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05.忍び寄る不穏

鼻歌を歌いながら機嫌よくネイルを楽しんでいる女がいた。


ウェーブがかかったピンク色の髪に水色の瞳は愛らしさを醸し出している。


「機嫌が良さそうだな」

不意にその女がいる部屋に男が現れた。


明らかに不法侵入なのだが、女は男のことを知っているからか咎めたりしなかった。


「ふふ。だってこの時をずっと待っていたんだもの」

話す声も人によれば可愛いと思う声だろう。


勝手に現れた男は何も感じていないようだが。

「これがラストチャンスだぞ」

「心配しないで。わかっているわ」

男の忠告を理解している風に答えてはいるが、実際に理解をしているかは謎である。


「ならいい」

それだけを言って男は姿を消した。

男が消えると女は態度を一変させた。


「ラストチャンスでもバグを発生させれば同じなのに。バカな男」

女が放つ言葉に反応したのか女の周囲に黒いモヤが集結した。


「待っていてね。ノクト。もうすぐ会えるから」

嬉しそうに愛おしそうに女は言った。



***



「わかっていないようだな」

女の様子を離れた場所で見ていた男はぽつりと言った。


「まあいい。勝手にやらせよう」

そう言った男が景色を見ていた。


「ここがリセットされた世界か。俺の新しい世界」

言いながら男は手を強く握りしめた。


男がリセットさせた訳ではない。それなのに新しい世界と言ったのは男が管理をすることになった世界だからだ。

けれど、男は感じていた。

自分の前の管理者の力が根強く残っていることに。


「この世界にいるのか?」

そう言いながら前の管理者の気配を探ろうとするが、何かが邪魔をして探ることができなかった。


「本当に忌々しい」

人間になった己のほうが獣になった前の管理者より劣っている訳がないのにと思っているようだが、実際は劣っている。


そのことに気付いているのか男は悔しそうに顔を歪めた。


「会ったら今度こそ消してやる」

そう言った男の周囲にも黒いモヤが集結していた。



***



『あー。なんかすげぇイヤな予感がする』

子犬━━、もとい銀狼のアリオスはぶるると毛を逆立ちさせて身震いをした。

「イヤな予感?」

アリオスの毛並みと整えていた莉桜はアリオスの言葉を聞き返した。

『これから大変なことが起こるかもな』

「大変なこと……。あ!」

莉桜は思い出したように声を上げた。

『なんだ!? どうした!?』

「ノクトが進級テスト対策をするって言ってた! 私、進級するとは言ってないのに!」

『………………。いや、それはもう決定事項だろ』

「なんで!?」

『ノクトがお前を放っておくわけがないし、お前もノクトなしだとどこにも行けないだろ』

「そ、そんなこと、な、ない、わ!」

『頼りない言い方だな。説得力もない』

まったくもってその通りであるからか莉桜はぐうの音も出なかった。


(ノクトに頼りすぎてるよね)

アリオスに指摘されて莉桜は改めてノクトに頼りすぎていることに気付いた。

(ノクト離れをしないといけなくなる時がくるのかな)

そう考えた莉桜は自分の胸にちくりと痛みが走った。


『また余計なことを考えているだろ、お前』

ぽすぽすと顔を撫でられているような感覚になっているとアリオスの言葉が聞こえてきた。

「余計なことかはわからないけど。……ノクト離れをしないといけないのかなと考えてた」

『それは……』

「余計な考えだな」

アリオスの言葉を遮るようにもう1人の声が聞こえてきた。


「ひえ!? ノクト!?」

莉桜は驚きながらノクトの姿に気付いた。

「まだ俺から離れられると思っているのか?」

「………………」

莉桜は何も答えられずかちーんと固まった。


『あまり莉桜をいじめんなよ』

「いじめる訳がないだろう?」

『どうだかな』

バチッとノクトとアリオスの間には火花が散った。


仲がいいのか悪いのか。この1人と1匹には時々、ピリッとした空気になることがあった。


「莉桜……って、ノクトまでいるじゃん」

「何をしているんだ?」

不穏な空気を漂わせていたノクトとアリオスに対し、あわあわとするしかなかった莉桜は梓紗とシンが来てくれたことを喜んだ。


「梓紗、シン、良かった!」

「ノクトとアリオスはまたピリッとしているようだね」

梓紗の言葉に莉桜は苦笑するしかなかった。


「それより莉桜、ノクトの家に集合と言われていたのに何故来なかったんだ?」

「あれ? 今日、だった?」

莉桜の言葉にコクリと頷くシンと、同じように何度も頷いている梓紗の姿があった。


「ご、ごめん! 勘違いしてた!」

てっきり明日だけだと思っていた莉桜だったが……。


「もちろん明日もするよ」

ノクトは黒い笑みを浮かべながら言った。

進級に向けてノクトのスパルタ授業はこうして幕を開けたのである。

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