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三郎ラーメン……は奢れそうにない③ 多忙なる男のスケジュール管理術(失敗)


 『失敗しないスケジュール管理術』

 

 『仕事の見える化。超タスク管理!』

 

 『仕事を爆速に終わらせる! 失敗しない10の掟』

 

 『睡眠の質が仕事の質!』

 

 『仕事の優先度は手帳で管理せよ』

 

 『脳科学者に訊いた。脳に良い仕事法』

 

 『面倒な事はプログラムにやらせよう』

 

 書店に並べられた仕事術指南本の山。


「うるせぇ!」

 俺は1人書店にて、ツッコみを入れた。

 精神論と当たり前の事しか書いてないコピペ本共め。

 中身を確認するまでもない。

「クッソ。納期が間に合わねぇ……」

 俺は書店の隅で項垂れた。

 

 という、記憶が走馬灯のように駆け巡っていた。 


「どうしたの? 傑くん。ボーっとして」

 心配そうな顔をする千秋の顔が目の前にあった。


「いや、なんでもない。少しスケジュール管理を脳内でおこなっていた」


「は?」


 広範囲固有(ユニーク)魔術。

 瞳術"千里眼"は30秒ほど展開された後に、突然掻き消えた。

 あの魔術……

 行かねば。一体何が起こっている?

 知らねぇぞ。こんな序盤であの技が展開されるなんて。 

 確認しに行く必要がある。


「すまん。ちょっとトイレ行ってくる」


「う、うん。どうぞ」

 千秋は呆気に取られながらも俺にトイレを促す。


 違う。そうじゃない。

 まだ足らんか。


「お前がゴスロリ衣装を着て深夜にチンピラをシバいてる。

 ちょっとヤバいストレス発散の趣味。それについて訊きたかったが……」


「え? チョ。なんでそれを!?」


「俺のお花畑タイムは、もしかしたら死ぬほど長いかもしれん。

 突然腹痛に襲われた。ウッ腹が!?

 一週間溜まったアレが直腸の手前まで忍び寄っている。

 もしかしたらトイレの中で一夜を過ごすかもしれん。

 先に帰っていて……くれ……」


 ―――迫真―――

 鬼気迫る演技。俺は脂汗を流し、顔を青ざめさせる演技を披露した。

 助演男優賞モノである。レッドカーペットを歩く未来ビジョンが視えた。

 

「とりあえず大丈夫なの? 顔色悪いよ。待ってるよ」


 しめしめ。俺の演技は完璧だ。クソが漏れそうな男の演技。完璧だぜ。

「大丈夫じゃない。俺はVIP専用のトイレに行ったと思ってくれていい。トイレの中にベッドが備え付けられてるVIPトイレ」


 千秋は顔をしかめた。

「ベッドのある部屋に備え付けられてる……トイレじゃなくて?」

 彼女は普通の疑問を口にする。


 あ、逆だった。もういいや。


「もう爆発しそうだ。長い死闘になる。すまんな。クッソ!? 腹が! もうダメだ!!」

 俺は嘘八百を並べた。豪快に嘘を吐いた。


「え、ちょっと……。一緒に連いてくよ」

 心配そうな顔をした千秋が俺に連いてこようとしていた。

 

「待て!」


「う、うん? でも、明らかにおかしくなって」


「トイレに連いてくるのはおかしい」


 彼女は強いが、一緒に来るとマズイ事態になりそうな。そんな嫌な予感がする。

 そもそも今の彼女は装備を持ってきてないはず。 

 だからここに置いていく。

 俺が夏イベの()()を入手し強化されるまでは……

 パーティメンバーを守り切る事ができない。


「男のお花畑デーは秘密の時間なのだ。

 つーか。女子にも女の子の日があるだろ?

