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合宿 1日目(午後) 天地は万物の逆旅なり



「もう迷惑をかけるんじゃないぞ」


「ほい」

 上の空であった。


 ポリスメンは大きくため息をつき、

「君はわかってるのかね。今回は厳重注意で済んだからいいが」


「へい」

 呆然としていた。虚無感が身を包んでいた。


「薬物はやってないようだし、アルコールも摂ってない……思春期なのはわかるが。もういい。帰りたまえ」


「あい」

 俺は首振り人形のようにコクコクと頷いていた。


「行った行った」

 面倒そうな顔をしたポリスメン。


 俺は世間の秩序を守るポリスメンにお咎めなしで釈放された。

 つーか、俺はただ路上で泣き叫んでただけなんだから、当たり前だ。

 何も悪い事はしてない。してないよね?


「してるの? うるせぇ! 俺は高額納税者だぞ!」

 

「おい! 君! いい加減にしなさい!」

 交番から俺を睨むポリスメン。


「へいへい」

 俺は不貞腐(ふてくさ)れてその場を後にした。


 俺の資産はまたしても、愚かな結末を辿った。


「いや、もうここまで来ると俺は病気だな」

 信用取引に手を出した俺の資産……

「もう考えるのはやめよう」

 フッと笑った。

 この世すべては、儚く移ろい変わりやすいのだろう。

 天地は万物の逆旅なりだ。

「金は天下の回り物というしな……はぁ~。太客、エース(太客の中の太客)が俺にも居ればなぁ……ホストにでもなろうかな」




 集合場所にしてあった空港の喫茶店であった。




『世紀の天体ショーが間もなく観測されます。

 1000年に一度接近する()()()()()が今夏、最も接近します。ヒノモトでの見頃は、』

 店内の巨大スクリーンには天文特集を組んだ放送が流れていた。


 警察署で保護されていた俺は間もなく解放され、鬼のような形相をしながら見覚えのある集団に向かって歩いて行く。


 俺は顔面の中心に皺を寄せた顔をする。 

 やせ我慢。人はそう呼ぶ。

 やせ我慢フェイスをして俺はパーティーメンバーが待つ集合場所に1時間遅れでやって来た。


 1人の少女が席から立ち上がると。

「先輩遅すぎますよ!」

 小町は少し怒っているようであった。

 マリア、小町、千秋の三人は俺の下に来ると少し不機嫌な顔をしていた。


「すまん……な。少し……重大な用があった」

 いかめしい顔をして全員の顔を見回した。


 ゴクリと唾を飲み込む音。

 少しの沈黙の後。

 俺の雰囲気を察したのか、彼女達の溜飲は下がったようだ。


「天内さん。わたくしは信じておりますよ。

 きっと我々には想像もつかぬ大事(だいじ)をなされていた。そういう事ですよね?」


 大事? 

 言いようによってはそうかもしれんな。

「そうですね」

 よくわかってるじゃないか。

 路上で大泣きしていた俺が交番に連行されていた意図を見抜くとは流石だ。


 マリアは『やはり』と、うんうん頷き。

「随分遅れて来られましたが、何があったのかを問うのは止めましょう皆さん無粋ですからね。

 凛々しいお顔をしているのが、その証拠。

 ヒーローは遅れてやってくると言いますもんね」

 

