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蝕の操糸術師



『この映像を観ているという事は、俺は既にこの世に居ないだろう……』


 俺はひどく焦ったように、辺りをキョロキョロと警戒しながら早足で歩く。


『ハァ……ハァ……。あまり……時間がない。

 なので、簡潔に話をしたいと思う。この映像は、俺の生きた証になるだろう。

 もし、この映像を観ている者が居るなら俺がこの世に……。

 いやいい、やっぱやめとく。

 ただ一言、言える事があるなら。俺は今、生を噛みしめてる。

 人の命……人生っていうのは……なぜ、こうも、いとも容易く、儚く綺麗なんだ。

 クッソ! 生きてぇな』


 俺は額の汗を拭い、わざとらしくケダモノが抉った木を映るように、悲惨な戦いの現場を見せびらかした。


『俺はこれから、死地に向かう。

 逃れられぬ宿命だ。俺の招いた……因果だ。

 もし、非があるなら……それは俺の浅はかな行動から起こした馬鹿な行動からだろう。

 その因果に決着をつけに行く。

 この映像データを見てる賢明な諸君が居るならば。

 もし、俺が失踪したのなら……この謎を解くことを切に願う』

 


「カーット!! あ。もうオッケーで~す」

 俺はカメラマンに撮影を止めてもらうよう頼んだ。


「なんしこれ?」

 

「ツッこまないで下さい。俺も何をやってるのかよくわかんないんで」


 混乱していると自分でも何をやっているのかよくわからなくなる。

 突発的犯行ならぬ、突発的奇行を起こしてしまいがちなのだ。

 

 俺はまつり先輩からスマホを受け取ると、アプリを使って適当に今の映像を編集した。

「まず画面全体をセピア調にして、所々砂嵐を入れよう。う~ん。ちょっとだけ嵐の演出も入れとくか」


 ガチャガチャと適当に映像を切り抜いてヤラせ演出を加えた所で。

「よし。編集したし。送信! 送信! 送信!」

 俺はスマホを宙空に向けて俺のパーティーメンバーにヤラセ映像を送った。


 ・

 ・

 ・


 まつりは、俺のジャケットをスカートのように腰に巻き、元から着ていたボロボロの衣服を無理矢理結び付け胸元を隠していた。

 さながらファッションショーで披露される奇抜な服装のようであった。


「とりま、これ。お礼ね」

 まつりのカラフルにネイルされた手が俺の手に何かを握らせた。


「なんすか? これ」

 なにやら柔らかく温かい何かだ。

 俺が処した秘密の部屋のケダモノの体液である酸でまつりの衣服は溶けたのだ。

 俺のせいでもあるのだが。

 まつりいわく『パイセンには適当に今の事報告しとけば多分これで帰れるっしょ。グッジョブ!』と、サムズアップ付きの謎の称賛を受けた。

 そんなまつりに俺は服を貸した訳なのだが、引き換えに謎のアイテムをお礼に頂いたのだ。


「ちょい待ち」

 手のひらを開こうとすると、まつりに止められた。

「あまっちさぁ~。今度あーしの仕事手伝ってよ」

 

 何かさせられそうだ。まずったか。 

 遅かれ早かれ知られると思い俺が学園生であると、まつりに告げたのだ。

 因みに『あまっち』とは俺の事だ。

 すぐるという下の名を名乗ると『すぐるって何それ!? ウケる』って笑われた。

 何がウケるのかわからないが、全国のスグルさんに謝ってくれ。

 

「え、嫌ですよ」


「お願いだって。ご褒美はあるよん」


「???」


「あーしはこれから帰るけど。よ~く考えてね。とりあえず最初はこれね」

 まつりは俺の握られた手を指差した。


「は……はぁ?」

 曖昧な返答を返してみた。


「あーしを手伝ってくれたら……あまっちの望みのままよ。コレクション解放しちゃうよん」

 小悪魔みたいに舌を出し、宿舎の方へ踵を返した。

「んじゃ~ね。あまっち。ま~た会いに来るよん」

 

 や、やばいぞ。俺は何をさせられるんだ。

 生徒会メンバーの一人になぜかわからないが気に入られてしまった。

 生徒会庶務とかいう雑務全般を任される、森守まつりは実力者だがサボり魔である。

 優秀なのだがキャピキャピしすぎてるのだ。

 

 そんな彼女の背中を見つめていると、俺は手の中にある何かを確認する事にした。


「こ、これは……」


 絶句した。言葉を失った。

 一言も発する事が出来なかった。

 息を飲んだのだ。


 俺の眼球は手の中に握られたお礼なるモノを高速で二度見をした。

 

 二度見して手が震えた。

 言葉を詰まらせた。

 カラカラに喉が渇くのを感じるとようやく唾液を飲み込み喉を鳴らした。


 千里眼の術者は発見できなかった。

 これはまぁ術者を確認しに行くぐらいの軽い気持ちだったので良しとしよう。何も情報を手に入れられなかったのは悔しい部分もあるが、仕方ない。

 切り替えて行こう。

 

 重要なのはこっちだ。

 俺は親睦会にも間に合わなかった。

 俺はパーティー内で孤独な迷える羊になるだろうが、千秋に俺のパーティーを引き合わせる事ができた。

 及第点だろう。

 マリアにも小町にも千秋にも献身的に接していけば俺の好感度はほんの少し上昇するはずだ。

 『女性がされたら嬉しい事』を調べて丁寧に実践していくしかない。

 