 男にもあるんだ。男の子の日が。

 今さっき気づいたんだけど。

 俺。今日男の子の日だったわ。ロナロナでさっき確認したんだわ…………」


 千秋のポカンとした、それでいてドン引きした顔がそこにはあった。


「あ……」


 あれ。ヤバいぞ。

 我ながらキモすぎる発言だったと少し後悔した。男の子の日ってなんだよ。死ねよ俺。

 自分のデリカシーのなさに辟易した。

 俺はちょっぴり背中に汗をじんわりと掻いた。

 失言を振り払うかのように。

「じゃあ。そういう事で。悪いな……お腹が……三郎ラーメンは……奢れそうにないらしい」


「え。待ってるよ! ここで! さっきの言葉の続き聞きたいし!」 

 

「御免!」

 俺は一言だけ謝罪を残し、千秋を置いて走り出そうとした瞬間。


「あ、先輩!?」


「天内さんッ」


 行く手を阻む2人が現れているのだ。


「グゲ!?」

 マリアと小町。なぜここに居る!?

 お前らは仲良く修行中のはず。


「マリア先輩! 逃がしちゃ駄目ですよ。

 このゴミ……間違った。カス……あ、間違った。

 天内ゴミカス先輩が逃げようとしています!」

 

 天内ゴミカスって誰だよ。

 小町は俺に影響されすぎて最近口が悪くなってきてるんだよな。


「あらあら。天内さん。そんなに急いでどうなさったんですか?」


「ちょっと……トイレ」


「まぁ。それでは待っていましょう。彩羽さんとのご関係も訊きたい事ですし」

 キッと一度冷たい目線を千秋に向ける。


「ヒェッ!?」

 千秋はギョッとしたようだ。


「天内さん。私は悲しいのです。私の指南の約束。

 私は天内さんに直接指南して頂きたいのです。

 穂村さんと一緒にグラウンド100周。腕立て1万回。反復横跳び1万回。

 ……あれはなんなのですか!? 約束が違うじゃないですか。私と2人でダンジョンに潜って手取り足取り教えてくれるって約束したじゃないですか!? なのになぜ私に構ってくれないのですか!?」

 マリアはその場で地団駄を踏んだ。



 そんな公約(マニュフェスト)を俺は掲げていないが。

 そもそも、俺に指南云々の件。

 俺のあずかり知らぬ間にキミらが勝手に決めた事だよね。

 俺は省かれているのだ。

 俺は真面目にマリアも小町も基礎トレーニングをさせて鍛えてるつもりだ。

 それにだ。マリアさんよ。棚上げな気もするんだよ。

 以前、小町に『指南された事をなぜしないのか?』みたいな事言ってなかったけ? キミ。

 なぜ怒り出すんだよ。


「天内先輩は遊んでるだけじゃないですか! 仲間なんだから足並み揃えましょうよ! 私の事ずっとほったらかしじゃないですか」

 小町が追撃を加え始めた。


「ちょっと!? 傑くん。なんでマリアさんが。それに……指南? 手取り足取り???」

 千秋はマリアと小町を見て、言葉を詰まらせると質問を投げかけようとしていた。


 ややこしい事になってきたぞ。

 3人に囲まれて俺は今窮地に立たされていた。

 混乱しそうだ。一旦冷静に。クールになろう。

 俺は聖徳太子じゃないんだぞ。

 

「タイム!」


 俺はサッカー代表(セレソン)の監督の如く、両手で『 T 』の字を作った。

 ちょっと待ってくれ。


「質問には全く答えてませんが……許しましょう!」

 小町が審判のように、俺を見つめたまま宣言した。


「感謝する審判」

 思考を高速で早めた。

 

 俺を見据える視線。まず、マリア。不服そうな目だ。

 次。小町。こいつはいつも釣り目だ。最近俺に対して当たりが雑なのだ。ゴミを見る目線だ。

 最後に千秋。困惑半分。さっきの失言から引きつった顔半分。俺とマリアと小町を交互に見て混乱する目。

 

 このままここで俺が逃げ出せば、次に彼らに会う際、非常に気まずい感じになる。

 気まずすぎて、俺は幽霊パーティメンバーになりかねない。

 ここで逃げてはダメだ。千里眼の調査を行い、もう一度彼女達の前に現れ………

 

