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ビルトイン(太もも)スタビライザー




 TDR(日陰者の逆襲)は表の部隊。

 というよりも学園の裏工作を行う部隊。

 彼らは俺のファントム暗躍計画を知らない。

 単なる学園の有志で集まった成金サークルだ。


 裏の組織。俺はファントム専用の部隊を編成した。

 ハルシオン(マボロシ)……

 古来は伝説とされた鳥の名をモチーフに作られた言葉。

 そこからちなんでカワセミ(幻影)部隊を創設した。

 こっちは俺のファントム暗躍計画を知る仲間。


 俺は闇オークション会場で解放された者達。

 その中でも行き場のない者に居場所を与えた。

 ほとんどは、悪人をフルボッコにして略奪した資金と俺のささやかな資金を渡し片田舎で暮らしている。

 数名、俺の『仲間になりたい』と言った変わり者達で結成した。

 それがカワセミ部隊。

 新設されたカワセミ部隊のリーダーを務める。

 コードネーム:翡翠ひすい


 幻の7人目であるファントム(存在しない)パーティーメンバーである。

 メガシュヴァのストーリーには一切出てこない影達だ。


 俺はファントムパーティーの仲間を密かに増やしていた。


 ・

 ・

 ・ 

 

 お金(C)の世界には有名な言葉がある。


 前世の終末論(いわ)く、『人類最後の最終戦争(ハルマゲドン)では、信徒は"()()()()()()()"により救済される』らしい。

 この終末思想の有名な言葉を引用し。


 経済学者アダム・スミス曰く市場原理には、『(神の)見えざる手』があると謳われる。


 ミクロ経済では、個々人が利益を追求をする事で、(神の)見えざる手によって社会の利益を向上させる事になるらしい。全体で繁栄するとの事。

 

 つまり、俺の利益を求めれば求めるほど、みんなハッピーになるのだ。

 

 多分だけど。

 うん。そういう事にしておこう。


 俺は『神の見えざる手』という言葉が大好きだ。

 中二病的言葉だし、自由競争を推奨している魔法の言葉にも解釈できるからだ。

 俺はそう解釈してる。

「フフフフ」

 暗黒微笑をした。

 俺は欲望にまみれた男。


 ファントム暗躍計画に付随した神の見えざる手計画を始動した。


 俺の大金持ち計画……


「たまらねぇぜ」

 

 そんな事を考えていた。


 夕暮れになり本日の授業は終了である。

 学園生は帰宅につく者やラボに向かう者。

 サークルや部活に向かう者で溢れていた。

 喧噪の中。

 俺は目立たない位置にあるベンチに座り、学生諸君の姿を眺めていた。

 

 この学園は滅茶苦茶人が多い。

 学園関係者を含めればウン千人、人が出入りしている。

 高等部ならず研究機関の役割もしてるので人の出入りが多く学生、社会人共に多くの人々が(せわ)しなく歩いていた。



「あ……」

 間坂イノリの笑顔が見えた。

「主人公御一行様ではないか……」

 俺は遠くからそれを見て胸を撫で下ろした。


 最近、風音(主人公)パーティーに加わり彼女は笑顔が増えた。

 あのパーティーには人格者諸君しか居ない。

 なので安心したのだ。


「……計画通り」

 俺はニヤリと邪悪な笑みを作った。


 背後から気配を感じ取る。 

「翡翠か……」

 俺は振り返らず、独り言を喋るかのように彼女に問いかけた。


「ハッ」

 木の影から翡翠色の瞳のみ煌めいているのが目の端に捉えられた。 


「引き続き、この学園に潜むマニアクスの動向を探っております

 今の所。実態は掴めておりません。

 山本性の人間には監視を付けていますが……

 敵は人間なのでしょうか?」


「うむ。学園に潜むマニアクスは元人間という表現が近い。

 あいつは憑依型。見た目だけでは見当をつける事しかできん」



 憑依型マニアクス(メガシュヴァのボス)

 ――― 山本五郎 ―――

 モブっぽい名前だがマニアクス(魔王)の1人。

 

 前世の世界。

 江戸時代の妖怪物語『稲生物怪録』に登場する妖怪の名。

 『山本五郎左衛門』をモチーフにオマージュされたキャラクター。

 確か妖怪物語では、妖怪の親玉と定義さていた気がする。

  


 こいつは、イノリルートの序盤で間坂イノリに憑依する。

 正確には序盤で精神の断片を憑依させ、イノリの憎しみや畏怖を糧に力を蓄える。

 覚醒自体は終盤だ。

 どうやらこの世界では現時点で憑依してないらしい。


 

 俺とカッコウと翡翠の裏工作によりイノリは風音パーティーに導かれた。

 ぶっちゃけ簡単すぎワロタとなった。

 出逢って5秒で即パーティーレベルであった。

 

 それが原因なのだろうか?

