クラス戦③
ぶっちゃけ。
俺は一定の成果を上げねばならん。
Dクラスが勝者になるのは勿論、俺自身も目に見えて成果を出さねばならんのだ。
モリドールさんは最近やつれ過ぎている。
段ボールを買って来て荷造りをし始めているぐらいに。
気が早すぎるとは思ったが、俺は一言も声を掛ける事が出来なかった。
「モリドールさん……あなたは、もはやこの世界の俺の家族だ。どうして楽しいはずの食事が毎回お通夜みたいになるんだ!!」
モリドールさんが消えてしまうのを必ず防ぐ。
無論、俺が除籍になるのも防ぐ。
モリドールさんの笑顔も取り戻す。
「時は満ちた」
用を足し終わる。
格納している武器を脳内で確認する。
およそ1000の武器がある。
慢心をしている訳ではないが、おそらく2年生で敵は居ない。
「というか、弱すぎるんだよな」
そうなのだ。弱すぎるのだ。
マホロ生で脅威なのは恐らく生徒会の連中ぐらいだ。
俺の理想としては、Dクラス大将である俺とトップのクラスの大将とのPK戦を希望している。
終了時までにトップのクラスと同点にしたい。
「大将同士の一騎打ち」
ここで派手に勝てば俺個人の成績は体裁を保つ事ができる。
「筆記試験も恐らく700点は超えている。クラス戦も優勝。大将同士の一騎打ちも勝利する」
誰がどう見てもモブの領域を超えている気もするが、今回は致し方ない。
「仕方ない。仕方ないのだ」
一騎打ちになった場合、武器の切り替えによる曲芸を見せつけよう。
剣、槍、斧、槌による武器の高速切り替え。
「抜刀術のように一瞬でケリをつけすぎると実力差を目に見えて披露してしまう恐れがある、ある程度の演出も必要だな」
今回は"エンターティナー俺"を演じる必要がある。
観客を魅せねばならん。
これで俺の成績は上位を保てるはず。
一度伸びをすると、背骨がバキバキと鳴る。
「さて、そろそろ連絡をとるか」
洞穴の中は巨大な空洞の空間になっており、天井の高さは10メートルを超える。
俺は闇に潜む者が居ない事を確認すると。
「居ないようだな」
電波が通じる位置を探すのに手間取った。
俺は携帯のアンテナマークがようやく1本立った所から電話をかけた。
しばらくのコール音の後。
カッコウが受話器を取ったようだ。
「カッコウ。今どこだ?」
『はい。現在、TDRのスパイ総勢30名による裏工作が成功しているのかの確認とスパイの監視をしています。裏切り者も居る可能性がありますので』
「裏切り者か……まぁ居てもおかしくないな。それは仕方ない。TDRは即席チームだ。あまり信用できんな。素性の知れない奴が多すぎる……それで、錠剤を混入したのか?」
『いえ、粉末状の下剤を給水ポイントに混入しております。
おや、これはまだ入れられてないようですね。
一応入れておきましょうか。一週間出なかった便秘すら解消する強力なやつ。
全く手間取りましたよ。医者に嘘を吐いて入手するのに』
カッコウは悪態を吐きながら。
ポチャンという音とサラサラと砂を落とすような音がした。
『失礼。話を続けましょう』
「即効性のやつを入れてる訳か。あれは速攻で効き始める故、治るのも速攻」
一回出すもん出せば便意は治まってしまう。
既に俺の身体で人体実験済みだ。
『ええ。なのでタイミングが重要かと。補給するタイミングは操作しづらいので、ここは運の要素が出てきますね』
思い付きの脱糞戦術だしね~。
穴だらけなのだ。
「水分の補給をできなくするだけで十分だ。もう一点、カジノの金額の方はどうだ?」
カジノの金額を教えてくれ。
俺は金が要り様なのだ。
武器弾幕は金が掛かりすぎる。
札束を投げて戦っているようなモノなのだ。
『そちらですか。先程確認した所、プールされた詳細な金額が計上されました。およそ42億7千万ほどの賭け金があります』
「よん、じゅうか……それは」
凄いな。
「ありがとう。どれほどの資金が動いてるのか知りたかっただけだ。
まぁ俺達が勝つ以上それは置いておこう。最後に俺は現在の戦況が全く読めていない。
わかる範囲で構わない。情報を頼む」
『少々お待ちを……』
3分ほどの沈黙の後。
『詳細は掴めない部分もありますが、翡翠さんの情報を擦り合わせるとこんな感じです』
カッコウはわかる範囲で現在の戦線の状況を教えてくれた。
