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03.だから一緒に行きたくない

「あ! 莉桜! ノクト! おはよう!!」

莉桜とノクトの姿を見つけた梓紗が手を振りながら言った。

「おはよう、梓紗。シンもおはよう」

苦笑しつつも莉桜は幼なじみである梓紗とシンに挨拶をした。

「おはよう、莉桜。今日はちゃんとノクトと一緒だったんだね」

シンにそう言われて莉桜の目が泳いだ。

瓶底眼鏡をしているためそれが見えているのかは不明だが。

「莉桜ってば、1人でさっさと学園に行く時があるから本当困るよ」

梓紗にまでそう言われ、莉桜はますます居たたまれなくなった。


『過保護すぎるだろ』

(ホントそれ!!)

アリオスの独り言に莉桜はすぐさま同意した。

「……? 莉桜、その肩に乗っているのは?」

「……え?」

シンがアリオスの存在に気づいたようだった。

「子犬?」

シンに言われて気がついた梓紗もアリオスの姿が見えていた。

『犬じゃなくて狼だ!!』

狼だろうと犬だろうと大して変わらないようにも思えるのだがアリオスは狼であることにこだわった。

「しゃべった!?」

梓紗は驚きながらアリオスを見ていた。

『オレのことより学園に行かなくていいのか?』

アリオスの言葉にハッとした4人は学園へと急いだ。


莉桜、ノクト、梓紗、シンが通っているのはアリアス学園。

何故アリアス学園となったのかは不明。

アリアスという人が設立したという訳ではないようだ。

今の理事長が命名したとの噂もある。

アリアス学園は初等部・中等部・高等部というように一貫校とされている。

進級するための試験はあるもののよほどのことがない限り退学する人はいないに等しく、初等部から入学した者は高等部まで学園に通っている人間が多い。


高等部から入学を希望する人間も多く、高等部のみ寮生活もできる。

実家が遠い人間にしてみればありがたい話だろう。

莉桜自身は寮生活をしなくても大丈夫な距離に自宅があるのだが、高等部に進級するか迷っていた。


一貫校ではあるものの、莉桜のように高等部からは他の学校にしたほうがいいかも、と考える人間も少なくない。

「莉桜、何を考えている?」

ノクトの声で莉桜の思考が一時ストップした。

ノクトは莉桜が何を考えているのかわかる時がある。

それこそ、自分から離れようとすることを考えている時は鋭い。

「な、何も考えてないよ」

そう言っても無駄だろうなという考えは残念ながら莉桜には持っていなかった。

「本当に?」

ノクトはしつこく聞いてきた。

「う、うん。……ただ」

「ただ?」

莉桜がその先を言おうかどうしようかと迷っているうちに。


「ノクト様だわ!!」

その言葉をきっかけにわっとノクトのほうに人が集まった。

「梓紗! おはよう! 昨日のテレビ見た!?」

「シンさん、質問したいことがあります」

梓紗とシンの周りにも人が集まってきた。

朝の光景なのだが、莉桜に話しかける人物は誰もいない。

というのもノクト、梓紗、シンが莉桜を守るように隠しているからでもあった。


毎朝のことなのだが、莉桜は慣れることがなかった。

いつも決まって最後には人混みに潰されそうになるからだ。


(ひー! 今日も今日とてすごい人だわ)

莉桜は身体を小さくして事が終わるのを待っていた。


この大人気である三人が幼なじみであることに莉桜自身は負い目を感じていた。

自分は地味で何も持っていないと思っているから。

それでも変わらず一緒にいてくれるノクト、梓紗、シンに感謝しなくてはならないのだろうとは思う。

けれど。


(毎朝こんなんじゃ、やっぱり一緒に行くなんて無理ー!!)

毎朝そんなことを思いながら潰されないように自分を守っていたのだった。


ところで。今日はいつもと違っていた。

いつもはお留守番をしているアリオスが莉桜の傍にいるということだ。

潰されないように自分を守っている莉桜の目に少し涙があった。

アリオスは莉桜の涙を見た途端、ペロリとその涙を舐めた。

「……ひッ!」

莉桜は驚いて思わず叫びそうになったが間一髪で堪えることができた。

しかし、莉桜の声をノクトが聞き逃す筈がなくチラリと横目で莉桜の様子を確認した。

ノクトが目にした光景とは。

アリオスが無遠慮に莉桜の涙を舐めている姿だった。


「………………」

静かにキレたノクトは周囲を凍りつかせる気配を漂わせた。

「そろそろ通してもらっていいかな?」

ノクトは絶対零度の声音で周囲の人間にそう言うといつの間にか通れる道ができていた。

「莉桜、行くよ」

「ふぇ? ひゃあっ!」

アリオスに顔中を舐めまくられた莉桜はなおも涙目になっていた。

ノクトは問答無用とばかりに莉桜を抱き上げて歩き出した。

まさか抱き上げられるとは思っていなかった莉桜は顔を隠そうと必死であった。


『莉桜、涙もっとくれ』

「駄目だ」

『莉桜に聞いてんだよ。邪魔すんなノクト』

莉桜の涙の件ではアリオスは引くつもりはないようだった。


「莉桜、タオルをかぶっていて」

ノクトの後ろをついてきていた梓紗に頭からタオルを被らされた莉桜はタオルをぎゅっと握りしめた。

「涙拭いて」

『拭いちゃ駄目だ! 莉桜!』

アリオスの言葉を無視するようにノクトは莉桜の目に残る涙を拭った。

『ああ! なにすんだよ! 莉桜の涙は貴重なんだぞ!』

「うるさい」

邪魔だとばかりにノクトはアリオスを払い除けようとした。

そんなことがあった朝だった。


莉桜的には。

(本当勘弁して!)

と思ってしまう朝の日常であった。

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