 風音と出会った事で、山本が介入するタイミングがズレたと考えるのが妥当だろう。 


 さて、という事は。

 神の眼を持ってるとか息巻いたが、山本がどこに居るのか全く見当もつかん。

 居るのか? この学園に。 


「間坂イノリの監視を続けよ。平行して秘密の部屋に潜むケダモノの探索はどうだ?」


「間坂イノリの件。かしこまりました。

 ケダモノの動向は未知な点が多く、現状発見できておりません」


「だろうな」

 俺も発見できなかった。

 あいつは石化の魔眼を持つ。

 被害が出る前に処す必要があるな。

「引き続き、そちらも動向を探れ」


「承知致しました」


「フフフフ」


「楽しそうですね」


「まぁな。そろそろクラス対抗戦もあるしな」


「例の……ですね」


「ああ。これで計画は更なる飛躍を遂げるだろう」


 俺はカジノで大儲け。

 カッコウの収集した情報によれば二年生は雑魚しかないから絶対に勝てる。

 既に彩羽は俺の仲間。

 これ以上のエラーは起こらない。


 各クラスには複数のスパイを忍び込ませている。

 他クラスの給水ポイントには即効性の下剤入り飲料水を配布する手筈になっている。

 それだけではない、カプセルタイプの遅効性下剤も前日の寮の食事に混入する手筈。

 二重のクソ漏らし戦術。 


 人間はクソがしたいという生理的欲求に抗えぬ者よ。

 多くのクソ漏らしが生まれるだろう。

 そしてその滑稽を、クソみそ共の汚点として残すつもりだ。


 俺の大儲けは約束されている。

 クラス対抗戦はもう始まっている。

 そして既に俺の勝利という結果の上に出来上がった出来レースだ。


 その後は闇金業で資産を倍々に増やす。


 俺の大儲けはみんなのハッピーに繋がる。

 繋がるよな? 違うの? スミスよどうなのだ? 教えてくれ。

 まぁいいや。

 あまり深く考えるのはやめよう。

 そういう事にしておこう。

 神の見えざる手計画はフワフワしてるのだ。

 良く言えば柔軟、悪く言えばぼんやりしているが……



「委細承知しております。

 金銭という、低俗であり品性下劣なエサを用意し、

 学園の腐った支配制度の上に君臨する品性の欠片もないゴミを根絶やしにする。

 その心意気感服しております。

 まず、性根(しょうね)心根(こころね)の腐ったゴミ共に鉄槌を、ですね。

 金に目の眩んだ者はゴミしかいませんからね。

 血を生まぬ盤外戦術とはお見事としかいいようがありません。


 しかも、それは隠れ蓑。

 この世界に潜む邪悪を炙り出すという一手も含ませている。

 欲望の深い者の中には必ず巨悪の尾が潜んでいるとお考えなのですね。

 見事な計略かと。

 

 そんな愚か者共に天誅が下るのだと影から思い知らす。

 全く末恐ろしいお方だ。

 その神算鬼謀。マスターはやはり只者ではないですね」



 いや、間接的に俺を非難してるよね?

 皮肉じゃん。

 正直ちょっと何言ってるのかよくわからなかったし。

 てか、ほとんど意味不明だった。



 クラス対抗戦の計画。

 闇カジノでクソみそ共の金を略奪後。

 彼らを闇金業の債務者にして、がっぽり丸儲け大作戦。

 

 本質は学園に居る獣人の救済を間接的に行う事だ。



 以前、翡翠には説明したけど。

 俺の悪口言ってるよね?

 ディスってるよね?

 いや、俺が金に目が眩みすぎて苦言を呈してくれているのかもしれない。



「あまり((オレ))の事を悪く言うな。自分を下げる事になるぞ」

 俺はかっこよさげに抵抗してみた。

 翡翠のオブラートに包み過ぎてよくわらない非難に、ちょっぴり抵抗してみた。

 


「なんと寛大な……畏まる思いです。私のような者には過ぎた事でした」


「いや、いい。心の思いを素直に語ってくれて俺は嬉しい」

 

 翡翠は滅茶苦茶美人なモブだ。

 彼女は何でも俺を褒めてくれるイエスマンだと思っていた。

 イエスマンを周りに置きすぎると組織は脆弱になる。

 これでいいのだ。組織には苦言を呈する人(ノーマン)も必要。

 

 マリアは何でも褒めてくれるちょっと怖いキャバ嬢。

 翡翠は凄い褒めてくれるキャバ嬢。

 

