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見えた! 座右の銘



 個室トイレの中であった。

 クソを垂れ流しながら腕を組み、カッと目を見開いた。


「見えた!」


 俺の座右の銘が!

 

 座右の銘:―――『どうせ死ぬ』―――


 この言葉を胸の内で反芻(はんすう)して俺は徐々に元気になった。

 人生最大のイベントである最期の瞬間。

 死ぬ間際に『あ~良かった良かった。満足した』って笑えれば勝ちなのだ。

 なので二桁億の負債があろうが、この俺に敵は居ないのだ!


「にしても、出納係もしくは経理がこのパーティーに居ない。

 なぜこんな簡単な事を気付けなかったのか……

 片腹痛いわ! 痛快! 痛快! 奇想天外!」

 

 飯を食いながら俺が出した結論。

 俺の大事な大事なマネーを資産運用してくれる人材。

 そいつを仲間に加えなければいずれ俺は破綻する。

 いや俺は今人生が焦げ付き始めている。

 蟹工船に片足をツッコんでいる。


 俺はカジノで大勝ちした後、白兵戦武器を1000ダース注文した。

 俺が用いる戦闘の神髄は札束を投げつけるかのような武器弾幕だからだ。

 これは最優先で購入した。俺の戦術も戦闘も金が掛かりすぎるのだ。

 アイテムを大量に使ったドーピング戦法。シャブ中みたいな戦い方なのだ。


 残った資産は信用取引で運用した。

 資産は倍々に増えていくはずだった……

 もうないけど。 

 だから払えないのだ。信用取引で発生した損失。そして売掛した高額アイテム。

 そうなのだ。調子に乗ってメタルペリッパ狩りの為に買った高額アイテム達を売掛にしてある。

 アホほど買った。それはもう業者並みに購入させて頂いた。

 業者並みに買ってるのだ。

 

「来月がやばいな。ヒリヒリするねぇ。生きてるって感じがしてきたな。面白くなってきたぜ」

 

 もう前向きになる事にした。

 つーか、いつまでもクヨクヨしても意味がない。

 借金地獄という現実から逃げ出した。

 悩むぐらいなら逃げてしまえばいいのだ。


「三十六計逃げるに如かず。逃げ続ければ見えてくる勝利もあるのだ」


 どうせ、いつか死ぬんだし生きてるなら再起可能だ。

 今は借金完済という名の勝機を伺う雌伏の時。

 ブラック企業で培った人生経験が活きたな。


「未来の俺に任せよう。頼んだぞ未来の俺。まぁ何とかなるっしょ」


 "未来の俺"に全てを賭ける事にした。

 俺は"未来の俺"を信じている。お前なら何とかしてくれるとな。


「お金がないんだから仕方ないじゃん。上納金? もあるし何とかなるだろ。

 よく考えたら、俺には闇金という資金源がある。

 上納金なる会費を貰えるんなら人生逆転は可能だ。

 あとで、あの会費はどこで運用されているのかカッコウに訊いてみよう。

 勿論俺のモノなんだよな? 振り込んで貰わないと」

  

 俺は楽観的な気分になった。

 問題が1つ解決してしまった。

 

「俺は無敵だ! 時代の寵児を舐めるなよ! 人生よ! この俺を絶望させる事など出来んと思い知るがいい。フハハハハハ!!!」


 ドン! と隣の大便をしてる奴が壁ドンしてきた。


「失礼」

 居たのか。

 俺以外に大便してる奴。


 ・

 ・

 ・


 魔境に辿り着くと既に日は沈み、辺りは真っ暗であった。

 深い森林を超え、封鎖テープを掻い潜り、警備員の目を盗み、遂に辿り着いたレベリングダンジョン。


「天内くん。ここなんですか?」


「ああ。この廃坑ダンジョン。雑魚しか居ないダンジョン。ここが我々の挑む実力を上げるダンジョンだ。そして……」

 

「ここをキャンプ地とする!」

 俺はいわく付きとしか言えない廃墟を指差した。


 ホラー映画に出て来そうなボロい廃墟。

 ダンジョンから数百メートル先にある建造物だ。

 何の施設なのかわからない鉄筋コンクリートで造られた施設。

 あそこは"過去の俺"がキャンプ地にしてた場所だ。


 デスゲームが開催されてそうな意味不明な立方体の施設。

 カルト教団が信仰するような馬鹿でかい逆十字みたいな紋様も落書きされてたりする。

 あの中には、奇妙な仮面の不審者。

 ゾンビみたいなヨボヨボな老人の不審者。

 地下には暗闇の中で、(うずくま)るパントマイムアーティスト。

 そんな変人達が居る。

 きっとあそこを根城にしている家なき自由人なのだろう。

 彼らのテリトリーに入る気はない。

 パーソナルスペースを守るのが大人ってもんだ。

 