ABCクラスはゲームの内容通り徒党を組んでいるらしい。
現在Aクラスの脱落者はゼロ。
四菱は俺と同じように拠点を作り、そこで力を蓄えているようだ。
終盤戦で他クラスの生徒が疲弊した所を自身の力を全力で使い、目立つ腹積もりのようだ。
拠点にはBクラスの大将のスティーブンも居るらしい。
Cクラスの女大将、迷々は、Cクラスの7割以上の生徒を率いて前線に赴いているらしい。
Eクラスの駆逐に奔走しているようだ。
Eクラスはエルフや獣人の生徒が多く在籍しており、迫害されている生徒が多い。
ここは最も戦線が崩壊していた。
まだ大将や副将は健在のようだが、半数近くの生徒が戦線を離脱してるようだ。
「Fクラスは?」
『大将の桜井は現在、彩羽殿と交戦しております』
「え?」
『彩羽殿は桜井、天馬、システリッサの3人を相手に交戦しているようです』
「まじで?」
『マジです』
「そっか~。で、どうなってんの?」
『そこまでは、おそらく現在も交戦状態かと』
「そ、そう」
どうなるのか少し楽しみではある。
千秋は無茶苦茶強い。
戦っている相手が主人公とメインヒロイン達となると、単純に観客目線でどうなってるのか気になる。
「俺もそろそろ赴くよ。一騎打ちには得点調整が必要だからな。
時間は午後4時。俺とカッコウで変装術(弱)で入れ替わろう。
この拠点の場所は……」
カッコウには変装術を教えてある。
俺の影武者になって貰う。
俺はカッコウに拠点の位置情報を教えた。
このクラス戦、午後9時頃まで続く長丁場。
そろそろ身体が鈍って仕方がない。
ガリノには悪いが勝手に動こう。
『承知しました。では時が来たら』
「よろしく頼むよ」
通話終了ボタンを押し。
「狩りを始めるか♪」
俺はニチャァァァと嗤った。
「ん? またポイント入ってるじゃん」
また10点ぐらいポイントが加算されていた。
Dクラスが恐るべきスピードで順位を駆け上がっていた。
「大丈夫かな。俺不要なんじゃない?」
違う意味で不安な気持ちになった。
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/三人称視点/
戦場は混戦していた。
天内とカッコウの情報は既に古いモノであったのだ。
彩羽と風音達、それと彩羽が葬ったABC連合の生徒達の増援による三つ巴の戦いが繰り広げられていた。
「この女何者だ!?」
Bクラスの生徒は驚きの声を上げると、一瞬で氷漬けにされる。
氷の彫刻になった男子生徒は彩羽の鉄拳によりガラスを叩き割ったような音を奏でながら砕け散った。
「弱すぎるんだよ!」
銃声が響く。
銃弾は彩羽から数メートル離れた場所で着弾し地面を抉っていた。
何発もの銃声が鳴り響くが。
邪悪な笑みを浮かべる彩羽に狙撃が行われるが、その悉くが当たらなかった。
彼女の持つ固有スキルは『飛び道具/放出魔術による攻撃が絶対に当たらない』。
固有スキル:脚光を浴びぬ者。
狙撃など意味がない。
遠距離攻撃では彼女に傷一つ与える事はできないのだ。
「効かないねぇ」
彩羽は銃声の鳴る方向を睨みつけると。
「引!」
引力を操る魔法で狙撃手を手元に引き寄せ。
「ヒィ!」
狙撃を行っていた女生徒は悲鳴を上げるが。
「じゃあ死んでね」
彩羽は女生徒のこめかみを握り潰すと真っ赤な花が咲いた。
―――火花―――
彩羽のガントレットと刀剣がかち合うと火花が散った。
「お前はそこそこやるようだな」
「どうも。君は相当強いね」
風音は聖剣を得手の刀剣に変化させ彩羽の懐に剣閃を放つが、その攻撃はいとも容易く受け止められる。
(この人……何者だ。どこの生徒だ? 強すぎるぞ。事前に発表された役職持ちには居なかった)
南朋とシステリッサはABC連合の生徒と攻防を繰り広げている。
風音はシスの強化を受けているにも関わらず、単騎で競い合う目の前の少女に決定打を与える事ができなかった。
「斥!」
「な!」
風音は吹き飛ばされると背後にある木に背中を強打する。
彩羽は斥力を操る高度な魔術を発動し風音を引き剥がすと、数多の氷の礫を出現させる。
「お前ら全員、蜂の巣にしてやる。弾丸の霰!」
彩羽の目の前から弾丸のような霰の雨が全方位に向けて発射された。
「南朋! シス! 伏せろ! シス全力で防御を!」
