リベンジマッチ② ストゼロと氷結ストの飲み過ぎは身体を壊すので気を付けろ
「氷瀑式展開。氷結せよ!」
彩羽の掛け声と共に、辺り一帯は冷却される。
空間に漂う熱量が奪われ温度が変わる。
分子間運動の激しさが変わり、その熱運動は緩やかになる。
地面は白く凍り。
空気は一気に冷却されていく。
吐く息は一瞬で白くなった。
氷晶が散ったかと思うと……
眼前には、氷の礫が幾つも浮かんでいた。
「飛翔せよ!」
彩羽は叫ぶと、氷の弾丸が雨のように降り注ごうとしていた。
またかよ。
「これ好きだな」
くそ強いけど。
「エクストラバレット!」
相殺するように所持する武器を惜しげもなく打ち込む。
全てを相殺できるかのように思えたが。
「甘いんだよ!」
彩羽は拳を地面に叩きつけると。
隆起した氷柱が、地面を伝い剣山のように俺に迫って来る。
標的を氷漬けにする禍々しい氷塊が目の前に乱立していく。
「面白れぇ」
俺は笑みを浮かべた。
―――高速思考―――
―――身体強化―――
―――タキオン―――
―――入門―――
スローになった世界で。
現実の時間で俯瞰、比較すると、その動作はまるで神速と言わざるを得ないスピードで俺は動く。
金魔法発動……強化……完了。
風魔法付与……構築完了。
魔術公式証明終了。
―――加速せよ―――
――斬撃――
――斬撃――
――斬撃――
――斬撃――
刹那の斬撃を放つ。
抜刀の連撃。毎秒270連の斬撃。
感謝の素振りにより開眼した近距離技の秘技。
この世界で開眼した絶技だ。
俺は固有特殊行動、神速斬に匹敵する絶技を繰り出す。
模倣した固有アーツ。
俺は氷柱を全て叩き折り砕く。
――時は再び元の流れに戻る――
全ての氷塊は粉微塵になった。
「な!?」
彩羽は目を丸くし絶句した。
俺は抜刀撃を静かに納める。
その瞬間、斬撃を行った武器が、石灰のように脆く崩れ去った。
鼻血が人中を伝うのが分かる。
脳に、肉体に超負荷が掛かっていた。
足元がふらつき、焦点が定まらなくなり、一瞬目の前が白くなる。
「集中しろ俺」
俺は、まばたきを意識して行い、意識を集中させる。
……連続でこれを行うのは危険だな。
脳と身体が異常に発熱してるのがわかる。
肉体のタンパク質が異常な高温になっているのが把握できた。
チーターは獲物を狩る際、高速で移動できるが、彼らはその加速を連続で行えない。
それは肉体と脳に異常な負荷を掛ける為だ。
加速を続ければ肉体の熱量が脳と筋肉を沸騰させ、肉体を構成するタンパク質に変容を起こし、筋肉や脳は解け死に至る。
熱中症による自滅みたいなもんだ。
身体強化をしてるとはいえ、無理な負荷は俺の寿命を縮めかねない。
俺は聖属性魔法で損傷してるだろう脳や全身の筋肉に治癒を行う。
サッと袖で鼻血を拭い、疲労とダメージを気取られず。
冷静に彩羽を見据えた。
驚きの光景から硬直していた彼女。
ようやく発する事ができた言葉は、
「嘘でしょ……何を……したの」
何が起こったのか理解できないのか動揺を隠せなくなる彩羽。
「どうした? そんなもんか?」
俺は努めて彼女を挑発する。
「このボクを…………生涯……全力を使った事のない。
このボクを本気にさせるなんて!
