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クラス戦①



 これから同学年のクラス代表6人による選手宣誓をする訳だが。


「さて、俺はなぜこのポジションなんだ?」

 改めてなぜ俺が担ぎ上げられているのか訊かずにはいられなかった。

 

「解放者は俺達の精神的支柱だから」


「そうだな。これはクラスの男子の総意だ」


「誠にである」

 

 馬鹿野郎共が俺の肩を叩き、お前以外に居まいという風に『うんうん』と頷いていた。

 クラスの男子生徒共が俺にクラスの大将を押し付けてきたのだ。

 同票はマリアであったのだが、『天内さん以外にまとめ役は居ません』との事で俺が総大将の席に座る事になった。


「お前はそこで黙って座してればいい」


「天内氏はTDRの……ゲフンゲフン」

 七三分けの眼鏡の男が咳込んで言葉を紡ぐのを止めた。

 

 お前はTDRの者か……ニクブもガリノもTDRのメンバーではない。

 というか、学園の日陰者達で結成されたTDRのメンバー。

 こいつらを俺は全員把握できていないのだ。

 そもそも殆ど目出し帽を被っているせいで、どこのどいつなのか知らない。

 TDRのあれやこれやはもうカッコウに全部任せてる。

 俺は適当な事を言って集金サークルであるTDRに無茶な命令をしてるだけだ。


「天内よ。俺の剛腕で全てを堅守するさ。皆を守ってみせる」

 そんな事を爽やかな顔でニクブは言い放ってきた。


 こいつは恰幅の良い肉体をしている。

 一言で言うとデブである。クソデブなのだ。

 こいつの防御力は俺を除くとDクラス随一。

 なので、堅将の大役を任されている。

 身の丈はある大きな盾を構えていた。


「我が奇策が火を噴くぜ。治癒は俺に任せとけ」

 ガリノであった。ガリノはガリガリなのだ。もやしみたいな肌の白さに長身のノッポである。

 こいつは武器術の才能がなく、サポート魔術専門である。

 特に治癒と強化の才能がある男だ。

 こいつは作戦指揮を行う智将のポジションを任されているが衛生兵の役割が近い。


「お前ら、そういやそれなりだったんだよな」


 そうなのだ。こいつらはモブであるが、一応魔術が満足に使えない人間が多いこの世界では優秀なのだ。それに一応メガシュヴァでも天内の親友キャラであり、それなりに鍛えれば序盤で使えるキャラだった。



 さて、Dクラスの配役はこうだ。

 大将、俺。

 副将、マリア。

 猛将、クレア。

 智将、ガリノ。

 堅将、ニクブ。

 ちなみに、千秋は学園でも有数の実力者だが、クラスメイトは実力を知らないので1点プレイヤー。

 


 学校ではグルグル瓶底眼鏡の千秋が。

「今回、傑くんに土を付けた人を見つけ次第…………フフフ」

 千秋は見た事のない邪悪な笑みを浮かべた。


「そうですわね。はらわたを引きずり出して、そこに針でチクチクしましょう」


「いいですね! 私は手足をへし折って泣き叫ぶ顔にグツグツに煮た油を鼻から入れます」


「彩羽さん。それでは脳が沸騰して一瞬で死んでしまいますわ。まずは目玉をくり抜いて視界を奪ってからにします。その後は爪を一枚一枚剥がしますの。もちろん歯も一本一本抜きます。死の救済を与えてはいけません。生きている事を後悔させないと」


