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三郎ラーメン 視線の先に②   <(渦)> 



「カッコウ。例の調査はどうだ?」


『只今調査中です』


「翡翠はどうだ?」


『カッコウ殿と同じく、未だ調査中です』


「そうか」


「お~い!」

 アトラクションに乗り、はしゃぐ千秋が手を振っていた。


「急用のようだ。すまんな。今夜報告を待つ」


『『ハッ』』

 俺は通話終了ボタンを押した。

 俺はこの2人に至急調べておいて欲しい事を頼んだのだ。

 小町を除く魔眼保有者残り2名の所在。

 今夜、調査結果がわかるだろう。



 気を取り直して俺は接待モードに移行する。

「ハハ」

 俺は乾いた声を上げて、白目になりながら千秋に手を振った。


 辺りは家族連れやカップルの連中がひしめき合っていた。

 ご機嫌ポイントを稼ぐ為、アイツのワガママでオノゴロの観光地区に居た。

 そこにあるちょっとした遊園地に2人で訪れたのだ。 


 適当な言い訳を作り、俺は小休憩を挟んでいた。

「俺、接待できてるのか?」

 

 <<< ――視線―― >>>


「ハッ!?」


 まただ!?

 また嫌な目線を感じ取った。

「殺気?」

 俺は警戒を強めた。

 いつでもアーツで武器を取り出せるように立ち上がると、辺りを見回す。

 雑踏。

 何でもない平穏な日常風景。

 着ぐるみが子供に風船を配っている。あれは違う。

 ゴミ掃除をする清掃員。あれも違う。

 家族連れやカップル……あれも違うだろう。 

 

「なんなんだ? 気のせいか?」


「うん? どうしたの? 怖い顔して」

 千秋はいつの間にかアトラクションを降り、俺の傍から声を掛けてきた。


「……いや、何でもない」

 いかんな。

 寝不足でいらぬ警戒心を感じ取ってしまうようだ。

 来週にはクラス対抗戦と筆記試験がある。

 昨晩学園に忍び込んでいた事もあり、少々睡眠時間が足らないのかもしれない。

 タフな自信はあったが、若さに頼るのも良くないな。

 過信は禁物だ。


 

