主催者不在の親睦会
/三人称視点/
カフェ米田コーフィー。
商業区にある飲食チェーン店である。
マリア、小町、千秋の3人は4人掛けの席に着座していた。
主催者不在の親睦会? が開かれていたのだ。
場を支配しているのは何とも気まずい雰囲気。
着座した3人はお互い喋る事が見当たらないのか、沈黙の支配率は8割を超えていた。
「さっきの魔法凄かったねぇ」
「だなぁ。俺も初めてあんな大規模なの見た。ここはやっぱ凄いな。SNSによると新しい製品の宣伝らしいぜ」
「えぇマジで」
「ほら。ネットニュースでも出てる」
「マジじゃん!? たまたま観光に来て見れるとかチョーラッキーじゃん」
後ろの席に座るカップルらしき男女が、先ほど天に展開された大規模魔法についての感想を述べていた。
辺りのテーブルでは、カップルと同じく魔法の話題をする観光客がチラホラ垣間見えた。
他愛のない会話に花を咲かせているグループ。
それとは対照的にマリアも小町も千秋も全員その話題には一切触れなかった。
このテーブルのメンツはお互い視線を合わせず。
外の風景を見ていたり。
携帯をチェックしたり。
紅茶の替えを頼んだり。
それぞれチグハグな行動を取っていた。
まるでお通夜である。
先ほど天空に展開された魔法は、広告の一環であると遊園地のアナウンスで発表された。
マホロ生である彼女らもあれほど大規模なモノは初めて見たのであった。
勿論、触れていたのだ。
あの大規模な天空に投影された魔法の話題に。
彼女達は既にその話題を1時間ほど前に終えていたのであった。
そしてなくなったのだ。
本題以外の話題が。
オホンと一度咳払いすると。
「あの、もう一度お名前を訊いても」
沈黙を破るように小町は千秋に問いかけた。
「え、ああ。そうだね。え~っと。私は、」
彩羽千秋は、自分の素性を下級生である穂村小町に再度自己紹介したのであった。
「何度もすみません。天内先輩の捨て台詞の意味がよくわからんなくて。えっと副リーダーってどういう意味なんですか?」
(彩羽先輩はどうやらパーティーメンバーのようなのだ。副リーダーとはどういう意味なのか)
「そんなのわからないよ。それよりもキミは傑……じゃない。天内くんのパーティメンバーなの?」
「ええ。そうですけど。マリア先輩もそうですよね?」
「そのはずですが……」
マリアはガタガタとティ―カップを机の上に置いた。
「私もそうなんだけど。つい最近勧誘されたんだけどね。しつこく」
『しつこく』を強調して千秋はため息を吐いて肩を落とした。
「私もしつこく勧誘……されましたが……穂村さんは違います」
マリアは口元をピクピクしながら大嘘を吐く。
些細な言葉によるマウントの取り合いが行われていた。
同時に、誰一人天内の恋人でもないのに、まるで浮気男を待つ被害者のように険悪な雰囲気に似た空気が漂っていた。
「ヌッ……まぁ。そうですが」
(今煽られているような気もするが。落ち着いて私。
まず状況を確認しよう。
マリア先輩は超が付く美人だ。彩羽先輩も超が付く美少女である。
天内先輩はソコソコ見れる顔であるが、そんな男はごまんといる。
なのになぜこんな美人と美少女を仲間に加えられたんだ?
あの人は謎の多い人だ。トムなんて不審者をやってたぐらいだし。
剣聖と見紛うほどの剣術の才を持った人だ。
にしてもだ。
流石にここまで美人と美少女を仲間に引き入れてるなんて信じられない。
だって結構終わってる性格なのに)
「それにしても遅いですわね。何をなさってるんでしょう?」
マリアは店内の中心に掛けられている時計に目をやると、既に20時は過ぎており間もなく21時になろうとしていた。
(遅すぎますわ。今すぐ訊きたい事が沢山あるのに。一体どれだけ御手洗が混んでるんですの? まさか。また違う女性と!? あ、ありえますわ。あそこまでの御仁。知らぬ所で様々な女性と……)
「そうですね。逃げたんでは?」
(先輩は都合が悪くなるとすぐギャンブル行ったり、散財してたり、かなり特殊な性癖のエッチな本を買い込んでたりする。万札をあくどい顔でニヤケながら数えているのをよく見かけた)
「まさかぁ~」
(そ、そんな訳ないよね。傑くん。あの言葉の続きを聞かせてよ。ボクの答えは『喜んで』に決めてたんだ。少しさっきの発言はかなり引いたけど……でも、仲良くなるってそういう事だよね)
「「「 …… 」」」
沈黙である。
「それよりも、彩羽さん。貴方は今日天内さんと何をなさってたんですか?」
(そうです。そもそも彩羽さんは天内さんと何をしていたんですの)
「う~ん。デートじゃない?」
(うん。これは間違いなく告白される流れだった。デートじゃなかったらなんだと言うのだろう)
千秋は頬を赤らめさせて少し俯いた。
「そんな訳ないでしょ!?」
激高しながら席を立ちあがったのはマリアであった。
「ど、どうしたのマリアさん」
千秋は突然激高され反射で体を縮め防御態勢を密かにとった。
「ちょっと。マリア先輩。落ち着いて下さい」
小町はフー、フーっと息を切らせる彼女に着座を促す。
マリアは胸を押え顔から血の気が引くと、頭を振るい着席した。
「え。ええ。少し予想外の言葉が飛んできたモノで」
(デートですって!? 一番聞きたくない言葉が。
彩羽さんと天内さんやはり付き合っている!?
ウッ!? 心にダメージが。気を取り直してマリア。
仮にお手紙の内容が伝わってないとしてもよ。
まだまだチャンスはあるはず。
私は多分美少女のはず……未来のお嫁さんの座を逃す気はない!)
「そ、そうですか……」
(普通に予想できたと思うけどなぁ。
マリア先輩凄い取り乱してるし。
マリア先輩が天内先輩に対して好意を抱いてるのは薄々わかってはいた。
天内先輩に女っ気なんてない気がしてたけど……最近驚かされてばかりだ。
でも実際に彩羽先輩とデートしてたし。
傍から見てデートだった。遊園地で楽しくお昼を摂ってアトラクションに乗る。
そして、なんだか雰囲気が良くなり、天内先輩が告白しそうな流れだった。
なぜかわからないが、させてはいけないと思い割って入ってしまった。
いや、私はあんな天内先輩が誰と付き合おうがいいけど……
にしても一旦この話題を逸らさねば。マリア先輩が今にも噴火しそうだ)
「にしても、天内先輩はホントに何してるんでしょうね~」
小町は何とか場の流れを変える為に気を揉んだ。
「だねぇ~」
千秋は小町と通じ合ったのか無理矢理話を脱線させた。
結局その後、3人の前に天内傑が現れる事はなく親睦会? はお開きとなった。
後日、オノゴロの水道が一時的に使用不能になり一部下水区画が崩落したとニュースになったのであった。