 キャバクラマリアが本日も開店していた。俺のイエスマンである。

 なんでも良い風に言ってくれるのだ。

「助かります」

 俺は目と眉を限りなく近づけ、目つきを悪くした。


「せ、先輩? 本当に大丈夫ですか? 凄く顔が真っ青ですが。あと、いつにも増して不審者に磨きがかかってますね」


「傑くん。体調大丈夫なの? 今にも、その……吐きそうな顔をしてるけど。あとその顔何?」


 眉間に皺を寄せ、白目を剥きながら般若のような顔を作る俺。

「ノー、プロブレム! なにも……ながっだんだから」

 溢れ出そうな涙を必死に我慢しながら、俺はその一言を捻り出した。


「「「……」」」


 咳払いが聴こえると、その先にはカッコウと翡翠が困った顔をして俺に説明するように目線を送っていた。


 俺は鬼神の如き風格を漂わせ、厳つい顔をしながら重低音の効いた声音で簡単にお互いを紹介し終えた。


「彼らも我がパーティーメンバーの合宿に連れていきます。

 俺の友人なので。異論はないね。はい。行こう。

 皆さんご歓談をお楽しみ下さい。

 しばらく俺は考え事をするので話しかけないで下さい。

 ではケイ君。翡翠さんヨロシクお願いします」


 俺は身勝手極まりない態度とわかりつつも勝手に1人で歩き出した。



 グンマー県は北カントウにある地方である。 

 飛行機を使い下界に降り、電車を乗り継いで秘境であるグンマ―県に向かわなければならない。

 俺が遅れてしまったので、皆昼食を摂っていないのだ。

 現在14時過ぎであった。



 グンマ―県は殆どが山々である。

 地場産業は鉱石の採掘、加工、輸出が主である。

 鉱石は鉄鋼石などポピュラーなモノからこの世界独自の魔法の宿った魔鋼石などがある。

 この世界のエネルギー資源で主となるモノは、前世と変わらず石油や石炭である。

 ただこれらには全てに魔力が宿っており、純粋な魔力の塊という大きな違いがある。

 この世界のエネルギーは、魔力の宿った石油や石炭をエネルギー変換させ電気や火力を生み出している……らしい。

 それに加工品も魔力の宿った石油や石炭からも錬成される。

 

 グンマ―県で人が住まう唯一の都市タカサキ。


 タカサキ駅にて俺達は一度昼食を摂る事にした。

 駅前の適当な飲食店に入り、各々着座する。

 俺以外の全員は同じテーブルに座り、俺は1人カウンター席に座り難しい顔をしていた。

 物思いに(ふけ)る為だ。勿論俺の資産についてだ。


「新たなビジネスを始めるしかないのか……」 


 俺以外の全員は道中である程度会話を交わしたようで何やらヒソヒソ話をしているようであった。

 どうやら考え事をしながらゆっくり食事ができそうであった。


 ・

 ・

 ・


/3人称視点/


「天内さんがずっと無口なんですが」

マリアは天内が肘をつき頭を抱えてる姿を見てウットリしていた。

(なんと凛々しい顔。ベストコレクションに加えたいくらいだわ)


「そうなんだよね。ずっとあの感じ。

 ボクが話し掛けても『ちょっと今忙しい』ばっか。

 どうせエッチな事考えてるんじゃないかな?

 ちょっと変態? ではなく、かなり変態だからね」

 苦笑いする彩羽はラーメンの種類を確認していた。


「彩羽先輩の言う通りです。

 恐らくそうだと思います。

 先輩の事です。

 どうせくだらない事で頭を悩ませてるんですよ。馬鹿だから」


「いえいえ、天内くんはとても頭がいいですからね。

 きっと脳内で恐ろしい計画を計算をしてるんではないでしょうか。

 僕は天ぷら付きの蕎麦にしましょうかね」


「では私もケイと同じのにしましょうか」


 マリアは天内から目線を外すと、小町と彩羽に目線を合わせ。

わたくしの事を天内さんは考えてくれてるんではないかと思うんですよね。 

 フフフ。夜が楽しみですね。

 邪魔だけはしないで下さいね。穂村さんと千秋。

 私と天内さんは今晩もしくは明日、明後日の晩、

 ほんの少しの間お(いとま)を頂くと思いますが、気にしないで下さい。

 邪魔だけはしないで下さい」


「「なんでそうなる!!」」

 マリアに対し、小町と千秋は食って掛かるように同時にツッコんでいた。


「マリア先輩。こんな事を言いたくはないんですけど」


「なんでしょう?」


「天内先輩はマリア先輩の事、そういう意味では何とも思ってないですよ。

 というか興味ないですよ。気付かないんですか? 

 あ、ちなみにこれは師匠こと天内先輩に貰いました」

 小町は首元の貴金属を指差した。

「あ、私はどうでもいいんですけど、先輩が勝手にくれたんです。本当にどうでもいいんですけど」

 嫌味たっぷりに見せつけるとニタニタと微笑む。


「「え!?」」

 マリアと彩羽は、小町の指差さした首飾り(ネックレス)を見ると顔を歪ませた。


「そ、そ、そうだね。マリアの事を何とも思ってないと思うよ。

 これっぽちも。ボクの方が……きっと。

 小町ちゃんさ、ボクはおんぶして貰ってるし。

 よく一緒にディナー(三郎ラーメン)に行ってるから。

 というか物じゃなくて思い出だからね。人との交わりは」

 彩羽は動揺しながら、マウントを取りつつマリアと小町に牽制を入れる。


「ぐぬぬぬ……愚かな人達です事。一戦やりますか?」

 マリアは青筋を立てて、髪の毛を逆立てる。

 怒髪天であった。


「マリア先輩。クラス戦でMVPを取ったのは知ってますが、私は7人斬ったんです。負けませんよ」


「そうだね。少し己惚(うぬぼ)れが過ぎるんじゃないかな? キミがボクに勝てるとは思わないんだけど」

 

