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リベンジマッチ③ 雪嶺は春近し



「お前にはエクストラバレット(武器投擲)は効かない。

 タキオン(超高速移動)は、お前の周囲に展開させた氷結空間と過重力空間に一歩足を踏み入れれば、弱体化してしまう。

 使いどころを誤れば凍らされて命取りになる。

 それは前回学んだ。

 高速思考とタキオンによるコンボ技。

 超高速近距離攻撃は最後の一手に残しておく。



 だから編み出したのさ。

 トラッキングバレット(追尾する弾丸)を……

 タイミングを見誤るな俺。

 あいつは一度見た技を警戒し学習し対策をしてくる

 」


 戦闘のプロフェッショナル。

 いやそれでは生温い。

 エキスパート……

 いや違うな。


「そう、スペシャリスト」


 本物の戦闘特化の専門家(スペシャリスト)

 一度見た技を、一瞬で研究しそれに対し対策を打ってくる。

 あまりにも凶悪なスキルと魔法を自在に操る魔力量と想像力。

 圧倒的な武。

 天賦の才を余すところなく詰め込んだモブ。

 ゲームメガシュヴァ、その終盤。

 インフレ期に実装された強キャラ。

 本編ストーリーに一切登場しない上に、固有ストーリーすら用意されてなかった最強の一般生。

 このリアルの世界で、ゲーム時代より遥かに強い雰囲気を醸し出す。

 異端。

 間違いなく異常(エラー)だ。


 だからこそ。


「俺の片翼に相応ふさわしい猛者」


 俺は運命すら感じている。

 お前を絶対に仲間に加える。



 身を隠し彩羽の気配を探る。

 奇襲は意味がない。

 投擲武器攻撃は、あのぶっ壊れスキルのせいで効かない。

 煙幕も用意してあるが……

 姑息な手を使わず、真正面から打ち破る。

「じゃなきゃ、意味はないよな」


 俺はトラッキングバレットの準備をした。


 勝負は一瞬でつく。


 彩羽の奴は胡坐を掻いてる。

 飛び道具が効かないと思っている。

 そのスキ。

 トラッキングバレットは飛び道具攻撃に見せかけているだけ。

 判定は近距離武器で俺は武器を持っているというモノ。


 つまり、彩羽の固有(ユニーク)スキルは発動しない。


「ゲーマーだからこそ。俺は勝てる」


 裏を返せばゲーマーでなければ、知らなければ逆立ちしても敵わないだろう。


 ・

 ・

 ・


「エクストラバレット!!」

 俺は武器弾幕を彩羽に向かって掃射した。


「鬱陶しい!」


 重力魔法を付与され軽く、遅くなった武器群。

 彼女の前に出現した氷壁。

 そこに幾多の武器が刺さる。


 付与した雷魔法と火魔法を発動させ、氷壁に亀裂を入れる。

 再度エクストラバレットを放つ。

 フェイクを入れる。

 何度もフェイクを入れる。

 もう一度、彩羽には飛び道具による攻撃が当たらないと植え付けさせろ。


 先入観を植え付けさせるんだ。


「エクストラバレット!」

 七色の閃光を放つ凶器の雨が彩羽に飛んでいく。


「きかねぇって言ってんだろ!」

 彩羽は笑みを浮かべていた。


 わかってるさ。

 わかってんだよ!


「行くぞ!」


 武器の残機がなくなっていくのがわかった。

 暗器(アーツ)で格納できる武器には限界がある。


 残り38発。


 38手以内に勝負を決める。


 ―――高速思考―――

 ―――身体強化―――

 ―――タキオン(超高速移動)―――


「な!?」

 彩羽は驚愕の顔をして防御態勢に入った。

 あいつの周りには凍結空間と重量力場が発生しているだろう。

 常にそれを展開している。

 魔力の量は膨大なのかもしれない。


 しかし、ここまで戦っていれば既に半分以上はMPは削れてるはず。

 もしかしたら気取られないように既に殆どの魔力は使ってるのかもしれない。


「ならば王手は間近だ」


 俺の魔力は付与以外は殆ど使用してない。

 そもそも俺には膨大な魔力なんてモノはない。

 戦闘の殆どはチートとプレイヤーとしての立ち回りで構成されている。

 そしてこの世界で得た身体能力という努力の結果だ。


 ここに差がある。

 そしてあいつのスキルによる慢心。

 ここに付け入るスキがある。


 スローになった世界で俺はトラッキングバレットを展開する。

 両手に持つ得物以外の武器、36本をトラッキングバレット(追尾する弾丸)に変える。

 

