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クラス戦④


/三人称視点/


 COR()が流布する肉体強度、魔力を急速に強化する錠剤"グローリー(栄光)"と呼ばれる薬。

 

 その錠剤を入手したBクラス大将スティーブンは、四菱を使い人体実験をしようと画策していた。


 急速に肉体を強化する代償に、高い依存性や意識障害を引き起こすとされている薬物。

 闇の世界にて取引されている違法薬物。

 戦場で兵士を不眠不休で働かせる為に使用されていると噂される代物であった。 


 スティーブンの思惑は、もし四菱が問題なく強化されるなら自身も同様に試し、同じように力を得る。

 逆に、強い副作用が出るなら四菱は終了であり、同時に危険な薬物であるという確証も取れると考えていた。


「四菱の野郎。毎回俺をこき使いやがって」


 スティーブンは四菱の手下を演じ続けてきた。

 この学園に入り、親の仕事柄、四菱に従わざるをえなかったのだ。


「俺はパシリじゃない……Bクラスはお前の踏み台でもない」

 彼の腹の内はいつ四菱を出し抜けるかを考える事であった。

 

 スティーブンは()()()()()()の水を汲む(すき)にグローリーを粉末状にしたモノを混入し、それを四菱に手渡した。 


「少し、喉を潤したらどうです?」


「チッ!」

 四菱は予想通りクラス戦が運ばず機嫌が悪そうに舌打ちすると、スティーブンが手渡した水を一気飲みした。


「少々イレギュラーがあったようですが、四菱様の栄光は確かなモノかと」


「当たり前の事を抜かすな!」

 四菱はスティーブンを恫喝し、紙コップを彼の頭に投げつけた。


「申し訳ございません」

 慇懃に頭を下げるスティーブン。

(さぁどうなる。(COR)から入手した薬物。この男は力を得るのか、それとも破滅か。どちらでもいいさ。あらゆる意味で最後に勝つのは俺だ)


 スティーブンは内心ほくそ笑んでいた。


 ・

 ・

 ・


 そろそろ日が暮れ始める頃合いであった。

 Dクラスの順位トップは三日天下に終わった。

 その一時間後にはAクラスが再び1位に返り咲いていたのだ。


 ABC連合も崩壊を始めており、人数が減ってきていた。

 特にBクラスの崩壊は激しく得点も82点しかなかった。

 Aクラス生にトドメを献上しているようで、殆ど獲得ポイントがないのだ。

 生き残りも数名しか居ない模様。


 Dクラスも先程、謎の得点増加を行ったが、それ以降は増加せず徐々に減った。

 目算だと既に15名ほどしかDクラスには生き残りが居ない。

 


「グガッ」

 1人の男子生徒が白目を剥くと力尽きた。

 耳の穴から脳天に向けて細剣を一突きした所であった。

「得点調整が困難を極めてるな」


 脳汁を振り払い、細剣を腰鞘に納め、俺はごく一般的な速度で走り出した。

 カッコウに教えて貰った四菱の拠点に向かっていると。

 

「……あ~。こうなっちゃうのね」

 

 目の前に居たのはEクラスの生き残り全員だった。 

 大将と副将、それ以外の1点プレイヤー。

 中には魔盾(まとん)を持った小柄な生徒。間坂イノリの姿も見えた。

 総勢8名。

 得点換算で46点。

 クラス戦は終盤戦に入っており、この(あた)りから数の減っているクラスは顕著になってくる。

 現在2位のDクラスですら、半数も生徒は生き残っていない。

 終盤戦は個の強さが求められる。


「お前はDクラス代表の……天内」


「どうも」


 俺の視線の先には2メートルはあろう巨躯をした獣人の生徒。

 ライオンのようなたてがみをした大男だ。

 Eクラスの大将。一休くん。


 俺は細剣を抜刀するが、俺の事を格下だと思ってるのか彼らは臨戦態勢を取らなかった。


「武器構えなくていいの?」


「脅威ではない」

 