「そっか。お昼にしよ! ボクお腹空いちゃったよ。そうだなぁ。

 やっぱり遊園地にあるジャンクなモノがいいよねぇ」

 キョロキョロと辺りを見回すと。

 千秋は、テンガロンハットを被ったおっさんが描かれた看板を指差して。

「ちょっと凝ったハンバーガーって遊園地の醍醐味だよね。アレ食べたいな」


「ああ。そうだな。なんなりと」

 俺は気を取り直して、接待モードに戻る事にした。


「お皿の上に乗ってるハンバーガーっていいよねぇ」


「奢らせて頂くよ」


「え!? いいの?  かっこいい~」

 千秋は、『ヒュ~』と口笛を吹くと。

 からかうように、俺の脇腹を軽く小突いてきた。


「男がすたるからな」

 俺はサイフを見せつけ、ニヤリと笑う。


「お! やるねぇ。さっきのキモポイントを帳消しにしてあげるよ」


「キモポイントってなんだよ。初耳だよ。そんなポイントあったのかよ」


「知らなかったの? キモい発言と行動で溜まるポイント。世界の常識だよ!」


「常識だった!? ち、ちなみに、今何ポイントなの?」


「う~ん。今ので相殺されて。1億ポイントぐらいになったかな」


「1億……ちなみにそれってどれぐらい凄いの?」


「そうだなぁ~。普通の人は一生かけても100ポイントぐらいしか溜まらないから、結構凄いかも」


「超絶凄いじゃねーか!?」


「そうだよ。今も溜まり続けてるもん。でも今の傑くんはちょっとかっこいいので、1000キモポイントを引いてあげるよ」


「普通の人の10人分減ったよ。……クッソ!? 『キモ』ってもっと言ってくれ!」


「フフッ。やっぱりキモだねぇ。キモキモ」


「今ので何点溜まったんだ!?」


「100キモポイント!」

 千秋はぐるりと目の前で回ると人差し指を立てて微笑んだ。


 ・

 ・

 ・


/三人称視点/


「先輩。天内先輩って彼女居たんですか?」


「知りません」


「天内先輩って何者なんですか?」


「知りません」


「なんであの人、楽しそうに遊んでるんですか?」


「知りません」


 マリアと小町。

 二人の雰囲気はお互い冷気を纏っていた。

 天内を尾行していた二人は楽しそうに談笑する男女を観覧車から眺め、殺気を飛ばしていた。


「私達の指南を放り出して遊んでる男。ぶちのめしますか?」


「……まだ、慌てるような時間ではありませんわ。闇討ちの方が確度が高いので」

 マリアは邪悪な微笑みを浮かべた。


「……闇討ちするんですか?」

 小町は若干引き気味にマリアの顔を覗く。


「私の未来の……許せませんわ。女狐の彩羽さん。

 それに、天内さんも折檻が必要かもしれませんわね。

 これほどまでに、すけこましだと未来のお嫁さんが苦労しますわ」


「あの、何の話を? 女狐? お嫁さん?」


 マリアはオホンと咳払いすると。

「いえ、こっちの話です」

(一体何が起こってるんですか? 

 なぜ天内さんと彩羽さんが、逢引きなど。

 私の事が好きなのではありませんの? 

 クレア曰く好き避けする者は相思相愛のはず……

 あの時の約束はどうなったんですか。お手紙にて私の思いを伝えたはず。読んでくださっていない?

 そんなまさか……)


「マリア先輩……顔が怖いんですが」

(この人、やっぱり天内先輩の事を……

 というか、この人怖いんだよなぁ。

 何て言うか思い込み激しそうというか。

 一方的に私の事も敵視してるし。

 はぁ……一応、天内先輩は恩人。

 師匠の事を守るのは弟子の務め。

 マリア先輩の陰謀からあのゴミカス先輩を守らなくては。

 先輩が不幸になってしまうのは寝覚めが悪いし。

 いやホントにそれだけだから。うん。それ以外の他意はないから)


「穂村さん、天内さんはお昼を摂られるようです」


「そ、そのようですね」


 小町は天内と女の人が二人して飲食店に向かって歩いて行くのが見えた。


わたくし達も行きましょう」


 ・

 ・

 ・


 俺達は食事を摂り、遊園地でそれなりに並んでいるアトラクションをはしごした。

 俺は彩羽をヨイショした。しまくった。

 辺りは既に夕刻になっており、初夏の迫りつつある季節。

 その特有の生暖かい風が頬を撫でた。


「傑くん。少し休まない?」


「そうだな」

 俺も少し疲れた。

 

 俺達は水上アトラクションが展望できるベンチに腰掛けた。


「今日は本当に面白かったよ」

 千秋は黄昏ながら感想を述べた。


「ああ。なによりだ」


 時間がないな。巻いていく必要がある。

 俺は気づかれぬように腕時計の文字盤を盗み見た。


 既に18時か……


 早く帰って修行をしたい。

 この後カッコウと翡翠との情報共有もある。

 

 現在カッコウや翡翠に至急調査させている、メガシュヴァに存在した魔眼保有者3名の内、小町を除く残り2人の行方ゆくえ


 固有ユニークスキルや固有ユニークアーツすらも()()事の出来る。

 任意でそれぞれ一つずつスキルとアーツを自在に模倣コピーできる魔眼。


 固有ユニーク魔術や専用装備すらも()()事の出来る。

 任意でそれぞれ一つずつ適正を無視して魔術と武器術を自在に模倣コピーできる魔眼。

 