………………いいねぇ。滾る!」
彩羽は頭を振るい、トレードマークのグルグルマークの付いた眼鏡を乱暴に投げ捨てた。
眼鏡を外した彼女は深紅の瞳。
そこにあったのは狩人の眼。
数多の人間をこの世から葬ってきたとさえ錯覚する殺意と興奮に満ちた眼光。
「そうこなくちゃな」
俺はアーツで細剣と長槍を取り出し、
左手に持つ剣を胸の前に構え、
右手に持つ槍をいつでも刺突ができるように後方まで振りかぶる。
・
・
・
本気と本気の戦いは熾烈を極めた。
既に30分以上の膠着状態。
にも関わらず、彩羽の奴は疲労を見せない。
底なしの魔力量だ。
改めて異常な存在だと再認識した。
俺は一切気を抜かず走り抜ける。
強敵。
やはり強者。
初めて彩羽に強襲を受けた時よりも強くなっているはずの俺。
それでも、決定打を欠いている。
あいつに一発、顔面に拳を打ち込んだ。
それから、彩羽の眼が変わったのだ。
攻撃の多彩さ、迫力、威力が以前よりも過激に、かつ熾烈になった。
―――
――
―
俺は彩羽を勧誘し、
俺と彼女と二人で訓練場の仮想空間で一騎打ちをする事になった。
一騎打ちの経緯は、彩羽の希望。
俺は挑戦者。
俺は彼女に試されているのだと。
故にここで戦っている。
訓練場は岩場、森林、廃墟の混合ステージ。
ゲーム時代、ここにはキャラの動作を確認する為お世話になった。
―
――
―――
訓練場のブロック塀の遮蔽物が砕け散った。
氷魔法により、凍結されたブロック塀はガラスのような強度になり非常に脆くなっていく。
「相性が良すぎるんだよな!」
武器弾幕を地面に放ちそれを爆破させた。
辺り一帯に砂塵が舞い、俺と彩羽の間に目くらましを生み出した。
その隙に広い訓練場の森林エリアに身を潜めた。
左右上下の強力な引力や斥力をコントロール。
全ての武器弾幕は、飛び道具/放出魔術無効化スキルの前で意味をなさなかった。
直接攻撃は全て斥力や垂直降下型の重力により、いなされる。
氷魔法は、火や風と違い過重な"質量"を生み出す。
重力魔法は、固形化された水分、氷結塊である質量のある物体を力積により強力な凶器に変貌させる。
重く、軽く、しなやかに、それでいて疾く。
固形から液体へ。液体から気体へ。気体から固体へ。
それを自由自在に操る氷魔法。
氷魔法の本質は、単純に氷を生み出す能力ではない。
リアルになった世界でわかった事。
真の能力は"熱量"、"運動エネルギー"の操作。
それが冷却の一点しかできないというモノ……
いいや。こう言い換えよう。
分子間運動を緩やかにする。
辺りの熱量を奪う能力。
それが彩羽の持つ真のチカラ。
任意に凍らせたモノに魔力の伝達を止めれば、液体や気体に戻る。
単純に凍らせたモノと、任意に凍らせたモノこの二つが存在している。
見分けるには、小町の持つ固有スキルぐらいしかない。
魔力の切り替えし。
固体を気体に替えるなどを瞬時に行い、生み出した氷塊によって自身の行動に制限がでないように見事な立ち回りを生み出す。
多彩な戦術を生み出している。
俺はあそこまで魔法を極められない。
加えて重力による左右上下の運動量操作。
「スキがねぇ」
笑みがこぼれた。
強すぎて笑った。
小石程度の大きさの氷粒。
それは、重力魔法の斥力と過重化により弾丸のような威力になる。
加えて標的を氷漬けにすれば、凍らされた獲物の防御力はガラス細工さながら。
自分の攻撃にはバフ。
獲物、標的にはデバフ。
スキルと自身の魔法の特性を活かしたコンビネーションによる絶対的な防御。
武器術は近接特化ときている。
遠近両用全くと言ってスキがない。
「この世界に来て……出会った中で……やはりお前が一番強い」
上級ダンジョンのボスより明らかに強い。
この学園でも随一の実力者なんじゃなかろうか、とすら思えてくる。
勿論強キャラは数多く居るが、今まで対峙した中で間違いなく一番強い。
「必ず勝つ」
俺は息を整え、自分自身に宣言した。