 成果としてはマニアクスの1人が既に攻略済みであるという点。

 強者であろうとも倒せてしまう初見殺しのケダモノ百々目鬼(どどめき)の撃破ぐらいだろう。


 いくつか謎は残るし、懸念事項は増えたが敵が1人減っている事は素直に喜ぶべきだ。


 そして今さっき、俺は形に残る成果を手に入れてしまった。

 それだけで俺の心は満たされた。

 なんだか……なんていうのかな。

 とても心の中に熱い闘志のようなものが蘇った気がした。


 ゆっくりと乾いた唇を開き。

「お宝を手に入れてしまった。こ、これは……財布の中に大切にしまっておこう」

 俺は凄いものを手に入れてしまった。


 俺はまつりからお宝を頂いたのだ。


 ギャルの生パンティー。

 ヒョウ柄の艶々した素材。

 ほんのり()()()がしそうなお宝。

 収穫したてのパンティーである。


「あざっした!」

 俺は深々と頭を下げてまつり先輩の背中を見送った。


 ・

 ・

 ・


/3人称視点/


 ジュード・イライザーは国際連盟アークス()の諜報員である。

 アークスが創設し、一部の者しか存在を知らない非合法組織。

 【(イクリプス)】。

 その諜報員である。

 マニアクスと呼ばれるこの世界を破滅に導こうとする魔人を追うこの世界の守り手の1人である。



 (イクリプス)はその殆どが謎に包まれており、ジュード自身も同じ諜報部のメンバーは、誰が所属して、何人いるのか情報共有されていない。

 ジュードが唯一知る(イクリプス)の情報は、彼以外に2人諜報員がこの学園に潜り込んでいるとしか聞いていないのだ。



 そんな彼は世界の中心たるマホロに潜入し、マニアクスの調査を行っていた。

 そして本日、天空に大きく映し出された目に見える手がかりをの当たりにしたのだ。

 

 大規模魔法千里眼。

 

 文献や調査によると何らかを索敵する魔法とジュードは推測を立てていた。

 


 任務として調査を放り出す訳にはいけなかった。

 それに彼には放り出す訳には行かない理由が個人的にもあった。

 ジュードが幼少の頃、戦場で見たあの魔法陣を見間違えるはずはなかったからだ。



 マグノリア危機、亡国聖マグノリア国にてかつて起きた悲劇。

 不可思議なまでに仕組まれた惨劇。殲滅戦に切り替える対応が早すぎた連合国軍。

 消えた王族達。様々な謎や陰謀が噂される事件。

 その際に確認された魔術の一つが千里眼であり、ジュードが戦禍で垣間見た魔法であった。


 

 彼は後輩であり()()()()()実力者たる後輩を引き連れ、それぞれに学園の調査を頼んでいた。

 ジュードは彼女達に不審な者を見かけたら連絡を寄越すよう言い渡している。


「彼らは精鋭騎士より強い」

 

 国家に仕える精鋭騎士より遥かに強い越智(えち)森守(もりす)

 よっぽどの事がない限り問題ないだろうと考えていた。


(越智はアークス連盟国家ヒノモト国軍名家出身。森守の見た目はアレだが、実力は折り紙付き)


 ジュードは情に厚い人間だが合理的な非情さも持ち合わせている。

 手段の為なら後輩や部下の命が危険になろうともいとわない。

 彼にとってマニアクスの打倒こそが任務であり個人的な悲願であるからだ。

 

 ジュードは学園の地下用水路に目星を付け、危険は承知の上で千里眼の術者が狙っているモノの調査をしている時だった。


「どちら様かな?」


 目の前に真っ黒なフードを被り漆黒の面を付けた異様な存在。

 その両手には短剣を携えており、その先端から血が滴っていた。

 漆黒の面の者の足元には重火器を持った男女の亡骸があった。


(ロックスミスの殺し屋か……ではこの者は?)

「テロリスト共の残党狩りをしてくれていたのかな。君は味方かそれとも」

(敵か……)


 ジュードは指輪に魔力を込め、リング状のリールに仕込んだ糸を音もなく垂らした。


 ジュードの武器は両手十指に嵌められた指輪に仕込まれた糸。

 武器術:操糸の使い手。

 糸に魔力を込め、ジュードは臨戦態勢を取る。


 仮面の者がこちらを振り向き赤い瞳と虹色の瞳が光ったかと思うと。


 ジュードの眼前に先程まで仮面の者が持っていた短剣が迫っていた。

F(エフ)!」

 ジュードは指を鳴らし蜘蛛の糸に絡まる獲物のように短剣の動きを止め、同時に仮面の者に糸による斬撃を放ったのであった。

「どうやらこっちが当たりのようだね」

 

 ジュードは今目の前に居る者が異常な存在だと認識した。


「何者だ?」


 仮面の者はクツクツと嗤い大仰に手を叩いた。

 ノイズの入った声で。

「お前も百々目鬼狙いのようだな。私は、」





ケダモノと天内との戦闘,3000字ぐらい書いたんですけど、わかりきった結果を書くのは冗長だと思い大幅カットしました。

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