「穂村さん、千秋。今回は特別指南を天内さんが(わたくし)達にしてくれるそうなので、成果をお見せする為にその最終日とかどうです? 一戦を交えるのは?」


「いいですよ。マリア先輩の吠え面が遂に見れるんですかね」


「そうかもね。ボクは負ける気はないんだけど」


「どういった内容にするのかは後ほど」


「わかりました」


「傑くんに決めて貰うのもいいかもね」


「「「フフフ」」」

 邪悪な顔をする三人。


「翡翠……姉さん。僕らは修羅場を見る事になるかもしれません」


「そうねケイ。とても楽しみだわ」


「え?」


 ゴホンと失言してしまったと思い直し、翡翠は続けた。

「いえ。失礼。この事は天内さんには黙っておきましょう」

(これは面白い茶番劇が見れそうね。

 マスターの驚く顔が見たいわね。

 私も彼の頭の良さは認めるけど、少し悔しいもの。

 彼にサプライズを用意してあげましょう)


「なぜです?」


「少しオモシロ……いえ。サプライズはあった方がいいと思わない? 

 彼の目的は私達の実力向上なのだし。

 そうだ。私達も混ざって彼の為に余興を用意しましょうか」


「……いいんですかね」


「彼も想定の範囲内よ。互いにライバル意識を植え付け実力向上を巧妙に行っている」


「まぁ。そうかもしれませんが。天内くんは全てお見通しなんでしょうが……」


「面白くなってきたわね」


「姉さん。悪い顔してますよ」


 翡翠は一度手を叩き。

「マリアさん。小町さん。千秋さん。

 こういうのはどうでしょう? 


 この連休は本日合わせて5日間あります。

 全員で行動する時間は朝から夕までだと思われます。

 

 それ以外の時間。

 ここは公平に行きたいと思いませんか?

 まず各人1日ずつ、晩にマスター……ゲフンゲフン。

 天内さんと個人レッスンの時間を作りまず。

 

 無論どのように時間を使って頂いても構いません。

 指南を受けるでも、アドバイスという名のお話をするでも良し。遊興に耽るでも良しです。

 ちなみにエッチな事はなしです。それ以外ならなんでもありです。 


 最終日。つまり5日目の午前中に皆さん。

 勿論、弟であるケイも入れた4人でトーナメント方式の大会を行うというのはどうでしょうか?

 そこで天内さんに成果を見せるというのが、いいと思うんです」


「僕もですか!?」


「そうよケイ。貴方もよ」


「えぇ……」


 マリア、小町、彩羽はそれぞれに。

「おもしろい提案ですわね。翡翠さん」


「わかりやすくていいですね」


「ボクの勝ちに決まってるよ」


 翡翠は天内にバレぬようチラチラと彼を見ながら小声で。

「そして勝者には商品が必要です。

 優勝者は、多忙すぎる天内さんと一泊二日。

 お泊りありの時間を過ごす権利でどうでしょう? 

 これは私が必ず何とかします」


「「「乗った!!」」」

 カッコウことケイを除いた三人は優勝商品を聞くと身を乗り出して同意した。


「僕は天内くんとはほぼ毎日遊んでいますが……」

 困った顔をするケイは頭を搔いた。


「ケイは黙ってなさい」

(面白いヒロインレースが見れそうね。彼の予想を超えて見せるわ)


「え、あ。はい」

(いいのかなぁ。天内くんもこれも計画内なのか? 

 当の本人の天内くんは1人で熱心に経済紙読んでるし……)

「まぁわかりましたよ姉さん」


「いい返事ですよ弟。ククク」

(面白くなってきたわね)

 翡翠はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「翡翠姉さんが悪い顔してるよ」




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