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アットホームなパーティー(大嘘)



 クラス対抗戦の日程が迫っていた。

 

 昨日誕生した俺のパーティー。

 その試運転の確認は重要事項なのであった。

 ダンジョンにて、俺、マリア、小町の三人で初級ダンジョンに潜る予定を作ったのだ。


 とりあえず各々の実力を確認する必要があるからだ。

 千秋の実力を俺は知っている。

 彼女は強い。

 なので今回は誘わなかった。

 というか、千秋には俺がマリアと小町とパーティーを組んでるとは、まだ言ってない。

 

 特に理由はない。

 理由を作るなら……なんだか嫌な予感がしたからだ。

 それに言い訳をするなら突然すぎた。

 

 俺の勘は鋭敏なモノになっている。

 サバンナ(世知辛い世の中)で生き残るには危機察知能力が必須なのだ。


 千秋がご機嫌な時にサラッと言おう。

 要はタイミングなのだ。

 タイミングを見誤れば……えらい事になるかもしれない。

 ヒリヒリお茶会はもう御免だ。


 ・ 

 ・

 ・


 目の前で足の引っ張り合いが引き起こされていた。

 痴話喧嘩?

 ノン。ノン。

 犬猿の仲?

 違う違う。

 

「穂村さん! 何度言えばわかるんですか!? 私は後衛なのです。

 貴方が先陣を切らずして戦線は開けませんよ」


「マリア先輩はそこでボーっと突っ立ってましたよね? なぜですか?

 後衛? 支援しない後衛なんて聞いた事ありませんが?」


 この2人。

 ずっと険悪な雰囲気なのだ。

 

「まぁまぁ」

 落ち着いてよ。 


「天内さんはどちらの味方なのです?」


「そうですね。先輩は今の意見どちらが正しいと思いますか?」


「え?」


「天内さんがリーダーなのです。意見をしてくださいまし」


「その通りです。先輩はなぜ指示を出さないのですか?」


「え? え?」

 俺は右往左往してしまった。


「確かにそうですわね。天内さんは実力者。

 ならば私達、未熟者に的確に指示を出して欲しいものです」


「そうなんです。私もマリア先輩も連携が上手く取れないんですよ。これは先輩のせいでもあるんですよ」


 矛先が俺に向きつつあった。

 二人の黒いモヤモヤが俺に牙を剥いた。

 

「ちょっと」

 愛想笑いをして手で制そうとするが。


「そもそも先輩荷物持ちしかしてないじゃないですか!?

 強いんですからお手本を見せて下さいよ。

 なんで何もやってくれないんですか」


「確かに……一度天内さんの勇姿を見させて頂けるといいのです。

 そこから私達の役割を判断しますので」


「いや、俺。浮遊しかできないし……」

 俺は魔法は浮遊しかできない設定でやらせて頂いてる。

 しかも小物の浮遊しかできないという雑魚設定。


「フフッ。ご冗談がお上手ですね。今回は面白くありませんが」

 

 マリアが何でも褒めてくれなくなった!?


「あのさ先輩。体術も剣術も凄いのに……その言い訳はないわ。ないわー」

 

「あ、の、え?」


 冷ややかな目線を向けられて困惑した。

 胃がキリキリし始めた。

 なにこれ。

 俺のパーティーってクソハズレなんじゃないの?

 特に人間関係。

 戦闘戦術という面で伸びしろはあるかもしれない。

 でもこれって。


「ウッ」

 デジャヴが!?

 ブラックバイトをしてた時やブラック企業で働いてた時のような嫌な思い出が蘇った。


 二人の険悪な雰囲気に、俺を突き刺すような目線。

 ダンジョンに来て初日で険悪。


 俺は二人に聞こえないように。

「アットホームな職場じゃないわ」

 そう評価せざるを得なかった。

 

 ノットアットホームだわ。

 