 この魔眼を所有する2名の所在。


 20時……いや21時……

 譲歩しても22時までには帰路に着きたい。


 貴金属プレゼント作戦は未達成。

 三郎ラーメン作戦も未達成。

 眼鏡も買っていない。

 まだ、20点ってところか……

 脳内AIがご機嫌パーセントは『危険水域』であると告げている。


 そんな事を脳内で考えていると。


「あのね。傑くん。ボク、昔から友達とか居なかったんだ。少し特殊な境遇だしね」


 突然千秋はそんな事を告げた。


「ん?」


「ボクってめっちゃ強いだろ?」

 ワンピースのそでまくると、ちからこぶを見せてきた。


 全然筋力なんてなさそうな腕。

 だが、この世界には魔法なるモノがある。

 彼女の一撃は巨漢の漢の鉄拳なんかよりも遥かに重く強力だ。


「ああ。間違いなくな」


「ボクさ。なんで学校で弱いフリしてると思う?」


「なんで?」


 それは俺もなぜなのか訊きたかった事だ。

 俺はモブ生活をしつつファントム暗躍計画を成功させる為だ。

 でもこいつにそんな理由はないはずだ。


「誰も傷つけない為……かな。いいや違うな。それは言い訳。自分が傷つかない為なんだ」


「???」


「ボクを倒したキミならわかってくれるかもしれないんだけど……

 あまりに突出しすぎると恐れられるんだよ。

 周りから。

 異常すぎる個は孤独になるんだ」


「……」


「嫉妬も嫌味も沢山あった。それはまだいい。辛かったけどね。

 それよりもずっと怖いのは独りになる事なんだ。

 ボクに向けられたあの眼……その視線は……怖いんだ」


 なるほどね。

「化け物を見るように向けられる目。それが怖かった。

 独りになるのが怖かった。だから弱いフリをしてた。

 誰にも恐れられないように弱くて目立たない自分を演じようとしていた」


「そう。ご名答」


 これほどまでの強者。

 この世界にとってはイレギュラーすぎた。

 それはいつしか畏怖の眼を向けられるようになった。

 彼女を孤立させ続けた。

 何があったのかはわからない。

 それは俺の人生ではないから。

 だが察する事はできた。

 彼女は1人の女の子でしかなかったのだ。


「ボクは強いけど……それよりもずっと弱いんだ。矛盾してるよね。ハハハ」

 憂いを帯びた顔であった。

 

 嫌な事を思い出しているのだろう。

 さて、ここで励ます? 

 違うな。何を励ませばいいのか見当もつかん。

 同情して共感する? 

 そんな器用なマネは俺にはできない。

 そもそも陳腐で着飾ったキザな言葉など俺に言えるボキャブラリーがない。


 それなら、ユーモアを交えた方がいい。

 安っぽい冗談(ジョーク)しか俺には言えない。

 俺は単なるモブの道化(ジョーカー)でしかない。

 俺にできるのは笑顔を引っ張り出す努力をするだけ。

 それが俺の持つ唯一の能力(ユニーク)

 俺が前世でも今世でも欲してやまない道化(切り札)固有能力ユニーク

 ()()()()()()()()()


 俺は、あえて邪悪な笑みを作ると意地悪そうに。

「千秋は俺より雑魚なんだから弱いのは当然だろ。てか。弱すぎて足元にも及ばなかったんだが。

 精々鍛え直してくるんだな。なぜなら俺は強いので」


 フフンとしたり顔を作り、冗談を言ってみる。


 千秋は『プッ』っと吹き出すと、口元を綻ばせた。

「そうだったね。

 うん。そうだった。

 君はずっと強いんだ。

 物理的にも強いけど、何より心が強い。

 だから弱いフリをしていても周りに人が集まって来る。不思議な魅力がある。

 ボクにはない()()()()()を持っている変わった人だ。

 だからこそ、そんな君に負けて良かったと思っている。

 世界は広かったよ。

 ボクの全力を目の当たりにして恐れず傍に居てくれる君に出逢えた。

 そんなボクを仲間にしたいと誘ってくれた人が居た。

 ボクは孤独じゃなくなった。

 ここに来て本当に良かった。

 それだけで価値があった。救われた」


 千秋は目を瞑ると、静かに微笑んでいた。


「大袈裟だな」


「大袈裟なんかじゃないよ」


 

 しばらくの沈黙であった。


 あれ。

 なんだこの雰囲気。

 なんだか行けそうな予感がする。


 20%しかご機嫌ポイントは獲得してないはずだ。

 しかし、このタイミングで出すのはいいんじゃないだろうか。

 とても自然にお願いと報告できそうだぞ。

 もしかしたら俺の獲得したご機嫌ポイントはもっと多いのかもしれない。


 俺は神妙な顔を作ると。

 意を決して。

 口を開いた。 

「そんな千秋くんにお願いと報告がある」


「ボクに!? な、な、なにかな!?」

 声を上擦らせて、挙動不審になると。

 眼をグルグルと回す千秋。


 どうした? そんなに狼狽して。

 まぁいいや。

「それはね、」

 俺が、まずパーティーメンバーについて説明しようとした時だった。


 千秋の眼を回していた瞳孔が、空を見上げると動きを止めた。


「どうした?」


「なにあれ? ……新しいアトラクション?」

 千秋は口を開けて空を眺めていた。


 俺はガタッと立ち上がった。



 << ( 瞳 ) >>



 巨大な瞳を模した魔法陣。

 天を覆うかのような大きさの眼球。

 大きなまなこが天空に出現していた。


 渦のような魔法陣の中心。

 (魔法陣)の中心に描かれたドットがギョロギョロと人の目玉のように動いていた。


「あれは……」


 あの魔術は……

 俺は天を見上げ、固有ユニークの正体を看破していた。

 知っている。知っているぞ。


 ――― 千里眼 ―――


 瞳術どうじゅつ

 そのものが固有ユニークの異能。

 

 なぜ、このタイミングで……発動している!?


 

 

 

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