クラス戦②
このクラス戦、ポイント保有率の高い大将が狙われる。
次点で副将であり、その次に役職持ちだ。
1点選手で大将を守る事に徹すれば攻撃が疎かになるし、攻め過ぎれば大将の首を取られやすくなる。
大人数で纏まって行動すれば格好の的になってしまう。
結局のところ、定石は拠点を作り1点プレイヤーを動かすという、つまんない戦いになってしまう……と思うだろう?
将棋でも玉や王を前線に立たせるなんて事はしない。
しかしだ。
ここはメガシュヴァ世界観。
1人の実力者で戦況をひっくり返す事ができてしまう。
そもそも、大将が一番強い傾向がある以上積極的に動くケースの方が多いのだ。
「どうしようかな」
俺はマリアと数名のクラスメイトと雲隠れしていた。
俺は体裁上雑魚なのだ。
雑魚が一番保有ポイントが高い、という愚かな作戦を取っている……と思われている。
そのせいも合わさって、カジノのオッズもDクラスは一番高いようなのだが……
洞穴の中。
俺達は一番最奥にて拠点を作っていた。
松明の焔が妖しく揺らめくと。
「これ逃げ場ないよね?」
シンプルな俺の疑問だ。
「狙撃はなくなる」
ガリノはかっこいい顔をして虚空を眺め返答した。
「まぁな。しかし攻め込まれれば一網打尽だぞ」
そうなのだ。ここに高火力魔法を連続で打ち込まれれば流石に俺でも一溜まりもない。
なんとか脱出できても俺のみしか生き残れないだろう。
「一網打尽にはさせん。数多くのトラップを仕掛けてある。それに多人数での行動を阻害できやすくなる。天内よ案ずるな。俺の策略は完璧だ」
「……あっそ」
ホントに信用していいんだろうな?
「私も早く特訓の成果を出したいのですが」
隣に座る副将のマリアはウズウズと身体を揺らしていた。
「ダメです。マリアさん。マリアさんの実力は知ってはいますが。今現在、尖兵を放っています。序盤はコツコツ得点を稼ぐ作戦でいきます。マリアさんは序盤で体力を溜めつつ、中盤から終盤に掛けて他クラスが疲弊したタイミングで出陣して貰います」
「そうですか。わかりました。その時を待ちましょう。楽しみです……鏖殺できると思うと」
フフフと、邪悪な笑みを浮かべるマリアは悪の幹部の顔であった。
俺とガリノは若干引きつつも。
「尖兵ってなに?」
そういや、ここには俺とマリアとガリノ、それと数名のクラスメイトしか居ない。
「偽装部隊、遊撃部隊、調査部隊を放っている。作戦はこうだ」
ガリノはニヤリと笑うと。
現在どのようにDクラスが動いてるのか説明してきた。
偽装部隊10名。つまり俺のフリをして動いている陽動部隊。
ここには防御力の高いニクブがいるらしい。時間稼ぎを行う囮部隊であり、機会があれば攻撃に転じて得点を取るよう動く部隊だ。
遊撃部隊15名。クレアを中心に他クラスに攻撃を加えるポイントゲッター的部隊。ここはこのクラスでも優秀な生徒が集められている。積極的にポイントを取るよう集められた精鋭だ。
調査部隊15名。戦況を把握する為に自由に行動を許された部隊。
偽装部隊、遊撃部隊、本陣の三つの橋渡し的な部隊であり、少数もしくは単独で動いてるらしい。
それ以外は俺達であった。
「ん? 動きがあったようだぞ」
ガリノに問うてみる。
「1人やられたか……」
貸与されている携帯デバイスにDクラスのポイントが1点減ったとの通知が届いていた。
現在99点。
すると、それを皮切りに。
通知が鳴り止まなくなる。
98、97、96、95……と徐々に減って行き。90で一旦止まった。
「10人やられたか……」
ガリノはフッと笑うとカッコよく呟いた。
「10人やられたな。大丈夫なのか?」
強敵に出逢ったんじゃないのか?
「大丈夫だと思うか?」
非常に冷静な顔をするガリノ。
その表情には微塵も取り乱した様子がない。
「お、おう?」
俺は眉根を顰める。
何か作戦があるのか?
そこまで落ち着いてるんだ。
何かあるんだろうな?
