メタ的お約束 と 夏イベのアレに向けての計画
陸上競技場が見渡せる回廊であった。
自販機が立ち並び、ベンチが至る所に併設されている。
そこでスポーツマンが汗を拭って休憩している姿がチラホラ見て取れた。
休日ということもあり、グラウンドにはフィールド競技に精を出す学園生諸君。
走高跳、走幅跳、砲丸投など様々な競技の練習をせっせとしていた。
背後にある巨大な部活棟からは吹奏楽部のラッパの音が鳴り響く。
いかにも学校の日常風景であった。
そんな開けた空間で俺とカッコウと翡翠はイチ学園生のように振舞っていた。
「以上になります」
カッコウと翡翠は俺に調査報告書読み上げた。
「そうか……ありがとう。昨日はすまなかったね。約束を破ってしまって」
「構いませんとも」
「昨夜はケダモノの撃破をしていたとは見事ととしか言いようがありません」
「お、おう」
二人とも特に気にしてないようだ。
よかった~。
俺がどうしようもない嘘つき野郎にならなくて。
「じゃあ。今日は解散ね。今日は休暇で」
心苦しさを隠しそう告げる。
「承知しました」
「かしこまりました」
カッコウと翡翠はお互い『今日の仕事終わりか』と、顔をするとお互い顔を見つめ微笑んでいた。
「じゃあ。またなんかあったら頼むね。引き続き山本は探しておいてね」
「「 ハッ! 」」
「じゃあ。これ。調査費とお給料ね」
俺は懐から二つの封筒を取り出し二人に手渡そうとすると。
「そ、そんな。結構です」
「カッコウ殿の言う通りです」
2人は畏まったようにそれを受取ろうとしなかった。
「いや。いいんだ。俺はブラック経営者じゃない。こういうのはしっかりしとかないと俺の教義に反する。これはほんの気持ちだ」
俺の仲間でもあるからこんなモノを渡しても意味はないのは重々承知だ。
だが、金銭は大事だ。
これからもこの2人に雑務を任す事になるし金も掛かるだろう。
これは俺のエゴなのだ。
てか、ほとんど俺の働いて得た金じゃないし……
「いや、しかし」
「美味しいモノでも食べてくるといい。俺の奢りだと思って受け取っておいてくれ」
俺は無理矢理二人の手に封筒を握らせた。
「は、はぁ……」
「カッコウ殿。マスターのご厚意を受け止めましょう」
「そ、そうですね」
2人は渋々納得してくれたようだ。
俺は二人に解散を言い渡すと、2人を見送りながら自販機でコーヒーを買った。
「翡翠さん。この後……お茶でも」
カッコウが挙動不審になりながらそんな提案をしているのが聴こえた。
「カッコウ殿。それは良い提案です」
「良し!」
カッコウは拳を握りしめていた。
「全く。面白い方だ」
翡翠がカッコウを見つめ微笑を蓄えている横顔が見えた。
「あの2人……妙に仲良くなったな。職場環境が良くて俺は嬉しいよ」
2人して笑顔で談笑する後ろ姿を見ながら俺は1人考える。
「それはさておき……魔眼の使い手」
貧者は、数か月前から行方不明。ロックスミスでは長期休暇に入ってるとの事。
もう一人の魔眼保有者の墓標は確認できた。死亡も確認した。死体は既にこの世にない。
つまり既に故人だ。
「では、あの千里眼は貧者の仕業か……」
そういう事になる。貧者の所在は実質不明だ。
これ以上調査しても同じ結果だろう。
俺の秘密部隊は数が少ない。資金にも限界がある。
謎は深まるが、一旦調査は保留だ。
「不審者ムーヴメン。もう一度接触する必要があるな」
俺は人心地を付きコーヒーを啜った。
学園生の青春を眺めながら、この後の予定を脳内で組み立てていた。
ヤラセ動画を送った後、散々電話やらメールやらが飛んできた。
端的に言うと怒られたのだ。
やれやれ俺、である。
俺は俺自身に呆れ返ってしまった。
俺はもう自分がクソ馬鹿なんじゃないかと薄々気づいている。
もうホントにクラス対抗戦まで時間がない。
今週行われるのだ。
このクラス対抗戦では勝たねばならん。
「モリドールさんのクビを取り消す。そして俺の除籍ルート回避だ」
クラス対抗戦の後は、全マホロ学園生を交えた中間考査戦。
これが終われば夏休みだ。
早く夏休みに入ってアレを入手せねば。
アレを入手し速攻で仕事を片付けていく。
そしてこの世界でも随一の実力者に一気に躍り出る事になるだろう。
俺は計画というかメタについて考えていた。
「ゲームメガシュヴァでは1学期が修行とヒロインとの出会いが主になる。
夏休みはゲームメガシュヴァではお色気イベかお気楽イベントしか発生しない。
つまり箸休め回だ」
よくあるだろ。
大体のアニメや映画や小説なんかは、厳しい季節、冬とかに強敵が現れがちなのだ。
