られた人間が持つ、特別な鍵がないと外すことが出来ない。


それで漸く踊り子として踊ることが出来る。


踊り子は王宮に入った瞬間から、王の所有物。踊りで喜ばせ閨で喜ばせることが踊り子の全て。勿論一切拒否は出来ない。


新顔の踊り子が国王に気に入られるかどうかは、初舞いに掛かっている。初舞いをしてその日か次の日のうちに閨に呼ばれれば、お気に入りとなる可能性が高い。


「反吐が出るわ」


ダーシャの説明を聞きながら、ボソッとアシュリーが呟いた。


「ジュジュ!こんなとこで滅多なこと言わないの」

「……ごめんなさい、ダーシャ」


気を取り直して二人は鏡を見る。


踊り子が集められた部屋で各々で化粧をしたり、髪結いに結われたり。きつい化粧の匂いは、ダーシャの屋敷に居る間に随分と慣れた。


ダーシャが手際よくアシュリーの髪を飾り、化粧を施す。


仕上がったアシュリーは太陽神をイメージした真っ赤な衣装で、トップスにはビジューで(かたど)った羽が描かれ、胸の中央には大きなルビー。


ヒップスカーフは、これもベルト部分の幅の狭い布に沢山のビジューを散りばめ、真ん中に等間隔に三つ並べられたルビー。一つのルビーで小さな家が建つ程希少な物らしい。


ベルトの両サイドに、足首までの長さの美しい刺繍を施した真っ赤な絹を垂らし、腰全体に巻かれた短いヒップスカーフの上から、細く長めの真っ赤なフリンジのビーズがキラキラと輝き、足を動かすたびに太ももが露わになる。


「完璧よ」


ダーシャは大満足だ。


ここにサミュエルでも居ようものなら、真っ赤な顔をしてアシュリーを隠そうとするだろう。


アシュリーはチラッと視線を動かした。


先ほどから、こちらをジッと見ているのは王宮踊り子たち。中でも、金色の一番派手な衣装を着た美しい顔立ちの踊り子は、怒りの色を隠さない。


『ママ』


我慢がならないという顔をして、金色の衣装を着た女がやって来てダーシャに声を掛けた。


『あら、メリルダ。準備は終わったの?今日も相変わらず綺麗ね』


チラッと見たダーシャはそれだけ言って、鏡に目を戻した。


『ママ!』

『何?今は忙しいのよ』

『なんで、私が剣の舞を踊れないのよ』


メリルダは国王の一番のお気に入りの踊り子で、当然、彼女が剣の舞を踊るものだと誰もが思っていた。


それが、新顔に踊らせると言うものだから、納得できるはずがない。


しかも、ダーシャが付きっきりで世話をしているのだから、気に入らないのは当然だ。


『言ったでしょ?今日は、最高の踊り子を連れてくるって』

『何が最高よ。私は、ラジャ王国一の踊り子なのよ?国王陛下の一番のお気に入りなのよ』

『分かっているわ』

『だったら私が踊るべきじゃない!』


この子、怒っている顔の方が綺麗ね。


ダーシャはそんなことを考えながら、ニコッとしてメリルダを宥めた。


『メリルダ、今日は我慢して。ね?私の我儘なのは分かっているわ、でもお願い。今日だけだから』

『でも、ママ。私の立場はどうなるのよ!』


ダーシャはハーッと溜息を吐いた


『何お上品ぶってんのよ。立場なんて大層なもん、あんたにあった?』

『酷いわ。あたしはね、必死でここまで上って来たのよ。知っているでしょ?舐められるわけにいかないのよ』

『あたしらは底辺で這いつくばって泥水飲んできたのよ?それを、お高く止まって立場なんて言ってるなんて、随分とあまっチョロくなったわね。国王陛下の一番のお気に入り?ハッ!そんなの一瞬で誰かに取って代わられるわよ。今日、一番じゃなくなるかもね』

『何ですって?』

『あんた、自分が随分な手を使って周りを蹴落としてきたこと、忘れたの?』


メリルダはギュッと唇を噛んだ。


『噛むのは止めなさい、血が出るわ。綺麗な顔が台無しよ』


メリルダは、ダーシャとアシュリーを睨み付け数人の踊り子と共に部屋を出て行った。


「あらら、怖い怖い」


ダーシャはわざとらしく身体を震わせた。


「ダーシャ」

「気にする必要はないわ」


残念ながら、そのまま終わることはなかったのだが。







読んで下さりありがとうございます。

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