フロント企業 と 首の皮一枚のモリドールさん と 次なる目標
商業区にある、名もなき会員制の料亭であった。
竜虎描かれた襖を開けて貰うと。
目の前の卓上には貴金属や宝石、レアアイテム、そして大量の札束が並べられていた。
ほんの数週間前まで目出し帽を被ってたアホ共が全員強面になっている。
お前らそんなに厳つい顔をしていたのか、と正直驚いた。
高級スーツや着物を仕立て上げられ、腕には高級腕時計や高そうな数珠を身に着けたTDRの幹部達? が整列していた。
「「「「「 お勤めご苦労様です!! 」」」」」
語先後礼で90度まで腰を折り、俺に頭を下げてきた。
「お、おう。お疲れ~」
変な汗がじんわり浮かんできた。
俺はいつの間にか仁義なき世界に転生してしまったようなのだ。
微動だにしない強面集団。
こいつら十代じゃないよね?
十代の貫禄ではないのだ。
全員劇画調の顔面になっている。
髭生えてる奴いるし、顔に切り傷のある奴もいる。眉間に皺を寄せすぎて年齢不詳の奴も居る。
おっさんじゃん。
カッコウに促された最も上座の席に俺は着座するが。
アホ共は全員背筋を伸ばしたままだ。
「あの……座らないの?」
「おい! 楽にしてよい! 座れ!」
カッコウは全員にそう告げると反社の幹部達にしか見えないTDRの者達は一斉に腰を落とした。
カッコウはオホンと咳払いすると。
「閣下。こちらが今週の上納金です」
目の前の卓上に手の平を向けるカッコウ。
「お、おう」
凄い量の金銭だな。
一体幾らになるんだ?
予想を上回る回収スピードじゃないか?
あと上納金?
どうゆうことだ?
「上納金の合計は、しめて総額1億はあるかと。今月のグループ全体の回収率は10億を超えるのは時間の問題かと思われます」
グループ??? TDRの事だよね?
へ。へぇ~。新しい呼び名になってるんだ。知らなかった~。
「あの、カッコウ」
「なんでしょう?」
「上納金って言い方やめない? その……あんまり好きじゃないなその言い方。コンプライアンス的にもさ」
わかってくれ! これはおかしい状況だ。
これでは暴力団の親玉みたいじゃないか!?
「はて? なんと呼べば」
「えっと。会費とか?」
「では今週の会費です」
調子が崩される。
「あ、ああ」
会費なのか? 会費で毎週1億入って来るの? 闇金ってそんなに儲かるのか?
「では! 閣下に報告を!」
カッコウに促されると一番遠くの席に居る髪の毛を刈り上げた男が立ち上がると口を開いた。
俺は神妙な面持ちになってしまった。
俺はしばらく黙して男共の報告に耳を傾けた。
グループ拡大の為に、こいつら独自にビジネスを開始してるようなのだ。
短期間でそのビジネスは飛躍的に拡大してるとの事。
腐ってもマホロに入って来た頭脳だけの事はある。
本質的には優秀なのだ。
ある者は最近、下界のシン・東京のカブキ街にて夜の帝王と呼ばれるようになったとの事。
彼は複数のホストクラブとキャバクラを経営していると報告された。
彼の担当する債務者はシン・東京にて実権を握るフィクサーの息子、娘という事もありその利権を一挙に奪い取ったとの事で夜の世界のドンと呼ばれているらしい。
またあるの者は、メディア産業の御曹司を債務者に抱えているらしい。
そいつは大手広告代理店や民放の中枢に入り込み、情報操作を行いつつ、フロント企業にて大手芸能事務所を経営しているらしい。
フロント企業って言い方やめない? とはツッコめなかった。
不動産業界の大物の娘を債務者に持つ者は、影で地上げを行いつつ複数のビルを経営、所有しているとの事。
地面師とかやってるんじゃないだろうな? マジで摘発されるぞ。
それからも報告は続いた。
またある者は巨大投資ファンドを作り、巨額の投資を行っているだとか。
違う者は、大手食品工場を買収したとか。
色んな奴が立ち上がると。
造船業を始めたとか。
貿易業に手を出す予定とか。
SNSの新サービス事業を開始したとか。
新しいコンセプトの新型自動車を売り出す予定とか。
嘘にしか聞こえない報告が続いた。
最後にピエロメイクの男は、TDRテーマパーク建設の着工に入ったとの報告をしてその場に着座した。
「以上。我がグループの現状の報告になります。何かご質問は?」
カッコウは俺にそう問いかけてきた。
俺は何を聞かされていたんだろう?
人生ゲームの話かな?
「……いや。うん。イインジャない」
とりあえず賛同しておいた。
もうよくわからないので賛同しておいた。
どうしてこうなった?