「なんと! 御見それしました。では、私は皮を剝がします。全身の皮をゆっくり剥がします」


「まぁ。まぁ。それは良いですわね。きっと汚い剥製が出来上がりますわ」


「でしょでしょ」


「ですが、彩羽さん。皮を剥ぐにしても絶命しないようにしませんとね」


「大丈夫です。足先から剥きますので」


「ならば大丈夫でしょうね」


 マリアと千秋は恐ろしい会話を繰り広げ意気投合していた。

 マフィアの拷問かよ。


「まぁまぁ。そんなに意気込まなくても……」

 俺はゾッとする気分をかき消すように、2人を落ち着ける。


「天内さんはクラス対抗戦を舐めてます。敗者には絶望を与えねば増長しますわ」


「そうだね。一度地獄を視なければ矯正できない者も居るんだよ」


「へ、へぇ……」


 俺の考えたクソみそ赤っ恥脱糞戦術などお子様戦法だったようだ。 

 恐ろしい危険思想の2人が目の前に居た。

 マフィアとか拷問官とか地獄の鬼のような発想である。

 俺には出来ない発想なのだ。


「俺はこの2人とパーティーなのかぁ~」

 なんだか……胃が痛くなってきたぞ。


 ・

 ・

 ・


 同学年同士のクラス対抗戦は半日掛けて行われる。

 1年生、2年生、3年生、4年生はそれぞれ日程が違う。

 本日は2年生の日だ。


 これは便利な仮想空間にて行われるので死ぬ事はない。

 クビを切り落とそうが、内臓を抉ろうが、ミンチにしようが……

 ねじじって、切って、投げつけて、押しつぶしても実際に死ぬ事はない。


 便利な空間なのだ。


 クラスの概要であるが、同学年のクラスはA~Fの6つのクラスがある。

 1クラス50名から成る6クラスによるバトルロイヤル。

 

 それぞれのクラスには転入生や落第生や退学生も居るが、それぞれのクラスの実数は50人で調整されている。Dクラスは今年度から俺と千秋が転入してきてるので、昨年度までに2名除籍された人間が居る事になる……その次席に俺が並んでいる訳だ。


「絶対に負ける訳にはいかない……」


 話を戻そう。


 クラス戦の順位の付け方はシンプルなポイント制。

 

 ポイントの割り振り方もシンプルだ。

 クラス戦ではクラス内で役割を事前に割り振り。


 クラス総大将。25点。

 総大将付きの副将。15点。

 遊撃専門の猛将。5点。

 作戦指揮の智将。5点。

 防衛専門の堅将。5点。

 それ以外の45名は1点である。


 初期に1クラス計100点の持ち点がある。

 自陣のクラスメイトが負ければポイントは減り、勝てばポイントが増える。

 半日。

 約12時間という制限時間内に獲得した総ポイントが高いクラスが勝者となる。

 ポイントが同点で競合する場合は、大将の一騎打ちで決めるPK戦みたいな事をする。

 ちなみに大将や副将、役職持ちは保有ポイントが高いので、基本的に実力者が選出されがちだ。



 敵対チームは、全クラスであるが。

 A、B、Cクラスは共同戦線を張って来る。

 こいつらは自分の事をエリートだと思っている正真正銘の馬鹿共である。

 四菱司が大将を務めるエリート思想の強いAクラスを筆頭に、四菱の取り巻きが大将を務めるBクラス。Cクラスである。

 Dクラスは俺達。

 獣人やエルフが多く在籍するEクラス。ここには間坂イノリが所属している。

 そして風音の居るメインキャラの集まるFクラス。

 



 さて。大将を務める者同士が選手宣誓を行わなくてはいけない時間になったようだ。


「時間みたいだ。行ってくるわ」

 俺はクラスメイトにそう告げると、ため息を吐きながら歩き出した。



 それぞれのクラスの大将諸君が顔を揃えた。



 Fクラスは風音が大将を務めるようだ。

「これはゲーム通りか……」 

 

 四菱が俺の顔を見ると、少し驚いた顔をしていた。

「なんだ。ゴミか……」

 肩をわざとぶつけられ、俺は仰け反り尻餅をついた。

 

「どうも。ゴミです」

 俺は頭を掻きながら間抜けな笑みを浮かべた。

 

「フンッ!」

 四菱は興味なさそうに俺に目をくれず、風音の方に歩み寄ると。

「俺に盾突くとどうなるかわかるよな?」


「僕は君を認めない。君たちを認める訳にはいかない」

 強い意志を持った目で四菱だけでなく、選民思想の強い連中を見渡し宣言していた。


「痛い目みないといいな。優男くん」


 取り巻き共も風音をせせら笑っていた。


 風音は尻餅をついた俺の方に歩み寄ると、手を差し伸ばした。

「大丈夫かい? あれ?……君はあの時の」


「久しぶりだね。どうも」

 俺は彼の手を取り微笑を蓄えた。

 ここでバッティングするのは想定内だ。


「君のような実力者が代表なんだね。納得だ」

 風音は俺を称えると少し目を細めた。


「買い被りすぎだな」


「そんな事ないさ。君の剣技は恐らく僕よりも上だと思うよ」


 ハハハと乾いた笑いを浮かべながら俺と風音は揃って壇上に歩を進めた。

 