 もしかしてブラック企業ならぬブラックパーティーなんじゃないの。

 と、内心思っていると。


 目の前に雑魚モンスター。

 小鬼が出現した。

 間抜けな顔をした全身真っ赤な肌に腰布しか巻いてないダンジョンモンスター。

 手には棍棒を持っており、緑色の肌をしたゴブリンより雑魚である。

 それが3体出現した。


「ほら、先輩。モンスター沸いてきましたよ」


「どうぞ。この場での勇姿。しかと勉強させて頂きますわ」


「俺なの?」

 自分の顔を指差す。


「ほら、やってください!」


「存分に蹴散らして下さいませ」


 俺が戦っても意味ないじゃん。

 俺は2人の実力を知りたいのに。 


 はぁ……

 仕方ないか。


「いいだろう見せてやろう。浮遊魔法と剣術のみで度肝抜いてやろうか……

 ピピピピピ! 経験値5か。雑魚め」


 俺は戦闘能力と経験値を測った……フリをした。


「天内さんは、なにを1人で言ってるんですの?」


「先輩はたまに意味不明な言動を起こすちょっと変な人なんですよ」


「は、はぁ」 


 二人は俺の方を見て何やら会話をしていた。


 小鬼はこちらに気付き『キィー』と雄叫びを上げ棍棒を振り回しながら向かってきた。


「浪速のスラッガーと呼ばれた俺の実力……見せてやろう」

 呼ばれた事なんてねぇけど。


 俺は足元の小石を足裏で逆回転を掛け、リフティングの要領で足の甲に小石を(すく)い上げると。

 小石をつま先で軽く中空に蹴った。

 

 俺は落ちてきた小石を自身の下腹部当たりで浮遊させた。

 浮遊魔術をほんの少し操作し、小石に回転をかける。

 グルグルと徐々に回転が早くなり、コマのように高速に回転し始める。


 俺は腰に携えていた細剣を抜き。


「先輩……なに……やってんるんですか?」


「あの、天内さん?」


 二人はポカンとした顔であった。

 俺は細剣を野球のバットのように持ち直すと。

 片足を上げ、回転する小石と目標のモンスターとの弾道の軌道を目算した。


「見せてやるぜ。猛打ってやつを」

 小鬼までの距離。

 20メートル……

 15メートル……

 10メートル……


「見えた!」

  

 目標はモンスターの眉間。

 それに眼下で回転する小石に目を落とした。


「こう……するんだよ!!」 

 

 息を吞んだ。

 神経を集中させる。

 

 バット……もとい細剣を振りかぶり。

 

 ――― 力 × スピード × 回転 ―――

 

 バットでボールを打つように細剣の腹で小石に痛烈な衝撃(インパクト)を与える。


「イコール。威力!!」


 ギュルンという風が捻じ切れるような音がしたかと思うと。


 ジャイロ回転を加えられた石は、弾丸のようにモンスターの頭部へと飛来した。


 『ビッ、クジャア!』 擬音で表現するならこれが一番近い。


 トマトを手で握り潰したかのような音。

 筋肉と骨と血流が一瞬で肉塊に変化する時に鳴る、とても嫌な鈍い音であった。

 小鬼の頭部に穴は開かなかった。

 なぜなら鼻から上がミンチになり吹き飛んで血渋きを辺りに飛散させたからだ。

 ビチャりと体液がダンジョンの壁に飛び散り。

 スプラッター映画でよく見る、『どうやったらそんな血痕が付くんだよ』とツッコみを入れたくなる光景が広がった。


 数秒のタイムラグの後。

 小鬼であったモノは魔素となり光の塵へと変化した。


「汚ねぇ花火だぜ。次! お前の青春はそんなもんか!」

 

 再度小石を蹴り上げ、浮遊魔法で回転をかけつつ浮かせる。

 1人トスバッティング(バウンドなし)をおこったのであった。

 俺は野球部のコーチのように連続で強烈な猛打を小鬼の頭部や腹部に打ち込んだ。

 打ち込みまくった。

 