 その時。俺の脳に電流が走った。

 青天の霹靂であった。


 ――― 親睦会 ―――


 俺は口元を手で覆い。

「か、完璧だ……親睦会……」


 その手があったか!? 天才すぎて脱帽した。

 今思いついた。このまま親睦会にしてしまえばいいのだ。

 可能なのか? いや。やる。今日中に出来る限りのタスクを調整するしかない。


「わかった。1時間………いや2時間以内でお花畑から戻って来る。約束しよう」

 リスケした。reスケジュールした。


「傑くん。何の話をしてるの???」


「天内さん。お花畑に行くんですの? お手洗いでは?」


「マリア先輩。お花畑っていうのはですね、…」

 小町はマリアに耳打ちすると、みるみる顔を赤らめていくマリア。


 俺はオホンと咳払いするとオタク特有の早口で。

「皆さん。聞いてください。皆さんは僕のパーティーメンバーです。

 彩羽千秋くん。貴方を我がパーティメンバーの副リーダーに抜擢しようと思います。

 皆さん僕がお花畑に行ってる間、仲良くしていて下さい。

 20時、商業区にあるカフェ米田(ベイダー)コーフィーで会いましょう」


「どういう事なんですの?」

「先輩……え? 何を言ってるの?」

「傑くん。パーティメンバー? 誰と誰が」


「はい。お金」

 俺は懐から3万円を取り出すと小町の手に無理やり万札を握らせた。

「親睦会なので。皆さんご歓談をお楽しみください。では!」


 全員の呆れた顔が見えた気がした。いや、見なかった事にした。



 ――――俺は超高速(タキオンコンボ)の世界に入門した。


 ・

 ・

 ・


 後ろ髪を引かれる思いではあったが俺は歩を進めた。


 賑わう人込みを縫って走る。

 先ほどの広範囲魔術を見た者達は興奮しているようだ。

 マリアも小町も千秋もそれほど疑問に思っていなかった。

 あの2人は俺の事をコソコソ連いてきたようだし、見てないのかもしれない。

 見てたとしてもアトラクションか祭りの合図だと勘違いしているっぽい。

 

「違う……」


 あれは超広範囲で地形を鳥瞰する魔法。戦略級の固有魔法。

 

 プレイアブルキャラ。メガシュヴァではガチャさえ引けば敵キャラ(マニアクスサイド)も使用できた。無論ボスキャラであるマニアクス(役割:魔王)さえも。

 マニアクスは戦闘には加えられなかったが、サポート要員として非常に限定的であるが使用できた。

 敵キャラはゲームでよくある味方にすると弱くなる弱体化補正(ナーフ)おこなわれていたが、使う事ができたのだ。


 しかもストーリーの整合性の有無に関わらずだ。

 

 それは虚像ゲーム、所詮お遊び……だからだ。

 だが、この世界は違う。

 この世界は紛れもないリアルだ。

 敵は敵だし、ガチャが引けない以上簡単に仲間など増やせない。


 敵キャラしか持っていなかった固有能力。

 

 ゲームにおいては主に広範囲のパーティ戦。

 索敵を行う際に使用された"千里眼"。

 キャラクターのパラメーターやアイテムの所在、キャラクターの位置取り。

 それらを看破する能力。

 この世界では一体どんな能力として()()()()()!?


「担い手はどこだ?」


 少なくともオノゴロには居る。

 何を探していた? 目的のものはあったのか?

 あの魔術はマニアクスの固有技だ。


「推理しろ」

 あの目玉が最後に見据えた先。何度も視線を合わせた先。

 そこが目的。それが担い手の狙いのモノがある。

 あそこには何があった? 範囲が広すぎる。

 目的のモノ。それはなんだ?

「まさか」

 ドブ川用水路本店。プレイヤー共が揶揄していた名前だ。学園の地下に繋がる……

「秘密の部屋なのか?」


 俺は人込みを掻き分けテーマパークの外まで一度も休まず走り抜けた。


「20時まで残り97分。確認しに行くだけ。すぐ帰れるはずだ」

 俺はドブ川用水路本店を目的地に定めた。




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