 彩羽はスローの世界に取り残されている。

 これらをまだ視認出来ていないだろう。


「こじ開けさせて貰うぞ。絶対防御を!」


 俺は氷塊を避けながら彼女に駆け寄る。

 現実の世界では刹那の瞬き。

 追尾する武器の弾丸は四方八方に彩羽に飛来する。


 彩羽の目の前で、

 10の剣は、動きが遅くなった。


 10の槍は、斥力により明後日の方向へ向きを変えた。


 10のハルバード()は、磁石のように引き合った。


 30の武器は既に防がれている。

 それ以外のルートを探る。

 残り6本。


 2枚の盾。両足の脛を狙う。弾かれる。……失敗。


 2本の短剣。首筋の脊椎を狙う、それは氷漬けになり砕け散った。……失敗。


 2本の鎌。こめかみを狙う。上方に軌道を変えた。……失敗。


「チッ」

 トラッキングバレットを全て防がれちまった。

 これで決めきれればよかったが。

 

 手元にある剣と槍のみ。

 それ以外の軌跡。

 ……ある。

 一度も攻撃を通したことのない場所。

 奴の防御の穴。

 そこを俺は攻撃した事がない。

 本来、本気の戦いで決して狙う事のない箇所。

 本気の(いくさ)で狙う余地のない場所だ。 


 ―――スキル全解除―――


「い!?……つの間に!?」

 彩羽は突如目の前に現れた俺を視認する。

 既に多くの武器弾幕が瞬時に彩羽自身の周囲に展開されていた。

 それを目視しての驚愕が含まれていた。


 俺は、トラッキングバレットを緩めない。

 左手に持つ剣で彩羽の首を直接狙う。


 ニヤリと彩羽の歯が見えた。

「面白いけど……へへ。その……程度か。ボクの勝ちだ」

 彼女は間合いに入ってきた俺に拳を振り上げる。


 いいや。違う。

 これはフェイク。

 この一手はお前の絶対的な防御を眼前に集中させる為の布石。

 お前の魔力を目の前に集中させるおとり


 動きの緩やかになった剣が徐々に加速し、彩羽を狙った。

 『スキルで無効化できる』

 そう確信している、慢心している笑みが彼女には浮かんでいた。


「ハッ!?」

 スキルにより無効化されない追尾する弾丸が、彩羽の頬を掠った瞬間。

 彼女はその卓越した戦闘センスで、身体を捩じり、数多の弾丸を紙一重で躱そうとする。

 それは人間の反射であった。

「なぜ!? クッソ!?」

 彩羽の驚愕の表情。

 飛び道具による攻撃が当たった事への恐怖。


 彼女はその動揺を1秒にも満たないスピードで冷静に切り替える。


 

 これでも決めきれないのか……

 お前は強すぎるよ。


「そう。お前の強みはそのクールさ」

 その頭の切り替えしの早さ。

 それがお前の最大の強みだ。



 彼女は無作為に展開していた魔力消費の効率が悪い全体防御を緩める。

 その魔力の揺らぎを俺は見逃さない。


  

 最後の一手だ。 

 これ以上の手札は今の俺にはない。 

 これがもし防がれたら俺の負け。



 獲物を狙う俺の一撃。

 彩羽はトラッキングバレットによる数多の刃に集中する。

 彼女はそれを全力で叩き落とすかのように、攻撃を受けるだろう箇所に魔力を集中させる。



 重力と氷結による防御。

 彩羽は、凶器が迫る顔、胴体、下半身に展開しつつあった。

 


 ――――刹那の攻防――――



 攻撃を受けている箇所に防御を集中させるのは当然。


「斥!」

 斥力を操る高度な魔術を展開する。

 それは幾枚のトラッキングバレットを弾く事で精一杯であった。


 俺の前ではそれは悪手。

 なぜなら俺はそれを待っていたのだから。

 魔術式『斥』を使わせる事。

 魔術の重ね掛けである混沌魔法はこの世界の人間には使えない。

 

 あれはプレイヤーの知識がなければ使えないチート。

 

 『斥』をもう一度使うにはトラッキングバレットを弾いた後でなくてはいけない。

 弾かなければお前にトラッキングバレットの刃が襲うから。


 お前の重力魔法の選択肢は、

 引き寄せる『引』。

 重さを加える『重』。

 軽くする『軽』。

 大きくこの三つしか現状ないはずだ。



 お前は超級魔法を習得していない。



 『引』はない。俺を引き寄せれば、それはお前の自滅を意味する。

 『軽』これもない。軽くした所で俺の攻撃は止められない。

 ならば選択肢は物体に圧や重みを掛ける『重』しかない。

 


「俺の勝ちだ」

 虚勢半分、本気半分で俺は彩羽に笑いかける。


「ウソだろ」

 彩羽は刹那の攻防から取捨選択した自分の一手が間違っていたのかと。

 今気づいたかのような。

 

 そんな一言を発した気がした。

 音を置き去りにした。 

 

 ―――入門(超高速世界)―――

 

