ジュジュがアシュリーになった日
興味を持ってくださり、ありがとうございます。
保存せずにストーリーを消してしまい、同じシーンを何度も書いているうちに 内容が変わってきて、あれ?と手を止めて書き直す、というループに陥り泣きながら書きました(笑)
温かい目で読んでいただけると嬉しいです。
月明りだけが頼りの寝室のベッドでガトレアの目は、妖艶に腰をくねらせる、僅かに褐色を帯びた艶めかしい肌を持つ女に釘付けだった。
グレムル王国使節団の大使として派遣された、ガトレア・フォル・ユーゲル次期公爵の目的は、長らく途絶えていたラジャ王国との国交を復活させ、資源豊かなラジャ王国と交易を行うための交渉をすることだ。
十日間の日程でラジャ王国を視察し、自国との国交について話し合い、明日には帰国する。
帰国の前日。
ラジャ王国での最後の晩餐は、贅の限りを尽くした眩暈がするほど煌びやかな会場で行われた。
豪奢な宴は自国とはまるで違う。
ラジャ王国では国賓をもてなす時、床に幾重にも重ねて敷かれた豪奢な敷物に全員が座り、豪勢な食事を囲む。
国王の横に王妃が侍り、国王を挟むようにガトレアと外交官たち。王妃の横に王太子、更にラジャの重鎮が居並ぶ。
そして、国王の側室と思しき美女たちが、王妃の後ろに侍っている。
ガトレアが腰を下ろしている手触りのいい毛皮は、南白狐だろうか。滅多にお目に掛かれない代物を見れば、こちらは溜息しか出ない。
腹が落ち着いてきた頃に始まったのは、柔らかな生地に美しい刺繍を施した衣装を纏う踊り子たちの、艶かしく腰を振る官能的な舞い。
自国グレムル王国では見ることの出来ない、何とも悩ましい踊りではあるが、ラジャの開放的な国風がそうさせるのか、酒に気持ちよく酔ったガトレアは大いに楽しむことが出来た。
国交交渉も概ね順調で、大使として胸を張って自国に帰れる。
それなのに眠りにつくには些か遅いこの時間、用意された最上の客用寝室のベッドの上で何が起こっているのか。
自分の下腹部に感じる違和感に驚いて目を覚ませば、女が自分の体を跨いで膝を突き、見下ろすように微笑んでいる。
月の光を背に受けて輝く髪は赤く、暗い部屋に炎が唐突に燃えているようで情熱的で美しい。
妖艶に微笑む女が纏っているのは薄い布切れで、女を主張する部分が申し訳程度に隠されているだけ。
灯りが灯れば、その美しい身体の艶めかしい色が透けて見えるだろう。
最初は驚いたガトレアだったが、何が起こっているのか理解するのにそう時間は掛からない。
これも、ラジャ王国のもてなしか。
「君は…」
漸く出た言葉がそれだ。
女は言葉もなく顔を寄せるとガトレアに口付けをした。
それを拒むでもないガトレアの頭に浮かぶのは、自国で自分の帰りを待つ妻と二人の子供。
だが、罪悪感はない。ラジャのもてなしを受け、色合いの違う花を味わうだけ。
ただ、その艶美な花はガトレアを夢中にさせ、久しぶりに沸き立つ己の欲望は果てを知らず、そこに理性など一欠片も持ち合わせてはいない。
ガトレアが目を覚ました時、あの美しく妖艶な女の姿は無く、本能のままに貪った情事の痕跡だけが残っていた。
それから七年の月日が経ち、あの情事が過ちだったと身に染みているのが、今だ。
突然やって来た赤い髪の妖艶な女が、銀髪に蒼い瞳をしたジュジュという少女を伴ってやって来たのだ。
屋敷中が大騒ぎになったのは言うまでもない。
金髪に緑の瞳をした二人の我が子より、よほどガトレアの色を濃く受け継ぐこの少女が、自分の子供ではないとはとても言えない。
何より、ジュジュが放った青白い炎は、公爵家の人間しか継承されないそれで、自分の子供である証拠にほかならない。
普通、火の魔法は赤く燃え上がるが、ユーゲル公爵家の血筋だけが使える青白い炎は字の如く青白い。
そしてその威力は火の玉なら赤い炎の二倍から五倍。
個々の能力によって差はあれど、間違いなく火の魔法使いとしては最強なのだ。
ガトレアはジュジュを娘と認め、引き取り育てると決めた。
赤い髪の女はにっこりと笑って、ジュジュを残し屋敷を出て行った。
その直後、妻のカミラが扇をボキリと折り、ガトレアの顔色が青から白へと変わり、更にカミラの平手打ちでガトレアの左頬が真っ赤になったのは緘口令により封じられた話。
仲が良いことで知られた二人の間に亀裂が入り、それを修復するために、ガトレアが毎日花と愛の言葉を贈ったが、そう簡単にカミラは許さず。
さりとて、他国での一夜の遊びとなれば、公爵夫人としてこれ以上騒ぐわけにもいかず。
そこに恋情も無いと言うなら、ここで夫に付けた手綱を締め直す方が賢いだろう。
ガトレアは、ジュジュの存在を公にしない、後のことは淑女として恥ずかしくない令嬢に成長してから考える、ということを引き取る条件に提案し、カミラはそれを了承した。
かくしてジュジュと呼ばれていた女の子は、アシュリーと名前を改められ公爵家の次女となったのだった。
読んで下さりありがとうございます。
ジャンルを異世界恋愛にしておりますが、最後まで読んでジャンルが違うんじゃ……と思われましたらご指摘ください。
ファンタジーという程冒険も無く、ヒューマンなんて恰好良いジャンルを指定できる程厚みのある人間ドラマも無く、悩んだ結果後半に出てくる恋愛を取りました。
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