「あの……大丈夫なんです?」

 翡翠は顔が引きつっていた。


「なにが?」


「いえ、こういうのもなんなんですが。野宿で良くありません?」


「なんで?」


「あの、あんまり行きたくないんですが。嫌な雰囲気が漂ってるですが」


「ダメだよ。野生動物に襲われる。屋内の方が安全だって」


「不穏な雰囲気しかしないんですが……第六感が危険だと」

 食い下がる翡翠は何としても野宿がしたいようだ。

 

 これだから都会育ちのパーティーピーポーは困るんだよ。

 山の怖さを知らないんだ。

 山を舐めると痛い目を見るんだ。

「あのさ。翡翠」


「なんですか?」


「山を舐めない方がいい」


「は、はぁ……」


 俺は有無を言わさず、鋼鉄の重い扉を開け屋内に入ると、中は輪をかけて真っ暗であった。

 伽藍とした雰囲気。

 中は埃っぽく、至る所に治療道具のような物が乱雑に散らばっている。


「あの、先輩。ここって勝手に入ってもいいでんすかね」


「少し間借りするだけだって。注意されたら出ていけばいい。ここは穴場なんだ。雨風をしのげるし、室内は一定の気温に保たれているしな」


「そうですけど……それはそうと。さっき上の階から叫び声みたいなの聞こえたんですが」


「叫び声は知らん。誰か居るんだろう。いい物件だからな。ここには先住民の方もいるようだし、会ったら挨拶しておくんだぞ。笑顔で『こんにちわ~。どうも新入りです!』って」


「え。ええぇ……」


 マリアと千秋以外ここに不満があるようなのだ。

 あの2人は平然とした顔で連いてきた。

 2人は辺りを物色していた。


「なんだかとても古めかしいようであり、最近まで使われていたような生活感もありますね」

 お嬢様のマリアは庶民の生活に興味深々であった。


「注射器とか散乱してるね。触らない方がいいよ。なんだろう病院だったのかなぁ。それにしても少し汚いね。掃除して拠点を作ろう」


「そうですわね。衣食住の住は大事ですもの。休まる場所は快適にしておかなければ翌日身体に障りますからね」


 俺は2人の様子を横目に。

「ほら、順応してるじゃんか。小町も少し散歩してきて気分転換でもするといい。明日は早朝から夕方までぶっ続けで過酷な修行が始まるんだから」


「いえ。皆さんと一緒に行動します。先輩の後ろに連いてます。なんだか嫌な雰囲気がするので」


「私も天内さんの後ろに居ますね」


「では僕も」

 

 翡翠とケイも小町に賛同してきた。


「俺はこの後、俺の拠点作り。明日のダンジョンの下見がある。

 それに晩飯の準備をする奴が必要だろうし、各々拠点作りしないとダメだろ。

 ここは部屋が沢山あるんだ。みんな喜ぶんだ。個室だぞ」


「「「嫌です」」」

 と、小町もケイも翡翠も口を揃えて否定してきた。


「わかった。わかった。みんなはしゃぎたい気分だもんな。枕投げみたいなのしたいお年頃だもんな。仕方ないなぁ~。俺以外は好きに寝泊まりしてくれ。俺は個室にする」


 鉱石事業のビジネスプランを考えねばならんしな。

 俺は多忙なるビジネスマンでもあるのだ。鉱石の採掘と加工をメインに新たな資金源確保も考えたい。


「天内くん。僕はどうすればいいんでしょうか」


「ケイ。君は女子に混じればいいじゃないか。良かったな! ラッキースケベが起きるかもしれんぞ」


「いや、待って下さいよ。気まず過ぎますよ」


「小町も翡翠さんもいいですよね。じゃあ。君らは晩飯の用意を頼んだぞ」


 不服そうな顔をしたケイの肩を叩き、俺はパーティーメンバーに的確に指示を出した。


 ・

 ・

 ・


 目の下に隈を作った小町と翡翠とケイの三人はどうやら三人纏まって寝たらしい。

 マリアと千秋も三人と同じ空間で寝泊まりしたようだ。


 俺は夕食後、さっさとダンジョンの下見に行きビジネスに使えるモノはないか熟考していた。

 その際に麻袋を被ったゾンビ系のモンスター。

 道化のようなマリオネット系モンスター。

 キメラのような奇怪な見た目の害獣系モンスター。

 そんな雑魚共を全員処すというハプニングもあったが……


「なんだ? 元気がないなみんな」

 俺は伸びをしながら辺りのメンツを見回した。


 やつれた翡翠は。

「天内さんは昨日どこに?」


「ダンジョンの下見だ。あまり勘ぐるな。さて! 今日からガンガンレベルを上げるぞ! 行くぞ! みんな!」


 俺は意気込んだ。

 


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