 最近田舎の場末のキャバ嬢みたいな奴が周りに増えつつあった。


 だからこそ俺に『思い上がってはいけない』と、翡翠は間接的に教えてくれたのだ。

 感謝しなくては。


「金の魔力を……侮るな」

 俺は翡翠に一矢報いようと一言添えた。


「ええ。身に染みてわかっているつもりでした。

 あの日マスターから解放されてから……

 わかっていた事なのに」

 遠い目をする翡翠であった。


「う、うむ?」

 なんか微妙に噛み合ってないような気もするが。

 まぁいいだろう。


 お金は大事なのだ。


 俺はサイフくんを大量生産したい。

 俺は金持ちになりたい。

 サイフくんはいずれ大物になる可能性がある。

 死ぬまで金づるにしたい。

 俺のATMになって欲しい。


 これは確定拠出型年金みたいなもの。

 俺はこの世界(メガシュヴァ?)を攻略後はもう働きたくないのだ。

 労働は性に合わない。


 攻略後はさっさと退学なり卒業なりして、太もも農園を開きたい。

 この学園でしこたま蓄えた貯蓄を元手に太ももパークを開園したい。

 ひらパーならぬ、(ふと)パー兄さんになりたい。


 太ももパークで多くの太ももと生涯を添い遂げる。

 老後は太ももに看取られてあの世に逝きたい。

 死後、俺のお墓には太ももを毎年供えて欲しい。

 辞世の句は、『俺の墓標には毎年『太もも』を供えてくれ』に決めている。 


 それが俺の太もも生活。

 それが太もも道。


 神の見えざる手計画の本懐。

 最後の至るべき場所ゴール

 目指すべき到達点だ。


 太ももパークの園長に俺はなるぞ!


「いいよな。太もも……」

 俺は咄嗟に口を吐いてしまった。


「は?」


「え? 俺なんか言った?」


 俺は誤魔化すのに徹した。

 無意識に『太もも』を言葉にしてしまっていたようだ。

 気を付けなくては。

 思考が言葉に出てしまう事がある。


「いえ。太もも……と」

 翡翠は険しい表情になり、俺の次の言葉を待っていた。

 

「太もも……脚が痛いなって話」

 俺は自分の脚をさすって誤魔化した。


「そうでしたか。最近お疲れのようです。

 お体をご自愛下さいマスター。

 そうだ。私がマッサージ致しましょうか?」


「いや……え? いいの?」

 ホントに? 出来れば膝枕もおまけに付けて欲しい。

 ちょっと興奮するんだけど。


「なんなりと」

 

 ――― ちょっと!! 待って~い ―――


 俺の思考が高速でツッコミを入れた。


 苦渋の顔を見せないように俺は、

「い、い、い……いや! いい! 大した事はない。気のせいだった。案ずるな!」

 俺は仲間に接待させるほど落ちぶれちゃいない。

 ここはキャバクラじゃないんだ。

 頭を冷やせ。


「そ、そうですか……」

 俺の威圧に気圧され翡翠は押し黙った。



 そんな茶番を繰り広げていると。

 遠くからマリアが歩いてくる姿が見えた。

 こちらに気づいたのか、一度会釈すると笑顔でこちらに近づいてくる。

「あ、見つかってしまった」

 俺は苦笑いをし目線を逸らすと。



 反対方向から小町が、こちらに気づき不貞腐れた顔で歩いて来ているのが見えた。

「ほったらかしにしすぎたか」

 あいつには毎日、感謝の素振り10万回しろ。

 毎日42.195キロを30分以内に走り込めと言い聞かせている。

 そのまま放置していた。

「なんだよ。滅茶苦茶キレてるじゃん。

 カルシウム摂るように言ってやるか。やれやれ困った後輩だ」

 

 俺は独り言のように。

「翡翠。この話はまた今度。今日はお開きだ。急用があればカワセミ部隊を寄越せ」


「ハッ」

 彼女は静かに返答すると。

 学園生のイチ生徒に紛れ込み、人込みの中に消えて行った。


 二人とも俺に向かって歩いて来ていた。


「あれ? あいつらって初対面だっけ」

 そういやそうだった。

 会って会話してるのはこの世界では見た事がない。

 ゲームでは風音を交えて二人は会話してた。

 それを見た事あったせいで気づかなかった。

「この世界ではないわ」

 ん?

 あいつらってゲームでは仲良かったけ?

 特にそんなにだった気がする。

「意図せず、メインヒロイン出逢っちゃうじゃん」


 ほんの少し嫌な予感がした。


「大丈夫……だよな?」




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