「あっそ」


 クラス戦最下位にも関わらず、この余裕。

 雑魚を演じる俺を脅威ではないというのは真っ当な意見であるが、その油断は頂けない。

 だからいつまで経っても雑魚なんだろう。


「悪いが、ここで退場してもらうぞ。天内」


「する気ないなぁ~。全員で来なよ。時間を浪費するのはそっちも望むところじゃないだろう?」

 

 得点調整どうしようかな。

 超絶難しくなるじゃんか。


「お前など、俺が出るまでもなかろう」


 格好の餌である俺を目の前にその態度か。

「いいんだけさ。う~ん。じゃあ、誰でもいいよ。どうせ……」

 キミらでは俺に傷一つ付けられないから。

 俺は細剣を手元で遊んでいると。


「オレが出よう」

 俺と同じ身長ぐらいの細身。狼のような雰囲気を纏った獣人が俺の前で抜刀した。

 刀剣を携えた目つきの悪い狼男だ。

 

 どうやらサシ(一対一)でやって頂けるらしい。


「んじゃ。やろうか」

 俺は細剣を瞬時に暗器(アーツ)で刀剣に切り替える。


「!?」

 目つきの悪い男は、何が起こったのか理解できない顔をしていた。

 他のEクラスの生徒の間に動揺が走っていた。

「魔術か?」


「いや理解しなくていいよ」

 悪いが『理解する』という、その領域にすら到達していない。

「さっさと始めようか」


「バカにしやがって。雑魚が!」

 狼男は咆哮すると、俺は地面を蹴り間合いに入る為走り込んだ。


 狼男の描く軌道は横一閃(よこいっせん)の真円。

 俺が間合いに入った瞬間、狼男の一刀は放たれるが。


 ―――紙一重―――


 俺の頭上を刀剣が通り過ぎていく。


「素振りはまぁまぁか。あと100万回素振りしてから出直しな」


 俺はその(つたな)い軌道をスライディングの要領で(かわ)すと、足元に潜り込み、両膝の関節から下を切断した。


 両足を切断された男は苦悶の表情で前傾姿勢で倒れ込むと。

「ヌッギ!?」


 足元では『ぜぇぜぇ』と、息を切らしながら冷や汗を流していた。


 痛そうだなぁ……

「……治癒しないの?」


 俺は周りのEクラス生に聞こえるよう投げかける。


「流石にそこそこやるか……だが」

 一休は俺を一瞥するが、未だに脅威ではないとの表情を浮かべていた。


「面倒だなぁ」

 頭を掻き狼男を無情に斬首した。

 すると、今度はエルフの男が片手剣を抜くと切っ先を俺に向ける。

「ワタシが次の相手だ」


 またサシ(一対一)でやって頂けるらしいが。

 

