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クラス戦 エピローグ ― 唯識 ―




 俺は今、小町の指南の日という事で待ち合わせをしていた。

 ベンチに座り、この数日の事を思い出していた。


 まず山本の魔獣共。

 召喚術の担い手である山本が消えた事で、魔の軍勢は現界できなくなり一斉に消滅したわけだ。

 端的に言おう。作戦は成功した。

 

 モリドールさんは……まぁ……これは今はいいだろう。

 新たな悩みの種もできたんだが。それを考えると俺の脳みそがパンクしてしまうので……

 

 話を戻そう。

 

 次に、俺達Dクラスは優勝した。

 クラス戦のMVPは最後まで生き残ったマリアと風音。

 それと個人で圧倒的なポイント獲得率を誇った千秋だ。

 この三人は生徒会の懇親会に招待されるらしい。

 俺は、上の下から上の中ぐらいの成績に収まった。

 MVPには選ばれなかった。

 

「計画通り???」


 まぁそういう事にしておこう。モブとしては異彩を放つ成績。

 除籍ルートはギリなくなったと思われるので、よしとしておこう。

 それと、俺はカジノでボロ儲けした。富豪の仲間入りを果たしてしまった。


「お、やってる。やってる」


 遠くの方でチンピラ集団みたいな奴が三人見受けられた。

 派手なアロハシャツを着た男。

 ホストみたいな奴。

 能面のような顔をした大男の三人組。

 彼らは1人の男子生徒を取り囲むと、アロハシャツの男が肩に手を回し、なにやら恫喝していた。


 TDR闇金集団一派である。

 至る所に我が闇金業者が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)していた。


「集金をやってるようだな。励めよ」

 俺はフッと微笑み。社会の世知辛さの教育風景を穏やかな気持ちで眺めていた。


「天内先輩! お待たせしました!」

 小町がこちらに走って来ると俺の名を呼んだ。


 俺はベンチから立ち上がり。

「ああ。てか……あれ? 今日って指南の日だよね?」


「そうですね」


「なんかラフなんだけど」


「動きやすい方がいいですからね」

 質素なロックファッションだった。

 ダブルのライダースにスキニーデニムだった。


「……そう」


 小町もマリアと同じく服装がラフなのだ。

 舐めてるんだろうか? 小町は最近行ったダンジョンでの戦闘風景を見る限り、まぁ弱い。

 遠距離型の魔術は使えないし、マリアよりも劣る実力だと思われるので今日はダンジョンに潜らず俺と木剣での地稽古を予定している。

 

「それよりも先輩。なんか……ガラの悪い人多くありませんか?」

 小町は辺りをキョロキョロと見渡しながら。


 すると、貴金属をジャラジャラと腕に巻いたサングラスを掛けた坊主頭の男が横を通って行った。

「ほら……あんな人。この学園に居ましたっけ?」

 声を潜めて俺に耳打ちしてきた。


「居たよ」

 最近イメチェンしたんじゃない?


 パイプ椅子が地面に投げつけられる金属音が響いた。

 小町は恐る恐る音の鳴る方に目線を向けると。


「世紀末みたいなファッションした人も居ますし、モヒカンの人も居ますよ!

 鼻にピアスをした人まで!? 

 さっきもスプレーで書かれた落書きも見かけたんです! 

 なんか……怖いんですけど。治安がどんどん悪くなってる気がするんですけど」


「問題ない……え? スプレー???」


 彼らは我が闇金サークルの同胞共だが。

 おいおい。やりすぎだろ。俺知らねぇぞ。

 落書きは犯罪だぞ。お前ら暴走しすぎなんだよ。


「ええ。もう使われなくなった旧部活棟が不良のたまり場みたいになってたんです。

 古いヤンキー漫画に登場しそうなボンタンに学ランを着た、ガラの悪い男子生徒達が賭け麻雀に興じてるのも見かけました。窓ガラスは割れてるし、落書きが至る所に書かれてたんです。

 旧部活棟の天辺(てっぺん)には『TDR』っていう旗が掲げてありました。族のグループ名なんでしょうか?」


「…………知らない……」


 ヤンキー漫画の世界観が召喚されているらしい。

 俺のせいじゃないぞ。何をやってるんだ!? カッコウ!!

 闇金業を始動する際、俺はTDRの日陰者(モブ)達に『これを参考にしてね』と言って渡した闇金モノ、ヤンキーモノ、反社モノの漫画を渡したのがまずかったのか!?


 俺は冷や汗を流しながら。

「俺のせいじゃないから」


 不思議そうな顔をする小町は。

「はぁ? 先輩のせいなんですか?」


「そんな訳ないじゃん」

 上擦った声でそう返答する事しか出来なかった。

 

「ですよね。あんなガラの悪い人と縁なさそうですもんね」


「ソダネ」

 白目になりながら俺は片言になった。


 俺は頭が痛くなった。構内を歩くと世紀末になり始めていた。

 至る所で狼煙(のろし)が上がっているのだ。

 反旗の狼煙がモクモクと上がっていた。


 

 モヒカン集団が原付バイクで爆走していた。

 徒党を組んだガラの悪い黒ずくめの学ランを着た不良集団(カラス達)が凱旋していた。

 ピエロみたいなメイクをして踊り場で踊り狂っている奴も見かけた。

 全身高級スーツを身に纏い『仁義を通さんかい!』と叫ぶ強面集団も居た。

 

 反社っぽい奴らの共通点。

 それは『TDR』の刻印がされたモノを必ず一つ身に着けている点だ。


 マホロ学園は服務規程など、かなり寛容な学校であるが、一部風紀が完全に崩壊していた。

 目の下に(くま)を作った生徒会の美化風紀を担当する越智(えち)が咆哮を上げながら追いかけていた。

 

「俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない……」


「小声でブツブツ。どうしたんですか? 汗凄いですよ?」


「ちょっと蒸し暑いからね」

 今日見た事を記憶から消そう。だって俺は何もしてないから。



 そんなTDRの所業を見て見ぬふりしながら、2人して目的地に向けて歩を進めた。



 小町は初クラス戦。結果は6クラス中2位だったらしい。

 彼女、かなり善戦したと俺に自慢してきた。


「先輩が馬鹿みたいに素振りしか指南しなかったんで不信に思ってましたが、格段に動きは良くなってて驚いたんです!」


「何人倒したの?」


「7人斬りました! 凄くないですか!」

 両手で7の数字を作り、満面の笑みを向けてきた。


「へぇ~。初めてにしては上々だな」


「でしょ! もっと褒めてくれてもいいんですよ」


「あー。凄い凄い」

 

「先輩! 気持ちを込めて言ってください!」


 という『もっと褒めて』アピールを子犬のようにしてきた。

 犬畜生なら尻尾をブンブン振ってるのかもしれない。

 そう思ったのであった。

 

 千秋とやり合った練習場。人気(ひとけ)のない穴場戦闘訓練場。

 その空間でお互い木剣を握った。


「先輩が強いのは知ってます。私じゃ絶対に勝てません」


「……そんな謙遜しなくても」


「いえ、事実です。でも私もほんの少しだけ強くなったんです。七人も斬ったんですから……なので実力を披露しますね師匠」

 小町は自信を付けているようで木剣を胸の前で構えた。


「あー。うん。頼むわ」


 俺は剣術も剣道もやった事がない。ゲームを参考にした完全に我流である。

 適当に目の前で剣を振り回し、膝と腰を少し落とし、半身を斜に構え、右手に持つ木剣の切っ先を小町に向けた。


「変わった型ですね……見た事ない」


「型はないんだ。名付けるなら俺の戦闘技法は(しき)だからね」


「シキ?」

 疑問符を浮かべる小町は肩眉を下げた。


 ―――唯識(ゆいしき)―――

「問答をしても意味はないんじゃないかな。さっさとやろう」


「……そうですね。では尋常に!」


 乾いた木のぶつかる音が両者の間で木霊した。

 

 ・

 ・

 ・


「休憩にしない?」


「いいえ。まだまだ」

 肩で息をする小町は乱れた髪の毛を搔き上げた。


「そっか……まぁ大体実力はわかったし」

 

 俺は間合いを詰め、木剣の柄で小町が反射で放った渾身の一閃を弾き返し。

 回し蹴りを顎に打ち込んだ。

 

「きゅ~~~」

 目を回し彼女はフラフラと明後日の方向へ千鳥足になりながら数歩進むとその場で倒れた。



 手も足も出なかった小町は俺の傍でぐったりとしていた。

 体力を使い切り、俺の回し蹴りで目を回した彼女は濡らしたタオルで目元を覆い涼みつつ小休憩をとっていた。


「一つ訊いてもいいですか?」


「なに?」


「え~っとですね。その……先輩ってこの学校卒業したら何するか決めてます?」

 そんな事を彼女は尋ねてきた。


「突然だな」


「はい。私。そういうの今はないんで。先輩はどうなのかなって」


「他人の聞いても意味ないと思うが」


「いいんです。人の夢を見聞きしたいんです」


 俺は『あっそ』と一言。

「……あるね。うん」


「なんですか?」


「ああ~」

 俺は少し考えてみた。

「もし生きてたら、片田舎で農園でも開く感じかな。そこでひっそり暮らす」


「まるで死ぬみたいな言い方じゃないですか」

 小町は冗談だと思ったのか少し笑っていた。

「でも意外ですね。もっとこう官僚になる! とか大企業に行く! とか大金持ちになる! とか言うと思ってました」


「金には興味はあるが、前者は全く……そういうのに興味ないんだ俺」


「先輩はもっと凄い人になれると思いますよ。ホントに!」


「なれないよ。なる気もない。俺の性に合ってない」


「な~んだ。威張り散らす上司とか向いてるのに」


「どういうイメージだそれ」


 しばしの沈黙の後。オホンと咳込み小町は本題っぽい事を切り出してきた。

「……先輩って、このまま行けば私より先に卒業するじゃないですか?」


「まぁ順調に行けばな」


「その後、私はここに残るじゃないですか」


「後輩なんだからそりゃそうだろ」


「もし、私がその時。卒業する時、将来に迷ってたら先輩に連いて行ってもいいですか?」


「ダメ!」


「即答!?」

 小町はバッと上半身を起き上げ、目を丸くしていた。


「自分のやりたい事を見つけるべきだ」


「その時、私が先輩に連いていきたいって思ってればいいじゃないですか」


「ダメだよ。迷って、間違ってもいいから、色んな事に挑戦して藻掻(もが)くべきだ」


「先輩の傍で学びたいと思ってもですか?」


「過大評価しすぎだって。大丈夫さ。見つかるよ」


「……そうですかね?」


「ああ」


「……」

 納得のいってない顔をした小町は頬を膨らませていた。


「んじゃ。回復もできてるみたいだし、二戦目やるか」


「……受けて立ちます。あとさっきの話はまた今度!」

 小町は長い黒髪を束ねると、木剣を片手に立ち上がった。


「今度はないね!」

 俺は木剣を両手で弄び小町を見据えた。



惟神かんながら編 終わり。

次回5章

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