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プロローグ① 主人公とは

初投稿です。誤字脱字ありましたらご教授お願いします。



 主人公とは物語の舞台装置に過ぎない。


 詰まるところ。

 都合のいい存在として舞台装置の役割が期待されている。

 でなければ物語が全く進行しないから。

 ことゲームにおいての主人公とはプレイヤーの分身を指すが、プレイヤーは唯一の神の視座を持っている。だから疑問に思わない。


 例えばギャルゲに出てくる主人公。


 なぜか女の子にモテモテで男友達はほとんど居ないし、重要な局面では記憶喪失になる。

 クソ重たい前髪で両目が見えない事もあるし、なぜか姉や妹は居るのに兄や弟は居なかったりする。

 学生のくせに一人暮らしだし、10代にしか見えない母親が居たりもする。

 主人公はかくも不思議な存在であるのにプレイヤーは「そんなもんだよね」と、納得する。


 それは神の視座を持っているからだ。


 ギャルゲ時空もそうだ。

 学校には幼女にしか見えない教師や理事長が居るし、平凡な世界のはずなのに世界規模の戦いに巻き込まれたりもする。

 それも「まぁそんなもんだよな」と思う。

 そんな事にいちいちツッコんでいたらギャルゲをプレイするのは難しいだろう。



 裏を返せば、主人公もギャルゲ宇宙もトンチキな存在でなくてはならない。


 そんな世界に憧れた時期が私にもありました。


 …………んなわけあるか!



「ま〇だらけもトイザ〇スもソフ○ップも閉店の時間だ!

 社会人なめんなよ! こちとら日々残業続き、叱責や嫌味の毎日でまともに有休も消化できてねぇんだ。

 クソ安い賃金で俺の貴重なやりがい奪いやがって。心をすり減らして日々生きてるんだよ!

 クッソ! 忌々しい。専務のハゲの口の中に退職届をぶち込んでやりてぇぜ。退職届の味はどうですか? ってな。

 薄ら寒い頭皮しやがって。完全に毛根焼き切ったろか? サービスだ。頭皮をピカピカに研磨してやるよ。

 あとな! 超爆発天パの上司。お前だよ。毎日毎日つまらねぇ事で怒鳴りやがって。てめぇのストレスを下っ端に当たってんじゃねーよ。

 何がヒューマンステージを上げろだ。何が未来への投資だ。しこたまため込んだ内部留保を下っ端に還元しろ。経営はゲームじゃねぇんだよ。

 ブラック企業のくせに何が口を動かさず手を動かせだ。下っ端はお前らの駒じゃねぇつーの。

 先月の残業時間100時間ってなんだ? 労基に報告したろか? 法廷で会おうぜ。パワハラで訴えてやるよ。

 毎日毎日俺をいびってくる常務お前もだよ。次に会うのは法廷だ。

 震えて眠れ!」



「はぁ……はぁ……不満が爆発してしまった」

 落ち着け俺。

 かなり脱線してしまった。動揺しているのだろう。情緒不安定になってしまっている。

「ふぅ」

 今の俺の状況。

 三行でまとめるのも面倒だ。

 結論から言おう。

 俺はクソキャラに転生した。

 今ココ。

 以上。説明終わり。




 ―――事の経緯は1日前に遡る。


 確かこうであった。


 アクションRPGの要素をふんだんに詰め込んだギャルゲ【メイガス・オブ・シュヴァリエ】。通称メガシュヴァ。

 約1000のプレイアブルキャラとふんだんなシナリオ。

 数多くの戦略的ゲーム性と多くの戦闘要素。

 ユーザー同士でのランキング戦。

 美麗なイラストやグラフィックで人気を博したゲーム。

 運営会社とあらゆるギャルゲーマーの最強の敵コンピュータソフトウェア倫理機構(通称ソフ倫)との場外法廷闘争はユーザー達を震撼させた、そんな発売元のゲーム。

 それがメガシュヴァ。



 俺は約10年に及ぶ歴史を誇るメガシュヴァの全シナリオを攻略しエンドロールを観ていた。

 本日メガシュヴァに最終章が実装された。

 そして遂にクリアしたんだ。

 夢にまで見た完全クリア。

 ようやく、青春と休日と俺の少ない預金を捧げたこのゲームの結末を見る事になる。

 ワクワクする気持ちと同時に少し悲しくなった。

 遂に終わってしまうのかと。

 心にぽっかりと空洞が生まれたようなそんな気分だった。


 今日はようやく取れた有休だった。

 俺はこの日の為に3か月も前から有休を申請していた。

 朝からソワソワしていた。遂にこの物語の終わりに数多のヒロイン達と一緒に立ち会えるのだと。

 苦難の連続だった。

 あまりにもシビアすぎるゲームシステム。

 多くの課金要素。

 初見殺しのトラップの数々。

 多すぎる選択肢。

 多くのルートの数多のラスボスを倒した。

 苦労したシナリオを攻略しヒロインの笑顔を見た時は打ち震えた。

 そしてようやくこの長く激しい戦いが終わるのだと感慨深くなった。

 俺は遂に最後の敵を倒した。

 そして待っているはずだと思った。


 最高のエンディングが。


「や、やめてくれ……」

 

 キーボードの上から震える手を離す事ができない。

 自分のごくりと生唾を飲む音が聴こえる。


「そんなはずはない。そんな馬鹿な」

 乾いた笑いを浮かべる余裕すらない。

 目の前に映る液晶パネルには黒地の画面に白字で提供企業や製作スタッフの名前が写っており、それらがズラズラと縦に流れていく。


「ま、ま…まだだ」

 まだ終わってない。

 エンディング後に大どんでん返しがあるはずだ。これはフェイクエンディングクレジットに違いない。


「よ、よくある……よくあるハハハ」

 ガタガタと震える手でタバコに火を点ける。

 

 ついにプロデューサーや総指揮、シナリオライターといった主要人物の名前が映し出され映像が切り替わり、主人公が朝日を見上げる一枚絵に切り替わる。

 主題歌と共にエンドロールが流れ終わり、画面の隅に“fin”の文字と運営会社の名前のクレジットが浮かび、ゲームのオープニング画面に戻った。

 

 部屋に静寂が訪れる。

 

「嘘……だろ」

 ようやく発する事ができたのは、そんな間抜けな一言だった。


 眩暈がする。

 約10年に及ぶシナリオの集大成が、こんな結末なのか……。

 この結末は看過できない。ダメだ。怒りなのかわからんが頭にきた。俺は静かに数十万もするゲーミングPCを持ち上げ、


「納得できるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 雄たけびを上げながらリビングにパソコンをぶん投げた。

 その瞬間『ブチッ!』と脳の奥から嫌な音がした瞬間、視界が真っ黒になったんだ。




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― 新着の感想 ―
オープンエンドは良いけど、終わりが分かりすぎると本当に終わってしまう気がしてとても寂しいです。
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