俺は内心、大変な事が起きているんじゃないかと思い始めていた。
今の話。冗談だよね??? と。
そう思っておこう。きっと俺を馬鹿にしてるに違いない。
俺は知らないぞ~。何も知らない。こいつらが勝手に暴走してるだけだよ。
「俺は悪くない……」
誰にも聞こえぬように自分に言い聞かせた。
「閣下。お加減がよろしくないようですが?」
胸の動悸がおかしな動きをしていた。
背中と脇から滝のように冷や汗が流れていた。
「あ。ああ。少しな。今日はお開きでいいか? ちょっと用事がな。俺は先に帰るよ。みんなはそのまま宴会を楽しんでくれ」
「「「「「 ハ!!! 」」」」」
強面集団は一斉に立ち上がると深々と礼をした。
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「やっべ~事になってる。俺は知らないからな」
俺は頭を抱えつつ自宅に戻って来た。
「あま、あま、天内くん」
噛み嚙みのモリドールさんは俺に声を掛けてきた。
「心配しないで下さい。モリドールさんの借金は全て返済しました」
「ほ、本当に?」
「ええ。安心してください」
「もう。終わったのね……でもどうやって?」
モリドールさんはホッとした顔をしていた。
そうなのだ。モリドールさんはクビ宣告をされてから散財していたのようなのだ。
それが発覚したのはつい最近だったのだが。
彼女は毎晩ホストクラブで豪遊を繰り返し、訳の分からない情報商材に手を出し、貯金を湯水のように使っていたのだ。最後に手を出したのは消費者金融。
そして借金苦に陥っていたようなのだ。
「少しツテがありまして、どうやら悪徳業者が入っていたようで債務整理したら何とかチャラに出来ました。ただ、もう手を出さないで下さいね」
『そ、そうなの?』とモリドールさんは不思議な顔をしていたが、俺が借金の完済証明書を見せると、納得したようであった。
「え、ええ。そうなのね。ありがとう天内くん。貴方には恩が出来たわね」
「いえ。モリドールさんは俺にとって家族みたいな人なんで気にしないで下さい。ただお金はもう借りないで下さいね」
「ええ。わかりました」
彼女は深々とお辞儀した。
「じゃ、じゃあ。気を取り直して。モリドールさんが契約社員に昇格した事を祝して」
「そうね。そうだったわね。辛気臭い顔をしてごめんなさい」
「いえいえ。気にしないで下さい」
モリドールさんは何とかギリギリクビを回避した。
契約社員として残れるようだ。
なので油断は出来ないが、在籍が許された事は素直に喜ぶべきだ。
クラス戦での俺の成績によるものが大きな要因であったようなのだが、それでも彼女が積み重ねてきた積年のマイナスを帳消しには出来なかった。
次は中間考査戦。
夏休み前の全マホロ学園生を相手にした戦いが次の目標だ。
1年生から4年生まで交えたトーナメント戦を行い優勝者を決めるやつ。
これは観客を受け入れるんだが、メガシュヴァの中でも大きなイベントの一つだ。
ほらよくあるだろ?
最も最強は誰なのかを決める武闘祭。
あれあれ。
マホロ学園内輪バージョン。マホロ学園での最強を決めるやつ。
生徒会の連中はシード枠で鎮座している訳だが……
とりあえずベスト16かベスト32ぐらいを目指す。
優勝は絶対に狙ってはいけない。
一回戦で負けるのも論外だ。モリドールさんがまたしてもクビ候補筆頭になってしまう。
ましてやまだ契約社員。俺の成績の如何によりクビにされてしまう。
「ベスト16はやりすぎだな……」
「ん? どうしたの?」
モリドールさんは本日ビールを飲まず晩ごはんの用意をしていた。
「その。美味しそうだなと……」
「ええ。今日はお祝いだしね。私のだけど」
二へへと恥じらいながら微笑んでいた。
「ええ。全くその通りです」
マホロの生徒は1200人。
ベスト32でもやりすぎだと思うが。
1回戦に勝てば600人になるし、2回戦に勝てば300人になる。
つまり5回ぐらい勝てばいいのだ。
これで十分なはずだ。
そうだよな?
「天内くん。中間考査戦も頑張ってね。今回も期待してるわ」
「え、ええ。何とかしてみますね」
「うんうん! 大丈夫そうね!」
「ハハハ」
俺は渇いた笑みを浮かべた。
まぁ、その前に俺のパーティーメンバー最後の1人の勧誘。
それと、今のメンツの強化合宿もせねばならんな。
この世界の攻略も疎かにできん。
まずは次の連休の休みを潰してグンマ―県でレベル上げ合宿を開催するしかないな。