「我々は敗北に向かっている……とだけ言っておこう」
「ダメじゃねーか!! このポンコツ策士!」
冷や汗を流すガリノに詰め寄り胸倉を掴む事しか出来なかった。
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/風音視点/
クラス戦が始まり3時間が経過した。
現在昼の12時過ぎ。
現在の順位は。
Aクラスがトップ。
最下位がEクラスであった。
昼食の時間が迫り、戦線の攻防は落ち着くと思われたが、さらに激しさを増した。
至る所で黒煙が昇っていた。
この仮想空間。
死にはしないが、痛みもあるし睡魔や空腹感もある。
全クラス、休憩を挟むだろうこのタイミングを狙っていたのかもしれない。
僕は一度木陰に潜み息を整えた。
僕らはA、B、Cクラスの生徒に狙われていた。
彼らが裏で手を取り合っているのはわかっていた。
彼らの中心人物である四菱は事実上BクラスとCクラスを支配下に置いている。
このクラス戦。
ABC連合150名とDクラス50名、Eクラス50名との闘いだ。
僕らFクラスのクラスメイトは既に幾人か削られている。
僕、シス、南朋の3人は何とか追手から遠ざかる事に成功したが、膠着してしまった。
「挑発したのを後悔はしていない……」
この学園にある問題。それは経済格差による貧困層への差別のみならず獣人差別、上流階級層の不正など様々な問題が根付いている。
この学校の卒業生はいずれ世界に影響を及ぼす。
そんな生徒が多く在籍している。
特に僕らの居る世代はその子息子女が多すぎる。
だから、問題を解決できるタイミングがあるならこの世代しかないと踏んでいる。
今、この学園に居る時が世界の過ちの連鎖を止められる絶好の機会だと……
「僕、なんだか凄い事をしようとしてるのかな」
だからこそ、彼らに実力を示さなくてはいけない。
「僕は実力を証明しなくてはいけないんだ」
「どうしたの風音?」
南朋は額の汗を拭うと心配そうに声を掛けてきた。
「いや。なんでもないよ。少しお腹減ったなぁ~って思って」
「こんな時でもホント呑気で呆れるわ」
凡そ100メートル先の木陰に先程攻撃を仕掛けてきた複数の生徒の影が動いていた。
あちらもこちらの様子を窺っているようだ。
疲労が出てきているのだろう。
「数は20を超えそうですね。増援される前に一度引きましょう」
シスは顎に手を当てて一度クラスメイトと合流する提案をしてきた。
「そうだね。逃げられればだけど……」
数が多いな。
あっちにはBクラスの堅将が居た。
そこそこ強いぞ。それにそれ以外の生徒も粒ぞろいだ。
僕も剣術に自信はあるけど……果たして切り抜けられるだろうか?
「ん? あっち側なんか騒がしいみたいよ」
南朋は敵が潜む箇所から目線を逸らさず忠告をしてきた。
「どうしたんだろう? 奇襲でも受けてるのかな」
ABC連合が慌ただしく動き出すと。
彼らが居る方向の木陰が一瞬で冷却され氷漬けになった。
多くの魔術による攻撃。
爆発音が鳴り、木々が騒めくと地鳴りのような音。
こちらにも聞こえるほどの絶叫が響く。
「他のクラスが攻撃を仕掛けてるみたいね」
「そのようだね……でも」
どこのクラスだ?
ほんの数分。そんな戦闘音が鳴り響くと巨大な氷柱が出現した。
ここからでも感じ取れるほどの冷気。
それが伝わって来るほどの強力な魔術の痕跡だ。
先程までの絶叫や爆発音が嘘のように静寂に包まれると。
ABC連合が居ただろう場所は氷漬けにされていた。
木々と大地は真っ白に変わり果てていたのだ。
「血まみれだ」
南朋が引きつった顔をしていた。
ドライアイスのような白い煙の中から冷気を纏った血まみれの生徒が現れた。
「……魔王じゃん。あれ相当ヤバいよ。どうする?」
「どうやら途轍もない強敵のようですね。今までにないほどの」
僕はふうっと大きく息を吐くと。
「どうやら見逃してくれそうな相手じゃなさそうだ。3人対1人ならこっちに分がある」
1人の女生徒がこちらにゆっくりと歩み寄ってきていた。
「やろう。どうせ倒さなきゃならない」
僕は剣を構えると二人も戦闘態勢を取った。
氷雪から現れた1人の生徒は微笑んでいた。
殺戮を楽しむかのような邪悪な笑みを浮かべながら……
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昼食を終えお茶を啜り終えると。
「突然30点ぐらい入ったんだけど」
突然Dクラスに大量得点が加算されたのだ。
「クレアさんの居る遊撃部隊が上手く機能しているようだな。計算通りだ」
「……ホントかよ」
「天内は心配性だな。な~に。大丈夫だって」
ガリノは自身のこめかみを人指し指で叩くと。
「俺の策謀に抜かりはない。ブハハハハ」
ガリノは哄笑しながら手を叩いた。
俺は白目になった。
「……」
多分違うと思う。
千秋の奴じゃないのか?
あいつ、俺とは別行動なのだ。
今どこで何をしてるのか。
選手宣誓の後、彼女は随分息巻いていた。
開始の合図が鳴ると、『ぶっ殺す!』とか言って一人で駆けて行ったのを見たのが最後だ。
拷問とかしてないだろうな。
「ここだとなぁ」
ここだとカッコウと情報共有ができない。
携帯デバイスのポイントでしか戦況を把握ができないのだ。
後でトイレに行くフリをしてTDRの動きはどうなってるのか訊くとしよう。