 高速思考と身体強化とタキオンのコンボ技で超高速の世界に入門する。

 脳みそがぶっ壊れそうになった。

 鼻血が出た。

 指の骨が軋む。

 何度も超高速移動を短時間におこないすぎている。

 その負荷が身体に深刻なダメージを負わせた。

 加えて俺に超重力による負荷が徐々にかかり始めていた。



 まだだ。

 俺は彩羽に勝って仲間にする。



 彼女の視線は俺を追えていない。

 魔力の揺らぎ。

 一瞬のスキ。ここしかない。

 人間の死角。


「ここだ」

 最も守るべきである頭上。それは第一に守るべき箇所だ。

 ここを俺は敢えて狙わなかった。

 正確には狙えなかった……だが。 

 彩羽は防御陣形を無作為から作為に変更している。

 

 ここがタイミング。

 慢心と死角、驚愕から狙う最後の一手。


 ――― つむじ ―――

 

 それも針の穴程度の箇所。

 ここが弱点ウィークポイント

 この位置だ。この位置が彩羽の弱点。魔力の揺らぎの一点。

 今、最も防御の薄い箇所。

 彼女が重力と氷結力場に穴を空けているだろう空気孔(くうきこう)

 


 俺は彩羽の、文字通り脳天を狙う。

 針糸を、極めて小さい針穴に通すかのように。つむじの、極めて小さい箇所。

 そこに槍の刺突(直接攻撃)

 

 毎秒270連の模倣した神速斬(偽りのユニーク)……

 改め、神速の刺突(ストライクゼロ)を放った。


 最後は力技で絶対の守り(コキュートス)を突破する。


「悪いな。俺の勝ちだ……」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 仮想空間の訓練場では死ぬ事はない。

 しかし肉体的疲労も魔力の減りは本物だ。


 俺はぜぇぜぇと息を切らして、訓練場の天を仰ぐ彩羽に駆け寄る。


「なに?」

 彩羽は不貞腐れた顔をして俺に視線を合わさず質問を飛ばした。


「俺の仲間になって……くれないか」


 もしここで断られたら。

 もう打つ手がないかもしれない。

 ここまでの強者。

 何としてでも仲間に加えたい。 


「……………嫌だ」


「え? マジで」


 終わったわ。

 オワタ。


「……嘘」


「ん?」


 耳を疑った。


「…………いいよ」


「いいの?」


「はぁ……こんなに強かったんだね。キモ()くん。参ったよ。ホント」


 彼女は清々しい顔をしていた。

 恐らくここまでの強者である彼女の事だ。

 生涯で敗北した事なんてなかったのかもしれない。


「実力を隠してるのはすぐにわかった。

 ここまでの魔素を放つ人間が浮遊なんて初歩の魔法しかできないはずがないと思っていた。

 」


「やっぱり気づいてたのか」


「まぁね。ボクの眼は誤魔化せないよ」

 汗だくの彩羽は美少女特有の笑みを浮かべた。

「にしても、君は本当に何者なの?」


「俺はファントムだよ。この世界を裏から救う者」


「キモ」

 フッと彩羽は笑うとゆっくりと立ち上がった。

「それよりもさ、私の眼鏡。新しいの買ってよ」

 

 仮想空間で保護されるのは肉体のみ。

 それ以外の物質は保護されない。

 彩羽のグルグル眼鏡は見るも無残な姿に変貌していた。


「彩羽は眼鏡してない方が可愛いと思うぞ」


「はぁ?」

 ポカンとした顔になる彼女。


「いや、ほんとに」

 美少女なのに勿体ないと俺は思う。


 彩羽は『ホント、キモいなぁ』と笑みを浮かべると。

「もうボク……私。魔力も体力もカラカラなんだよね」

 彩羽は学園の時と同じ一人称になる。

 足元を見ると震える足であった。

「おぶって」

 華奢な身体をした彼女は上目遣いで俺に頼んできた。


「へいへい。っとその前に」

 俺は転入したての頃のように手を差し出した。

 

 ここから始まるのだ。

 主力パーティーの結成。

 彼女とならやっていける。

 俺とこの世界で一緒に戦ってくれる最強の仲間の1人。

 (プレイヤー)が言うんだから間違いない。


「キモ……くはないか」

 彩羽も手を差し出し、お互い手を握り返す。


 俺達は共に握手をした。


「千秋でいい」


「ん?」


「ボクの呼び方。君になら呼び捨てでも構わない。ボクは傑と呼ぶ」

 千秋は一人称を私からボクに切り替えていた。

 素はこっちぽい。


「ああ。よろしくな。千秋」


「あ……そうか……」

 彩羽は頷くと。


 少しの間であった。


 彼女は一度目を瞑り、名前で呼ばれた事を噛みしめるかのように微笑むと。


「君の勝ちだ。よろしくね。傑くん」


 まるで明ける事のない晩冬極夜に吹き荒む吹雪が晴れたかのような。

 雪嶺が春を迎えるかのような。

 そんな透き通る秋晴れに似た彩羽千秋の笑顔があった。

 


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― 新着の感想 ―
メガネ外すな委員会のものですが少しお話がありまして、つきましてはあちらの詰所までご同行願えますかな?
[良い点] めっちゃおもしろい [気になる点] 最初の部分の編み出したのさの部分に誤字
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