「時間が惜しい。ここまでだな……」


 得点を自在に調整する事が難しすぎる。

 多人数が入り乱れている以上得点は随時動く。

 それを神の如く調整するのは不可能に近い。


 トップのクラスの大将と一騎打ちはしたかったが……

「まぁ。ここで全滅してもらうか」 


 目的を見失ってはいけない。

 俺は優勝以外狙ってはいけないのだから。


「なにをブツブツ言ってる。怖じ気づいたか?」

 雷を纏った片手剣。

 髪の毛は逆立ち肉体にも雷電を纏っているようだ。


「悪い。少し考え事をな」


「少々奇怪な技と剣の腕は立つようだが、魔術のセンスはないのだろう?」

 エルフの男は俺を嘲笑していた。


「まぁね。浮遊しかできないので」

 ……という設定でやらせて頂いてるだけだけど。


 俺は足元の小石を1個浮かせると回転を加えた。浮遊魔術を披露したのだ。


「ハッ。矮小だな。小さな魔術だ」


「だろ?」

 君に魔術を使用するまでもないさ。

 剣技とアーツのみで十分。

 それ以上は君の自尊心を折りかねないしね。


「フッ。剣技では魔術戦には勝てんぞ」

 紫電が空中を舞うと、それが開戦の合図となった。


「どうかな」

 俺はエルフの男と同じく片手剣をアーツで切り替えた。

 お互い走り出し、俺は武器入れ替えによる曲芸準備を開始した。


 ・

 ・

 ・


/翡翠視点/


 私は四菱とスティーブンの行動を監視していた。

 そして先程スティーブンは不可解な行動を取った。


「何を入れたの?」


 思考の海にダイブし、記憶と推測を紡ぎ合わせる。 

 ――――水面――――

 推理の水面。

 私は意識を研ぎ澄ませ、呼吸を浅くする。

 思考を高速に加速させる。


 あの青い錠剤は……脳内で知りうる薬を検索しろ。

 

「違法薬物グローリー」


 肉体、エーテル、魔力炉心それら全てを無理矢理活性化し、狂人に変貌させる薬物。

 戦場において、傭兵や使い捨ての一兵卒に配られていたとされる廃人を生み出す特効薬。

 一時的に潜在能力の何倍、何十倍もの力を手にする代わりに寿命を削る代物だ。


「あれは高い依存性と、その危険性から取引が禁止されているはず。闇と通じている者がやはり居るのか……」


 闇……犯罪ネットワークCOR。この世界の裏側を支配する犯罪組織。


「私の家族を殺し、人身売買をしていた組織。そしてマスターの敵」


 この者達と通じる者もこの学校に?

 正直マスターの頭の中はよくわからない。

 恩人(ゆえ)、山本なる人物も探っているが、本当に居るのかも不明だ。

 マニアクスと呼ばれる邪悪が人の世を壊そうとしているなど素っ頓狂な話だと思っている。

 

「だけど……」

 

 それは嘘には聞こえない。

 実際にグローリーと思われるモノを混入したスティーブンもこの目で見た。

 COR……マニアクスと呼ばれる者達が首魁を務める組織が作り出した違法薬物をこの目で確認したのだ。

 このタイミングでそんな偶然あるのだろうか?


「彼は…天内とは一体何者なの?」

 頭を振るい。

「思考が乱されている。それは後で考えよう」


 グローリーは飲み薬の性質上、肉体に浸透するまでに時間が掛かるとされている。

 体内で消化される前に排出してしまえば、その効果はゼロではないが(ほとん)どなくなる。

 

「マスター貴方は一体何手先を読んでいるの……」

 

 パズルのピースがカチリと合わさる音が脳内に響いた。


 なぜマスターが給水所に下剤を混入するよう指示していたのか、その理由と辻褄が噛み合ったような気がした。

 正直、そんなまどろっこしい事をする理由が意味不明であったのたが……


「まさか、これを懸念して……」


 驚愕でしかなかった。

 違法薬物の蔓延を防ぐ目的があったのだ。


「いや、使用する者が居る事を計算に入れていた……そこまで調査していたというのか」


 あの男。天内は一体いつ寝ているのだ。

 私の調査能力と推理能力を遥かに超えている。

 何手先を読み、何手先まで手を打っているのか。

 一挙手一投足に意味を持たせ過ぎて非才な私では理解が追い付かない。


 身震いした。

 底知れぬ実力と頭脳に恐れを抱いた。


 さらに、マスターの戦闘能力は恐らくこの世界でも指折りだ。

 あれほどの魔術を多彩に扱う人間を私は過去の文献でも知らない。

 唯一居たとされるのは、おとぎ話ぐらいだ。

 彼は世界最高峰の実力を隠し、この世界の闇と戦っている。

 

「あの暗く淀んだ瞳には何が視えているの。何が目的なの?」


 称賛もされない。

 報酬もない。

 そんな危険に、火中に、単身で乗り込み大事(だいじ)を成そうとしている。

 そんな事を1人で行い続けてきたとすすけた背中が語っているのだ。



「天内傑……あなたは本物の救世主なの?」


 



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