「かしこまりました!」
システリッサは詠唱を行い風音、南朋、自身に防御の結界を展開させる。
着弾する氷の弾丸は辺り一面を削り尽くす。
マシンガンを乱射したような風切り音はゴリゴリと地面と人間を破壊し尽くした。
しばらくの強襲の後。
「ぐ……」
風音は額から血が滴ると顔を歪ませる。
システリッサと南朋は生き残っているが、氷の衝撃で吹き飛ばされ息を切らしながら地面に手を付いていた。
今まで混戦していたABC連合の生徒は全滅しており、その残骸が残されていた。
「全員相手にここまでやるのか。凄いな……聖剣解放」
素直な称賛。
それと身震いするほどの圧倒的なまでの実力に恐怖した。
(ここで全力を使いたくなかったけど……全滅すれば元も子もない。間違いなくここが正念場だ)
「全員起きるんだ。全員でこの娘を倒すぞ」
「はぁ……無茶言うよ。でもウチも全力出さんとヤバいなって思っとった」
「そうですね。魔力を温存しておきたかったですが……」
「まだ生きてるのか。弱いくせに。しぶとさだけは認めてやる。そのおもちゃのおかげか……」
彩羽は聖剣を興味なさそうに一瞥し、両手を胸の前に構えファイティングポーズを取る。
すると雰囲気がより冷酷なモノに変貌した。
「氷瀑式展開……」
周囲の気温が急激に変化し吐く息は白くなった。
「まだ本気じゃなかったのか……」
――絶望―――
風音は気が遠くなりそうな実力差を、まざまざと見せつけられている気がした。
「行くぞ! プルガシオン!」
聖剣は真名を叫ばれると、それと呼応するように発光し黄金色の光を収束させていく。
風音、南朋、システリッサの三人は彩羽を取り囲むと。
4人の攻撃が辺り一帯を更地に変えた。
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午後のおやつタイムを挟んでいると。
「またポイント増えてるじゃん。なんだよこれ。バグってんのか?」
また30点ぐらい増加していた。
序盤のマイナスをとんでもないスピードで帳消しにしているのだ。
あの後、Dクラスは何人か脱落したようで、得点の加減を繰り返した。
それでもDクラスは一気にトップまで躍り出ていた。
次点でAクラス。
「千秋の奴……」
あいつ何やってんだよ。
気になってしょうがないじゃん。
それにこのままだと同点からのPK戦にできないかもしれない。
「彩羽さんがどうかしたんですか?」
「いえ、元気かなぁ~って思って」
「そうですか。私はそろそろ出ますね。
天内さんはここで吉報を待っていて下さいませ。天内さんの手を煩わせる必要もありませんわ。それではごきげんよう」
マリアは戦闘準備を整え終えていた。
「あ、はい。ごきげんよう……ちょっと待って!」
間もなくカッコウと入れ替わる時間だ。マリアに伝えておくか。
「あのマリアさん」
マリアは振り返ると。
「なんでしょう?」
俺は呼び止めた彼女の傍まで駆け寄り。
「俺もこの後出るので。少しやる事があって。ここには……俺の協力者というか影武者みたいな仲間が入れ替わりで来るので、その戦場で会っても見なかった事にして貰うと……」
マリアは口元に人差し指を近づけ。
「ええ。全て理解しました。わかりました。そういう事ですね」
今の言葉で全て汲み取ってくれたのだろうか?
頭の回転が速すぎる。
「えっと。まぁ、そういう事です」
「かしこまりました。ではそのように」
「あ、はい」
『あ、はい』が発動してしまった。
コミュニケーション能力が著しく低い者が発動する言葉を。
「では皆さん。私は出陣しますね」
マリアは拠点のみんなに挨拶して去って行った。
「俺もそろそろ出るか……」
間もなく入れ替わる時間だ。
脳内で童歌を流していた。
どちらにしようかな。
どこのどいつから消そうかな。
天の神様の言う通りっと。
「おし! 得点調整をしつつ、まず1点プレイヤーから順に消すか」
俺はターゲットを定めた。
そろそろ四菱が痺れを切らして、高得点を狙いにくるはずだ。
「四菱、スティーブン、迷々を消すのは最後のディナーショーに取って置かなきゃな」
俺はエンターティナー。
ショービジネスはタイミングが命。
俺はニチャリと口角を上げた。
吠え面を拝めると思うとニヤケが止まらなかったのだ。