 2年生6クラス。

 その中で選出された6人の代表生徒が小高い壇上に立つと、息を合わせて『公明正大に実力を証明する』みたいな事を宣誓した。

 選手宣誓が終わると。


「お互い頑張ろう」

 風音は俺に向かって手を差し伸べてきた。

 今度はライバルとしてらしい。

 俺はその手を取ると。

「悪いが今回は事情があってな。負ける気はサラサラない」

 俺は除籍される訳にはいかない。

 負ける気はない。

 口角をピクピクさせながら、澄んだ瞳でこちらをライバル認定してくれた主人公風音に俺は目を合わせ辛かった。


 ・

 ・

 ・


 俺は対抗戦前に『ちょっとトイレ』という言い訳をして、木陰に潜み虚空に言葉を投げかける。

「居るか?」


「「ここに」」


 2人の影がゆっくりと現れる。


「カッコウ。スパイ共の動きはどうだ?」


「順調かと。全クラスに待機しております。給水ポイントは全て掌握済です」


 俺は威厳たっぷりに。

「ふむ。補給を絶つのは定石。長期戦になればなるほど我々が有利になる。カジノはどうだ?」


「こちらの作戦も上々です。オッズが最も高いのはA。そして最も低いのは閣下のクラスになっております」


「よくやった」

 最近監修できていなかったが、俺達のクラスは何とか最高倍率になっていたようだ。

 カッコウが裏リーダーとして取り纏めてくれてるっぽい。

 仕事が一個減ってよかった~。

 後は頼んだぞ。

 

「閣下が昨日敢えて惨めな負け方を行って頂いたおかげですとも。あれほどの恥辱と屈辱を味わいながらも耐え忍んでくれた事が決定打になりました」


「へ。へぇ~」

 そんなつもりはなかったが、裏では色々あったようだ。一体何があったんだろう?


「閣下のクラスの倍率は200倍を超えています。勝機はないと捉えられているようです。閣下の作戦通り情報操作をした甲斐もありました」


「そうなんだね。ちなみに現在(いま)の賭け金ってトータル幾らぐらいなの?」


「現在も増え続けていると思いますが、我々の賭けた金銭を除くと。

 今朝の段階でプールされている額は……ザッと30億はくだらないかと」


「さ!?」

 俺は目ん玉飛び出そうになった。

 カジノの目玉という事もあり、恐ろしい集金をしているようだ。

 俺は驚愕を悟られぬよう。

 まるでわかっていたかのように。

「そ、そうか……全て想定内か」


「な。なんと!? 流石です。私自身もここまで巨額のマネーが動くとは思いもよりませんでした」


 俺もだけどね~。

「うむ。あれはどうだ?」

 "アレ"で伝わってくれ。俺は何も考えてないんだ。どこまで計画が動いてるんだ!?


「はい。全ての換金を終え次第、密告者を放つ予定です。

 既に全ての証拠も出揃えて準備しております。賭けに興じる阿呆共の弱みに漬け込む準備は既に……。恐怖という名の手綱を握れるよう下地もできています。情報収集も随時行っておりますとも」


「そ。そう」

 有能過ぎて笑った。

 俺が適当に考え付いた事を準備してくれているようだ。

 すげぇ。


 翡翠はカッコウが話し終えると。

「マスターのお考え通り山本を炙り出すのも並行しています。

 こちらも不審な動きをする者が数名確認できています。

 四菱とその取り巻きのスティーブン。その手下の者の行動が異質です。状況は刻々と推移してますが、妙な行動を起こし次第報告致します」


「そ、そう。ありがとう」

 山本案件って関係ないような気がするけど……まぁ真面目に動いて貰ってるようだから。

 ま。いっか。


「そろそろ行くよ。トイレが長すぎると怪しまれからね。んじゃ」


 俺は二人に別れの挨拶を告げ、Dクラスの陣営に舞い戻った。

 始まるぞ。クラス戦が。俺の進退を賭けた戦いがな。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公のキャラや立ち位置がとても好きです。 そして、更新も早く日々の楽しみです。 これからもいいねで応援しています。 [一言] TDRが何度も出てくるとついエレクトリカルがパレードのある…
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