 ・

 ・

 ・


 辺りは惨劇としか表現できない空間に変貌していた。

 あれからモンスタ―は湧き続け、その数々を小石打法で肉塊に変化させ続けた。

 中には初級ダンジョンボスクラスのモンスターも居たが一撃で肉塊に変わった。


 100体以上を処し、俺は後ろを振り返ると。

 後ろで見ていたマリアと小町は口をあんぐりと開けていた。


「浮遊魔法しか使えないと言ったし、俺は剣術? で処理しけど。これでいいかな?」

 言われた通り見本? を見せたけど。

 これで満足なんだろうな。


「あ、あの……天内さん」


「なんですか? マリアさん」


「今……のは?」


「単なる剣術と浮遊魔法のコンビネーション技ですが」


「そんな技ないんですよ!!」

 小町は声を上げ、俺に詰め寄って来た。


「ど、どうした。そんな声を荒げて」


 小町は『はぁ』とため息を吐くと。

「あの……私達って要りますか? 先輩1人でもう十分ですよね。

 一個パーティーより遥かに」

 わなわなと震えた小町は落胆したような顔をした。


「え?」

 何の話?

 言葉が足らないんだよ。何が言いたいんだよ。


「次元が……違いすぎる」

 マリアはボソリとそんな感想を述べていた。


 なにが?


「マリア先輩……私自信なんて言えるものはないと自負してましたが。

 今日もっとなくなりました」


「同じくです……」


「2人とも。どうしたの?」


「先輩。私達は修行し直したいと思います」

 

「俺はキミらの実力を見たかったんだけど」


「私達に。いえ、少なくとも私に先輩の仲間と言えるほどの実力はありません」


「そうかもしれません。天内さん。今日身をもって痛感致しました。

 私は個人的に天内さんに指南して頂きたい事ができました。できれば二人で」


「マリア先輩!」


「なんでしょう」


「何しれッと変な事言ってるんですか」


「変な事とは? 私は師事できる方にマンツーマン指導をして頂きたいだけです。

 穂村さんばかりズルいのです。

 同じパーティーメンバーなのですから仲間同士手を取り合うのは当然では?」


「ぐぬぬ」


「勝手に話が進んでるよね? 俺の意見は、ど」

 と言いかけると。


「天内さん。少し。シッ!」

 マリアは微笑むと人差し指を口元に近づけ、『皆まで言うな』という顔をしてジェスチャーを送って来た。


 喋るなって事?


「先輩は非常識なんです。少し黙ってて下さい。今はマリア先輩との闘いなんです」


「お、おう?」


 マリアと小町は、俺が指南する日を各々決めた曜日制にする、など勝手に話をし始めていた。


 

 俺の意見は毎回この2人に流されてる気がする。

 てか、全然聞いて貰えないんだけど。

 会話にもほとんど混ざれないし。

 このパーティーでの俺の立場はリーダーという皮を被ったていのいい"でくの坊役"なのかもしれない。 

 てか。マリアのマンツーマンの面倒も見ないといけないの?

 いいんだけどさ。

 育成はしなきゃだし。

 しかし。大丈夫なんだろうか。


 もう一人の教官を千秋に頼もう。

 俺は分身できないんだ。

 しまいには、タスクが多すぎて過労で倒れるぞ。

 千秋の奴にはご機嫌な時間を創出する必要がある。

 三郎ラーメンでも食わせとけばアイツはニッコリだ。

 多分……

 

 モリドールさんのクビを撤回させる為、俺は自分の成績を向上させる必要もある。 

 クソみそ共(ボンボン)にも接触しておきたい。それにクソみそ共の首魁である副会長様の動向も気になる。 

 カジノの運営と闇金業へのシフトにも着手せねばならない。

 無論この世界の攻略も平行して進めねばならんし。

 小町とマリアの育成もしなきゃだ。

 風音は順調にレベル上げとストーリーを進めているのかも気を配らねばならん。 

 この学園に巣食うマニアクスと秘密の部屋のケダモノも風音に踏破してもらうか、俺が処す必要がある。


 現時点で並行して進めるにはタスクが多すぎる。

 少しカッコウと翡翠に分担しよう。

 優先して千秋にご機嫌になってもらい、どれかを割り振り着手してもらおう。

 俺一人では不可能だ。

 

「頑張れ俺。異世界を生き抜くには覚悟が必要だぞ」

 俺は二人に気付かれないように自分を鼓舞した。



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