てか、ラスボス戦は冬以降にしかない。
夏にも出現する作品もあるが、メガシュヴァは違う。
服装の問題もあり冬とか秋の終わりにかけての方がバトルイベが多い傾向にある。
特に服装。これが肝だと思う。
長袖とか着込んだ服装の方がかっこいいのだ。
その為、夏にバトルイベは殆どない。
あるにはあるが、もうほんのお約束程度しかない。
夏場に半袖で戦う戦闘シーンはあんまり映えないんだもの。
これは製作者の都合である。
あるよ? 夏場メインの作品も。
ループモノとか、青春モノとか恋愛モノは夏場が映えると、俺も思う。
積乱雲とか夏の雨空で感情の機微を表現するシーンとかも作りやすい。
夏祭りとか海とか浴衣や水着イベントの宝庫だ。
夏の明るい雰囲気と対比して物語の不穏さの明暗を描きやすいし、不気味に出来る演出も考慮されている。
暗喩として夏は優秀である。
それにそもそも、恋愛イベントや青春イベント云々は主人公の特権だ。
「戦闘シーンは、雪原とか枯れた木々とかが背景の方が絶望感が増すし、狙いすましたようにクリスマスに爆破事件が起こったりする」
そういうお約束なのだ。
目に見えないお約束があるのだ。
季節と天候でストーリーの不穏な予兆とか、ヒロインの気持ちとかを表現をしがちなのだ。
心底思うのは『勘弁してくれよ』である。
そして厳しい冬を乗り越え、エピローグで春になりハッピーエンドみたいな感じになりがち。
ゲームメガシュヴァも例に漏れない。
お約束ゲームなのだ。冬が最終戦になる。
ボス共もこのタイミングでこぞって出てくる。
まぁ。何が言いたいかと言うと。
夏は俺の取れる事実上最後の自由時間だという事。
「夏に俺は進化する。修行の旅に出る」
まさに"俺より強い奴に会いに行く"である。
メガシュヴァ時空の敵は空気を読んで夏に出現しない。
俺はモブなのでお色気イベも青春イベもお気楽イベも発生しない。
このタイミングで本格的に鍛える事が出来る。
ゲームメガシュヴァにあった全ての夏イベを回収する。
アドを取りまくる。
夏イベントはレアアイテムや特殊な能力を手に入れる事が出来る。
そしてアレ……
この世界では神のみぞ知るコラボイベント。
孫子も言うではないか、『天を知り地を知れば勝乃ち窮まらず』とな。
俺はコラボイベントの力を必ず回収する。
ゲームメガシュヴァ世界観の理外にある異能というか、アーツというかスキルというか武器というか。
それら全てに該当しない力。
【彗星機構】、【オルバースのパラドックス】、【チェレンコフ光】、これらを全て手に入れる。
そんな計画を皮算用してみた。
パーティメンバー作りなど色々あったが、まだ1学期の折り返しだ。
全然進んでないのだ。
メガシュヴァストーリーは全く進んでいないのだ。
夏までストーリーは基本的緩やかに進んでいくのがメガシュヴァである。
「まだ。大丈夫。焦るような時間じゃあない。とりあえず今日はマリアさんのご機嫌から取る事にしようか」
俺は最近のあれやこれやがあり、自分自身を落ち着ける為に自分に言い聞かせた。
本日午後からマリアを育成する手筈になっている。
昨日俺のヤラセ映像を送った後、マリアから鬼電されて懇願された。
ダンジョンに2人して潜るのだ。
「小町と千秋とも仲良く出来てない可能性があるしな。
本当は小町も連れて、同時に育成した方が効率は良さそうだが。
近接系と遠距離系では育成方法がやや異なる。
仕方ない。パーティーとしてのコンビネーションはこれから考えて行こう」
マリアはゲームのストーリーでは、気丈で、傲慢、プライドが高く暗い影を落としているキャラだった。キツイ性格をしている上にストーリーの最後には死ぬというバッドエンディングが約束されていた。そのせいでメガシュヴァユーザーから人気もなかった。
「未来改変でやや性格がおかしくなった気がするんだが」
少しというか、言動がかなりおかしくなった気もするが……
「気を取り直そう」
昨日の事もあり、気は進まないがマリアとの約束も反故にしたら、俺の居場所はなくなってしまう。
「頑張れ俺」
自分を鼓舞してみる。最近俺は俺を鼓舞する事が多くなった。正直、精神的に末期なのかもしれない。
気を取り直そう。
間もなく秒針が頂点を刺そうとしていた。
「時間の許す限り地獄の周回を行うか……」
マリアのレベルを今日一日で上げれるだけ上げよう。
「なんか忘れている気もするが……まぁいいや」
ストーリー進行度。
ドラゴンボールで例えると彩羽撃破までがピッコロ大魔王編終了ぐらいです。
70話以上やって全然進んでないです。
どうしよう……




